もう一度、外国語にチャレンジ スペイン語を学ぶ ~スペイン編~

第15回(最終回) 旅の終わりに

                       文・写真 伊藤ひろみ

 

外国語学習に年齢制限はない!――そう意気込んで、国内でスペイン語学習に挑戦したものの、思うように前進しない日々が続いていた。そんな停滞に歯止めをかけるべく、現地で学んでみようとメキシコ・グアナフアトへと向かったのが2023年2月。約1か月間、ホームステイをしながら、スペイン語講座に通った(くわしくは、「もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~」をご参照ください)。

1年後、再び短期留学を決意する。目指したのはスペインの古都トレドである。

 

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<第15回(最終回)> 旅の終わりに

 

アルカチョファって何?

今夜の夕食はマルタと夫のダビッド、アメリカ人のフアンがそろった。娘のエレーナは、ボーイフレンドと外出していて、戻ってくるのが少し遅くなるらしい。今日のメニューは、“pollo de almendoras”(ポージョ・デ・アルメンドラス)だとマルタが教えてくれた。pollo は鶏肉、almendorasはアーモンドのことで、日本語にすると「鶏肉のアーモンド焼き」くらいだろうか。アーモンドの風味が香ばしく、なかなか美味。フアンも気に入ったようで、お替わりをリクエストしている。「明日はalcachofaのごはんよ」と彼女が言う。「ん、alcachofa(アルカチョファ)って何?」

フアンも私もお気に入りの一品、ポージョ・デ・アルメンドラス

 

わからなかったのは、私だけでなかった。フアンもきょとんとしている。どんな料理かと尋ねたところ、alcachofaは英語でartichokeアーティチョークのことらしい。日本でも近年知られるようになったが、欧米ではポピュラーな野菜のひとつ。明日はそれを入れた炊き込みごはんを作るつもりだと伝えたかったようだ。

「alcachofaは日本語で何ていうの?」というマルタの疑問に、「アーティチョーク」と返す。スペイン語よりはいくぶん英語に近いといえなくもないが、やはり日本式の発音である。

フアンが英語での発音を繰り返す。マルタたちが彼のあとについて、英語でartichokeと言おうとするが、舌がうまくまわらない。

いつのまにか、スペイン語、英語、日本語の発音教室状態になっている。私には、どっちもどっちか。お互いにそれらの発音を練習してみるのだが、みんなうまく言えなくて大笑い!

食事時間はおしゃべりタイム。私にとっては生きたスペイン語を学ぶ時間でもある。誰もがこうやってひとつずつ覚えていく、慣れていくしかない。

アーティチョーク入りの炊き込みごはん。この鍋で米と合わせて調理する

 

マルタたちと過ごす時間の中で

食事時間だけにあらず。マルタたちと行動をともにしながら、多くのことを学んだ。

滞在中、映画の特別イベントがあり、いっしょに見に行った。旧市街には、ロハス劇場(Teatro de Rojas)というりっぱな劇場があり、映画はそこで鑑賞した。午後7時から、あるいは10時からのスタートだったので、仕事を持つ彼らも問題なかったようだ。連れていってもらったのはありがたかったが、肝心の映画はスペイン語オンリーで字幕なし。私にはハードルが高かったが、スペイン語学習への新たな刺激になった。

旧市街にあるロハス劇場。外観、内装ともに贅沢な造り。コンサートや演劇などさまざまな公演プログラムをおこなっている

 

仕事が終わってから、家族そろって遅めの夕食をとったり、お出かけしたりと、彼らは夜の予定もなかなかハードにこなす。仕事も家庭もそして余暇も、めいっぱい「楽しむ」。彼らにとっては当たり前の日常かもしれないが、日本での生活からは、ずいぶんかけ離れた世界にいるように感じた。

 

トレドで過ごした1か月を思う

マルタ宅を離れる日が近づいている。

旧市街散策はすべて徒歩圏内。治安もよく、ひとりできままに町歩きができる気軽さもありがたかった。博物館、美術館、教会、シナゴーク、モスクなどが点在するだけでなく、ローマ時代から現代まで続く多くの歴史的遺産にふれることができた。予想以上にトレドの町は奥が深かった。

そして、ホスピタリティにあふれたマルタ家族と出会ったことは、何より得難い経験だった。

 

やはり、である。多少は慣れたとはいえるが、たかだか1か月ほどの滞在でスペイン語が急にうまくなるわけはなかった。だが、くじけそうになっていたスペイン語学習へのモチベーションを高めたという意味では貴重な時間だった。

若いときに比べて、覚えが悪い、耳が衰える、口がまわらないなど、言い訳はいくらでもできる。日々何かと雑事にふりまわされがちで、そもそも学習時間を作るのさえ大変なのだ。

しかし、いくつになっても新しいことは始められる。学ぶ喜びはみな平等にある。努力の先には、必ず得られるものがある。

世界は広い。世界は多様だ。そして、言葉は奥が深い。今も昔も。そしてこれからも――。

滞在中に何度か歩いたタホ川沿いの散歩道は、静かで落ち着いた雰囲気。クールダウンするのにぴったりだった

 

 

「スペイン語を学ぶ ~スペイン編~」は今回で最終回です。最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。Nos vemos pronto.

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

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