赤毛のアンのお茶会 第43回

第43回 なぜマリラはギルバートの父親と別れた後、独身を貫いたのか?

 南野モリコ

 

「赤毛のアン深読みニスト」南野モリコです。ぼちぼちと過ごしやすい気候になってきましたね。 さて今月は、なぜマリラは結婚せず独身なのかを深読みしてみました。「ふーん、へー、そんな考え方もあるのね」と秋のグリーン・ゲイブルズの妄想に浸りながら気楽にお読み下さい。

 

マリラは「男嫌い」?

 

『赤毛のアン』は、六十がらみの兄妹マシューとマリラが住むグリーン・ゲイブルズに「男の子と間違って」孤児院から送られてきた赤毛の少女、アン・シャーリーが持ち前の明るさで周囲の人々を魅了し、幸せになっていく物語です。

アンと結婚することを予感させるのはギルバート・ブライス。シリーズ第2巻『アンの青春』、第3巻『アンの愛情』では、アンとギルバートの友達以上、恋人未満の甘酸っぱい関係性が描かれますが、シリーズ1作目である本作では、「にんじん事件」のせいで、アンはギルバートを異性として意識するエピソードがありつつも、「大嫌い」と罵り続けます。

やがて2人は共にクイーン学院を受験することになり、学業においてライバル同士となっていきます。「にんじん事件」も遠い日になり、怒りのほとぼりも冷めつつあることを内心、認めているように思われる頃、思いがけない事実が判明します。なんと養母であるマリラはギルバートの父親ジョンと若い頃、恋愛関係にあったのです。

第37章でマリラはギルバートを父親のジョンの若い頃とそっくりだと話し、「ジョンと私は昔、仲良しだったんだよ。世間では、ジョンは私の恋人だって言ったものだよ」とアンに打ち明けます。「恋人だった」と断言しないのは照れ臭さからでしょう。

ロマンティックな恋愛や、パフスリーブのドレスに憧れるアンの女の子らしさを「ばかばかしい」の一言で片づけるような、恋愛とは縁のなさそうなマリラに、遠い昔、ロマンスがあったなんて。読者にとっては、思わずページをめくる手が速くなる衝撃の告白ですよね。

 

若いマリラとジョンは些細なことで喧嘩別れをし、そのまま元の鞘に収まることなく、別々の道を歩んで現在に至ることがマリラの打ち明け話で明らかになります。

ジョンはマリラと別れた後、ギルバートの母親となる妻と出会い、彼が生まれたのですよね。でも、マリラは恐らくジョンとの思い出を独り守りたいため恋愛から遠ざかっていったように想像できます。この時代は恋愛=結婚、ですから、マリラも現代の私たちよりずっと恋愛に慎重だったとしても当然ですよね。

しかし、どうしてマリラはジョンと別れてから、別の新しい恋愛をしなかったのでしょうか? 今と違い、独身が生きにくかった時代です。マリラがアヴォンリー村から出たことがなかったとしても、その気になれば出会いはあった筈です。それなのにマリラが独身を通したのはなぜなのでしょうか?

筆者モリコとしては、恐らくジョンが別格であっただけで、マリラ自身が「男嫌い」であったからではないかと深読みしました。

 

自分らしさを大切にしたマリラ

 

『赤毛のアン』シリーズには、ミス・ラヴェンダー、ミス・コーネリア、家政婦のレベッカ・デュー、スーザン・ベイカーなど、結婚をせず年をとった女性が数多く登場します。

彼女たちに限らず、本シリーズの女性の登場人物たちは「男は女より劣っている」と思っていることを言葉の端々から感じさせます。その最たるものがミス・コーネリアの「男の言いそうなことですわ」という口癖です。もちろん、医者になりブライス先生と呼ばれるギルバートのような彼女たちが認める一部の男性を除いては、という前提付きですが。

マリラもギルバートの父親、ジョンという特別な男性を除いた「男嫌い」だったのではと深読みせざるを得ません。その原因となったのは、もちろん兄のマシューです。自分から口を開くことなどなく、若い女性が苦手でおどおどしているマシューを見て育ったマリラ。男性にいいイメージを持てなくなっても仕方ありませんよね。

もし男嫌いでなければ、新しい恋の相手を見つけて、どこかで結婚という道を選んでもおかしくありません。前述したように、結婚しない女性は「オールドミス」と呼ばれ、今よりもずっと肩身が狭かったでしょうから。

ジョンとの思い出を胸に自分の生き方を貫いたマリラ。自分らしさを大切にするマリラだからこそ、アンの勉学好きを尊重してクイーン学院に進学し、教師となることを提案したのでしょうね。まあ、単なる深読みですけどね。

 

参考文献

モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

 

 

[ライタープロフィール]

南野モリコ

赤毛のアン深読みニスト。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。

Twitter:南野モリコ ID @names_stories

 

 

 

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