過ちは人の常、赦すは神の業 第1回

イントロダクション――勝木洋臣作品紹介

村岡啓一(弁護士)

ここに一人の障害を負った「作家」がいる。彼の名は勝木洋臣。まだ公的にデビューしたわけではないからカッコつきの「作家」だ。彼は合格が確実視されていた司法試験の直前に判明した脳腫瘍の緊急手術を受けた。術後、意識が戻るのに実に1年を要した。彼は、受験資格のある残りの2年間、ベッドに寝た切りの状態で、マヒした手でゲーム・コントローラーを操作して1字1字打ち込むという「気の遠くなる」方法で司法試験に2度挑戦した。司法試験史上、前例のない初めての挑戦だった。しかし、彼の頭の中の解答は「満点」であっても、それを答案に表現するためのIT技術の開発は追いついていなかった。彼は不合格だった。

私は彼の司法試験合格を応援する支援者の一人だった。彼が1年間の空白を挟んで入院していたK病院での闘病記――視点を変えれば、司法試験挑戦の体験記――を読んで、私は心底驚いた。重篤障害者の司法試験受験というドラマを軸に繰り広げられた、病院の関係者のみならず、有象無象の「支援者」の思惑と人間模様が、言葉を発しえない寝た切りの観察者の眼で的確に表現されていたからだ。この最初の作品『過ちは人の常、赦すは神の業』は5万8千字を超える。彼は、周囲からの勧めに従って、いくつかの小作品を書くようになった。それを紹介したい。

「作家」勝木洋臣の作品のスタイルは、ショート・ショートである。いまだ彼固有の世界が確立されているわけではないので、「習作の域をでていない」、「多様なジャンルの模索の時期」という評価も可能だ。しかし、私は彼の作品の中に、①普遍的なテーマへの問いかけ(「アイ・アム・ロボット」や「魂ムマシン/指輪物語」)、②法律の知識を基にした絶妙なオチ(「アベ氏の復活」や「天気の子の独自プロジェクト」)、③心温まる人間心理の綾の描写(「サンタクロースと僕が出会う時」や「将棋会館にて」)等々の「作家の資質」を見出している。その他にも、著名な作品の登場人物を借りた新作物語など様々な実験的な作品もあるが、今回は、上記引用の作品に最近の自虐的作品「無名作家の日記」を加えた7作品を選んでみた。

私の最終的な願いは、勝木洋臣の最初の大作『過ちは人の常、赦すは神の業』を多くの人に読んでいただくことだが、そこに至る最初の一歩として、まずはショート・ショートの勝木洋臣作品をお届けする。目の肥えた読者からの忌憚のないご意見をお寄せいただければ幸いである。

アイ・アム・ロボット

[中学生のナガウラトモオは元気よく学校へ行き思い人ヒナちゃんに告白するが、正体はロボットであった。その後会う人がことごとくロボットで、逃避行を続けたトモオはロボットの総元締と対話する。対話を経てすべてが夢であったように思われたが、不吉な兆候にトモオは恐怖にかられ逃げる。逃走の途中でトモオは倒れ、重病であったことが医師から告げられる。]

7時ピッタリに起きるナガウラトモオ。目覚まし時計も必要ない。バタバタっと階段を降りて、朝食をゴゴーッと吸い込むようにパクつく。

「コラッ、顔は洗ったのー」

デザートのピオーネを5粒一気にフォークも使わず、手で口に放り込んで

「イッテキマース」

ガチャ、ピュー

「ヨッ、今日も頑張ろうぜ!」

同級生の背中をたたいて走るように学校へ向かうトモオ。

学校に着くと何やらガヤガヤ騒がしい。何台も赤いランプをひらめかせた車が停まって、青いシートが校舎の一角を覆い、警官やカメラを構えた人たちが何人も立ち働いている。

「あれーどうした?」

「飛び降りで……トウマが死んだらしいぞ……遺書みたいなのを残して」

そのダイイング・メッセージを見せてもらうとただ一言

「ぼくはころされる」

と記してあった。えーっあいつ自殺したのか?特に親しくなかったけど、どおりで前から暗いやつと思っていた。どことなく影があって覇気がなかったもんなあ。でもどこかヘンだぞ。血が飛び散るとかそういうのが一切ない。トウマの遺体も回収されちゃったし。警官も自殺と断定して、誰かが突き落としてあわてて犯人が血を洗ったとか考えないんだろうか。まっいいや。自分はそういうこと考えている場合じゃないんだ。

