第5回 ¡Bravo España! スペインの底力を見る
文・写真 伊藤ひろみ
外国語学習に年齢制限はない!――そう意気込んで、国内でスペイン語学習に挑戦したものの、思うように前進しない日々が続いていた。そんな停滞に歯止めをかけるべく、現地で学んでみようとメキシコ・グアナフアトへと向かったのが2023年2月。約1か月間、ホームステイをしながら、スペイン語講座に通った(くわしくは、「もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~」をご参照ください)。
1年後、再び短期留学を決意する。目指したのはスペインの古都トレドである。
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<第5回> ¡Bravo España! スペインの底力を見る
アルカサールの中にあった意外な施設
マルタとのお出かけ第2弾。彼女の案内でトレド旧市街を歩いた。
「ヒロミに見せたい場所がある」と、彼女が連れて行ってくれたのはアルカサール(Alcazar)。軍事博物館の展示を見るのかと思いきや、建物の南側へ回った。紹介したいのはこの建物の中にあるという。
セキュリティチェックを受けたあと、エレベーターで上階へ。そこにあったのは図書館だった。受付カウンターを抜け、マルタは中へ入っていく。「私も入っていいの?」と尋ねると、誰でも利用できるから問題ないとのこと。マルタの後に続き、興味津々で中の様子を見学する。
受付カウンター近くには、雑誌・新聞コーナーがあり、さまざまな言語の印刷物が並んでいる。奥へ進むと、閲覧室や資料室など複数の小部屋がある。最も立派な閲覧室は天井が高く、両側の壁面には、2階まで蔵書がずらり。ここには150もの閲覧席があるという。蔵書検索はもちろんインターネットやオフィスアプリケーションが利用できるPC席も設置されている。

席数も多く、ゆったりと静かに資料と向き合える閲覧室
さらに、絵本などが充実している子供ための部屋、トレドの地域資料が充実したコーナー、会議室などがあり、必要な場所、好きなスペースでゆったり過ごすことができる。
互いを知る、互いの言語を学ぶ
マルタが日本語を勉強したいというので、日本語のテキストを探す。現在、彼女が知っている日本語は「こんにちは」「ありがとう」程度だが、過去に日本人学生を何人か受け入れているようだし、今後も日本人が滞在する可能性もある。今回私が来たこともあり、日本語学習に取り組みたいという思いが強くなったのかもしれない。日本語コーナーの中から彼女に薦められそうな数冊を選んだ。マルタは日本語を、私はスペイン語に精を出す。お互いに言語の壁が乗り越えられることを願って。
ボルボン・ロレンツァーナルームと呼ばれる部屋は、ダークブラウンの重厚な造り。ちょうど本のデザイン特別展を開催していたので、マルタといっしょに展示物を眺める。ちょっとした博物館並みの様相を呈しているのに驚かされた。

特別展を開催していた部屋。興味深い展示物が盛りだくさん
私が最も気に入ったのは、窓辺にある椅子席。トレドの旧市街の景色を眺めながら読書が楽しめる。
スペイン人、トレド人の気概と誇り
この図書館の正式名称はBiblioteca de Castilla-La Mancha(ビブリオテーカ・デ・カスティージャ・ラ・マンチャ)。ビブリオテーカはスペイン語で図書館を意味し、カスティージャ・ラ・マンチャは、トレドが属している自治州の名称(19ある州のひとつ。ちなみに、スペインはこれら州の下に50の県が置かれている。トレドは、トレド県の県都兼カスティージャ・ラ・マンチャ州の州都)。この図書館はトレド県民のみならず、州の公的施設としても広く利用されている。
カスティージャ・ラ・マンチャ図書館としてこの場所に開館したのは1998年。その起源は古く、18世紀後半に遡る。当時の国王、チャールズ 3 世の令により、ロレンザナ枢機卿が開設した大司教図書館がその始まりだという。現在、約50万冊の蔵書のほか、DVDやCD、電子書籍、新聞など68万点を超える資料が保存されている。
案内を確認すると、「この地域で重要な図書館であり、スペイン国内で最も有名な図書館のひとつ」と紹介されている。図書館自体が広く、閲覧席も多い。すべての国民に開かれた図書館としてだけでなく、外国人の私でも利用できる場所として存在する。
「うらやましい!」マルタに漏らしてしまったひとこと。こんな図書館がすぐ近くにあるなんて。私が暮らす東京都某区の図書館とは雲泥の差である。図書館自体が狭いし、蔵書は少なく、閲覧席は常に取り合い状態。新聞・雑誌コーナーは主に高齢者が陣取り、机まわりは自習する学生でびっしり埋まっている。そんな実情を思い浮かべるだけで情けなくなる。歴史、施設の充実度、幅広いサービスなど何をとっても桁違い。
さすがスペイン! あっぱれトレド! この図書館だけをとっても、彼らが何を大切にしているかがよくわかる。なるほど、彼女が私に紹介したいと言った理由に合点がいった。

廊下の左に見える椅子席で旧市街を眺めながら読書ができる。お気に入りの本を片手に、ひとり静かに過ごせそうな贅沢な場所
町歩きは発見の宝庫
マルタが「上も行ってみましょう」と手招きするほうへと続く。階段を上ると、小さなカフェがあった。ここはアルカサールの最上階にあたり、トレド旧市街の最も高い場所になる。ここから眺める景色の美しさ! 一息入れながら、くつろぐにはもってこいの場所だった。

カフェから見た旧市街の様子。町の全景が堪能できる
図書館&カフェ見学を終え、家路へ向かう。トレドのメインストリートを北へ歩くと、左手にはソコドベール広場(Plaza de Zocodover)が見えてくる。広場を取り囲むように、カフェやレストラン、みやげもの店などが軒を連ねる。案内ガイドと観光客、待ち合わせをする人たち、ストリートパフォーマーなどが入り乱れて賑わう。
広場のさらに北には、サンタ・クルス博物館(Museo de Santa Cruz)。そのすぐ近くには、なんとエスカレーターが!
3本乗り継いで下へ。これは便利! もちろん、上りもある。こんな移動手段があったとは驚き(図書館へは別の場所から向かったため気づかなかった)。目的地によるが、ソコドベール広場やアルカサールへ行くときはこれを使わない手はない。
地図では発見しづらいことも、リアルな体験を通して知ることは、少なくない。

旧市街に出入りできるエスカレーター。左手に見えるのは新市街地
[ライタープロフィール]
伊藤ひろみ
ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。