近代神秘集:生きもの編

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近代神秘集:生きもの編 第15回 オアシス守り

オアシス守り 1 俺はオアシスの番犬である。 砂色の毛並みの背中には黒い筋が走り、胸の毛は白い。 大きな耳は遠くの音まで聞き取り、鼻は風に乗ってくる匂いを逃さない。 日に焼けた土壁の陰に座っていると、旅人からは頼もしい犬だと言われる。 俺の...
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近代神秘集:生きもの編 第14回 アントミル――空洞考

アントミル――空洞考 1 列の中で ぼくが生まれたとき、世界はすでに列になっていた。 湿気が巣の壁に染み込み、脚音が細い通路の奥から絶えずさらさらと響く。かすかな震えが、地面の奥で眠るように続いている。 ぼくは働きアリだ。 草花の種、虫の脚...
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近代神秘集:生きもの編 第13回 擬死――カナブンの条

擬死――カナブンの条 1 樹液の宴 わたしはコナラの幹にしがみついていた。 夜の森は静かだが、その内側では小さな奪い合いが続く。飴色の樹液が裂け目から滲み、熟れた果実のような甘い匂いが漂っていた。 樹皮に一対の鉤爪こうそう(脚の爪)を食い込...
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近代神秘集:生きもの編 第12回 秋津虫の唄

秋津虫の唄 1 異変 風はわずかに湿り、乾ききらない気配を翅にまとわせていた。 低く差す光の中で、草も木もバラバラに揺れた。 「今度の風、揃ってない」 下から声が上がった。 「遅いな、アキアカネ」 煤けた体色のハエが、空中で細かく羽音を刻ん...
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近代神秘集:生きもの編 第11回 痛みの地図

痛みの地図 1 奪うものの朝 馬の血が、あたいを生かしている。 それだけは確かだ。ほかのことは、よく分からない。 朝の光が馬の背をなぞり、黒毛は熱を抱いてゆるやかに湯気のような匂いを立てていた。 近づくだけで翅の奥がざわめいた。あたいの体は...
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近代神秘集:生きもの編 第10回 シジュウカラ断境録 

シジュウカラ断境録 第I部 火 1 煙の朝 スズカケの枝先で、足の位置をわずかにずらした。 枝に体重をかけた瞬間、予測と違う揺れが伝わる。その違和感を確かめるように、枝先の振動に意識を集中させた。 枝は、わずかに沈む。意識するより早く、爪が...
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近代神秘集:生きもの編 第9回 雪母――猫譜

雪母――猫譜 1 斜面 淡い風が雪面をなでるようにすべり抜けていった。 ぼくは猫だ。明るい茶色の体毛は雪の反射を受け、金粉のようにきらめく。背中をかすめる冷気が、体毛の根元をぞくっと震わせた。 ここが山道を覆った雪の斜面であることが容赦なく...
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近代神秘集:生きもの編 第8回 蝶柱――ホソバセセリ抄

蝶柱――ホソバセセリ抄 1 森の縁(へり) 風が、地表の草を一方向へ倒していた。葉の裏がいっせいに白く返り、そこだけ光が滞(とどこお)った。 あたしはホソバセセリ。茶色の地に白い斑点の翅を持つ蝶だ。 陽の当たる側を選んで生きてきた。開けた草...
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近代神秘集:生きもの編 第7回 光の筋を越えて――ハンミョウ記

光の筋を越えて――ハンミョウ記 1 赤い帯の誇り 林道の上に、光の筋が走っていた。草の葉が風に揺れ、キラキラ輝いている。 細い陰の間を、私は金属の光を閃かせて駆け抜ける。前翅が七色に染まり、背の赤い帯が自慢の種だ。 思わず言葉が出た。 「こ...
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近代神秘集:生きもの編 第6回 灰色の匂いに牙を立て――猪記

灰色の匂いに牙を立て――猪記 1 山里の余震 朝の光は、砕けた山の稜線に柔らかく滲み、空気の中へ静かに溶け込んでいた。鼻先をくすぐるのは、むき出しの土と裂けた根の匂い。そして、わずかに焦げた木肌が残す、結構鋭い香りだった。 大地が身震いした...