ソワソワした気分で国語の時間も心ここにあらずという状態で数学の教科書を開いていたら先生に怒られた。おそらく目の動かし方やページのめくる方向が違うから分かったのだろう。でもいわせてもらえば学校というのはお勉強する場所ではない。勉強するだけなら、今時リモートでもいいし、図書館でもいいし、勉強動画もある。学校に行く意味は人間というものを学ぶことである。中学校だから小学校より人格的にできあがっているし、義務教育課程だから偏差値等で選別されず、情緒を備えた人間が雑多に集まってもみくちゃにされる。社会は名門私立幼稚園ではない。いい人間もいれば悪い人間もいて、残念ながら悪い人間とも関わり合いを持たなくてはならなくなる時が絶対にある。その時あたふた慌てないようにしよう、自分の身を守りながら、相手と関わってなるべくいい方向に持ってゆくようにしようというのが中学校の人間関係で学ぶことである。ちと説教が長くなり過ぎた。ここらへんでトモオの語りに戻そう。

授業後にトモオが誘ったのは学校の花壇だった。

(お金のない中学生にはこんなとこくらいしかデートする場所がないけど、誘いにのってくれるなんてヒナちゃんは本当にいい子だなあ。)

「は……花がきれいだね。名前とか分からないけど……」

ヒナはアプリを開いてiphoneをかざしていう。

「これはトルコキキョウの花。 リンドウ科・ユーストマ属で、原産地は アメリカのテキサス州、花は5月から7月に咲き、花言葉は『優美』または『すがすがしい美しさ』で……」

「も……もういいよ!(両手でヒナを制する。)ありがとう。充分すぎるほど勉強させてもらったよ」

(雰囲気ぶちこわしだなあ。この学校、スマートフォン持ち込むの禁止じゃなかったっけ?ここでiphoneに頼らず、ソラで花の名前をいってくれるような花に詳しい女性なら尊敬してもっと好きになったんだけど。)

気を取り直して、コホンとせき払いしてヒナの方に向き直る。

「す……好きです。付き合ってください」

「覚悟はできている?」

「どういうこと?(ヒナはどんどん服をゆるめだす。)ちょ、ちょっと……僕たちまだ中学生同士だよ。覚悟が、つまり心の準備が……そ、そこまでする?」

「つまり……こういうことよ!(胸をはだけてトモオに見せる。そこには金属の部品がびっしり)」

「ワアー」

何が起きたのか分からず、無我夢中で逃げるトモオ。教室へ続く廊下で親友のコイシカワユウジに会う。

「ヨッ、ヒナちゃんに告るのはうまくいったのかよ?」

「そんなこといってる場合じゃないんだ!ヒナちゃんはただの人間じゃないよ!」

「何!魔性の女だったってことか。」

「それ以前の問題だよ!いきなり胸をはだけたと思ったら全身機械で‥」

「そうか。もしかして……こうか?(胸の辺りをバッとみせる。)」

そのまま失神して倒れるトモオ。

しばらくすると、ベッドに寝ていることに気づいて目が覚める。保健室の先生が

「あ、目が覚めた?一時間たってるみたい。どうする?授業うけに教室もどる?」

「あの……相手の生徒なんですけど……」

「彼に感謝した方がいいわよ。すぐに職員室まで走って知らせてくれて、保健室からタンカを借りて、先生と一緒になって運んできたんだから」

俺はただ悪い夢を見ていたんだろうか。ツーと視線を動かすとバランスのよい三食の栄養の摂り方が描かれたポスターが目に入ったが、と同時に見慣れない男たちがおよそ学校の保健室には似つかわしくない器具をカートで押して入ってくるのが見えた。保健室の先生がにんまりしながら説明しだす。

