第14回 僕が(多分)同性婚をしない理由2
平良愛香
同性婚を認めてほしいと言っている人の声をもう少し掘り下げてみます。
いきなりですが、僕とパートナーが割と好きなラジオ番組が「人生相談」です。「世の中にはいろいろな悩みがあるんだなあ」と思いながら二人で聞くことがあるのですが、ときどき「相続」がテーマになっていることがあります。父親の名義だった土地や家屋が父の亡きあと長男の名義になった。その長男も亡くなったが、長男の妻と長男の弟や妹で所有権についてもめている、といったような相談を聞きながら、「長男のパートナーが男性だったら、もめることすらできないんだろうなあ」と感想を言い合ったりします。財産が「欲しい」ということではなく、その「権利」が与えられいない、ということを感じるのです。
連載で昨年10月(第9回)でも書きましたが、男女のカップルの片方が外国籍だった場合、婚姻すれば配偶者ビザによって在留資格を得ることができるものの、同性カップルには配偶者ビザは出ない(数年前に特例が1件認められましたが)ため、日本人と外国人の同性カップルの中には、二人で安心して暮らすために海外に移住してしまう人も少なくありません。また(これも第9回で触れましたが)、税金は婚姻している夫婦であれば控除が発生して二人分払わなくてもいいのに、事実婚であるときっちり二人分払うことになります。つまり、独身だったり事実婚だったり離婚だったりで税金が高くなってしまう。これを「あたりまえ」「仕方ない」と見るか、「おかしい」と見るかについてはそれぞれで考えて頂きたいのですが、それを「選べない」という状況が同性カップルにはあるのです。
お気づきでしょうか。同性婚をしたいと言っているカップルは、ロマンチックなことを求めているのではなく、「法的に不利益を被っている」ということを訴えているのです。
「親族以外面会禁止」となると面会できなくなる同性パートナーや、葬儀の席では遺族席には座らせてもらえなかった同性パートナーの話も聞いたことがあります。これらの話は「同性婚を認めていないから」という話とは少し異なりますし、結婚していなくても病院や葬儀社などがパートナーと認めて対応してくれる、ということも最近はあるようなのですが、法的に同性婚をしたカップルであったならば、ハードルはもっと低くなるだろうなあ、と思います。
けれど、ここまで「同性婚が可能になったら乗り越えることができる様々なことがら」を書いておきながら、僕たちカップルは「同性婚ができるようになったとしても、多分しないね」という話をしています。なぜでしょう。(自分でハードルを上げてしまった感じもするなあ。説得力のある話がこのあとできるのかどうかは、実はあまり自身はありません。でも直観で「僕たちは結婚は望んでいないね」という話をしているのです。)
僕たちが法律婚を望んでいないのは、大きく二つの理由があるように感じています。一つ目は、「法律婚ができないことのデメリットをあまり感じていない」ということ。もう一つは、「事実婚でさえ、あまり望んでいない」ということです。もしかしたら二つ目のほうが先にあるのかもしれませんが、まず一つ目から述べてみたいと思います。
「法律婚ができないことのデメリットをあまり感じていない」について。これは明らかに、二人とも「男性」であること、そして二人とも「日本国籍所有者」であることが背景にあります。片方が外国籍の場合、配偶者ビザが取得できないというのは大きなデメリットです。しかしたまたま僕たちは二人とも日本国籍をもっているため、「日本人としての既得権」があるのです。すなわち「婚姻できないから日本にいられなくなる」ということが起こらないのです。当たり前のことのように思えるかもしれませんが、「僕たちがデメリットを感じていない」というのは、裏返せば、「(同性愛者であろうとなかろうと)外国人であるために不利益を被っている人がいる」「(日本国籍を持っているというだけで)制度的に僕たちは利益を得ている側にいる」ということでもあるのです。大学でそんな話をすると、「私は日本国籍で良かった〜」とリアクションする学生がいるのですが、本当に考えてほしいのは、「私たちは得をしている」ということは「あたりまえ」とか「ラッキー」とかではなく、「その制度によって不利益を被らされている人たちがいるけど、それでいいのか?」ということを考えてほしい、ということなのです。だんだん話が難しくなってきたかも〜。
とは言いつつ、正気なところ、僕たちが「(同性婚を認められるようになったとしても)婚姻制度を利用したいと思っていない」のは、そういった「日本国籍の有無で格差が生じるなら、あえて不利益を被る側に身を置いて問題提起をする」といった深い意味があるわけではなく、単純に「二人とも日本国籍をもっているから婚姻しなくても日本に居続けられる」ということに甘んじているだけだとも言えます。これはもう一つの「男性であること」と密接に関わってきます。
(続く)
[ライタープロフィール]
平良愛香(たいらあいか)
1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。