「さあ今からクレアチンの血中量を測定するわよ。赤血球の血沈速度も測った方がいいわね」

男たちと保健室の先生とで俺の手足を押さえ、検査しようとする。保健室の先生らしからぬ専門的な言葉と変な機械、手足を押さえつける怪しげな男たちのオーラにトモオは恐慌状態に陥り、叫ぶ。

「ヤメロー!」

トモオはやたらめったらに男たちを殴ったりけったりしてー保健室の先生は女性だったので手は上げず、掴んでいる手を振りほどくに留めたがー部屋から逃げ出した。みんながひるんだ隙にトモオは保健室からのみならず、学校からも逃げ出した。

自宅に転がり込むようにして駆け込む。

「母さん!」

母は後ろを向いて包丁でザクザクとキャベツを刻んでいた。母は振り返りもせず台所仕事をしている。

「おかえりー早かったのね。トモオ、あんた体調が悪いわけじゃないんだろ?学校の行事か何か?おたよりみたけど、そういうのはなかった。給食のエビクリームライスおいしそうね。」

「そんな悠長なこといっている場合じゃないんだ!学校に行ったらみんな皮膚の下一枚が機械仕掛けの化け物で……」

「そう……そうだったの(静かに包丁を置く。)もしかして(くるりとふりかえる。嫌な予感がするトモオ。)。こんな感じかしら?(胸をはだける)」

「ヒィー」

恐ろしかったが、今度は腰を抜かすということはなかった。どっかの昔話みたいな展開だもの。昔話といえば母さん、子供の頃よく読み聞かせしてくれたなあ。俺の記憶にはっきり残っているのは緑色のカバーの絵本で町のみんなが幽霊で主人公の男の子は助けを求めて親のところに駆け込むけど、親も幽霊だった……こういうのを読み聞かせてくれたことだ。読み聞かせしてくれた優しい親はもういないんだ。その絵本では終わりになって実は主人公も幽霊だった、みんな仲間だったってなって終わるけど、多分自分はロボットなんかじゃない。実は自分もロボットで、みんなと仲間だったというそういうラクな道はないんだ。

懸命に走って逃げるトモオ。道行く人もロボットだと思って突き飛ばすように逃げる。ある八百屋の前でハアハアと息を整えるため立ち止まる。トモオはやおらコンパスの針を取り出し確かめるように腕に突き立てる。二の腕からツツーと流れてくる血。彼は安堵して腕を突き出して自分に言い聞かせるように叫ぶ。

「普通の人間はこうだもん!刺せば当然痛いし血がどくどく流れる」

ここでハッと思いだす朝の光景。血は一滴もこぼれていなかった。

「ムムッ。もしかして飛び降り自殺したっていうトウマの血が飛び散っていないことを警察は知っていて、それを隠蔽するためにーそれに体がもはや機械でできていることはひどく壊れた死体をみれば明らかだからートウマの遺体を早々に片付けたのか。そもそもなんで級友がトウマは自殺したと言い切れるんだ?警官や鑑識がたくさん来ていたのはさも捜査をちゃんとやっていますと見せつけるために過ぎず、その実は級友も警官も鑑識もみんなグルで俺を欺こうってつもりなのか!?アレッあそこにこんな商店街なのに大きな白い建物がある。」

好奇心にかられて入ってみると

「よくたどり着いたな……」

「誰だ!?」

「俺はNo.$#00dys00mxp01。めんどうくさいから人間の名前を使おうか。ジョーってのはどうだ……人間型ロボットの総元締だ」

「ジョー、おまえがみんなを改造して変にしたっていうのか!?」

「おいおい……改造して変にしたなんていうなよ。人聞きの悪い。こっちは純粋に慈善の心でやってやったんだぜ」

「慈善の心?」

「そう。『改造』なんかじゃなく、『改良』さ。『改善』といってもよい。始終ほとんどの人間がいつか自分が死ぬことを怖がっている。でもロボットなら自然に死ぬことはない。だからチョチョイのチョイと改良したまでさ。ところがとんまだっけ、トウマだっけ?今度は死にたい死にたいといってさ。結局死にやがった。いいざまだぜ」

「待て!なんでトウマは死にたがったんだ?」

「知るかよ……そんなことトウマに訊いてくれよ……なんか自然に死なないなら死なないんで不幸せなんだとさ。長く続く果てしない繰り返し。何のために自分は生まれたのか、生きている間にやるべきことも分からなくなるんだとよ。『ぼくはころされる』って死んだのは自殺したからだろうが。被害妄想にとりつかれて。とんでもないバカだぜ」

「ジョー、一つ聞きたいことがある」

「何だ?」

「飛び降りたのはトウマだけだろう。なんで他のやつは自殺しないんだ?」

「死にたくないからさ」

「でもおまえさっき自然と死なないようになったら人間は不幸になるといってただろ!」

「そう分かっていても依然として生き続けるしかないんだ。死んだら人はどうなる?巷に特にスピリチュアリズムにおいて色んな風説が流布しているが、結局のところ誰も分かりはしない。よみがえったらそれは即ち死んでいなかったことになるからな。もし死んだ後の世界がそら恐ろしいものだったら?そんな恐れに耐えられなくて大半の人間が自殺しない。たとえ人間は死んだ後天国に行けるのだとしても改良されちまった人間に対しては天国の門は閉ざされているかもしれないしな……。だから大半は確たる理由もなく『何となく』自殺しないんだ。工事現場の高いところから鉄の棒が落ちてきてそれが当たるとかそういう不慮の事故が起きないかぎり生き続ける」

「じゃあ、なぜトウマだけが自殺に踏み切った?」

「死にたがっていたからさ」

「そんなこと分かりきっている。だから自殺したんだろ!俺が訊いているのは死にたがるようになった理由だ!」

「俺もよく分からないんだ……だからこういうまだるっこしいことをいって、時間を稼いで考えてやっているんだ。おそらくだが『何となく』生きていてもいつかは不慮の出来事、たとえば自然災害が起きるとか、隕石が衝突してくるとかで死んでしまう。どうせいつか死ぬんならこんな不幸な状態は終わりにしちまおう。そんなヤケを起こして自殺したんじゃないか」

「訊きたいことがある」

「何だ、質問ばかりだな。俺の答えられる範囲なら答えてやる……どうぞ」

「何で俺を改造しなかった?」

「『改造』じゃなくて『改良』の間違いだ。一言でいうなら、おまえが底抜けのアホだからさ」

「ナンダト!」

「何だ……おまえは関西の人間ではないのか。アホという言葉を罵りとしてしか捉えられないんだな?それは失敬。おまえはいつか自分が死ぬことを考えたことがないだろ?そういうやつは強いんだ。死ぬのがコワイとおそれる必要もない」

「おまえについて分かったことがある」

「何だ?」

「おまえは悪いやつだということだ」

「言っただろう‥俺たちは『慈善の心』でやってやってんだ」

「いいや、お前らがしていることは傷をなめあう不幸な同類を増やしているだけだ。いつかは死ぬということは変えられず、かえって改造によって死ぬことへの恐怖を強くしているだけだ」

「ここいらで下らないおしゃべりは止めにしよう。おまえは秘密を知ってしまったんだ。このまんまじゃ帰しちゃおけない。『改良』されたいのか、ここで犬死したいのか?」

「俺は『改造』されたくない。不幸になりたくないから」

「いい度胸してるじゃねえか」

そう言うが早いが先端が尖った触手のようなものをだし、トモオに襲いかかる。トモオは思わず目を閉じる――

その時ジリリリっとけたたましく目覚ましが鳴る音がした。トモオはびっくりしたようにはね起きる。

全部夢だったってことかなあ?

おそるおそる階段を下りると、母親が声をかける。

「おはよう。トモオ、アンタ、なんでいつものように元気でドタドタ下りてこず、ぬき足・さし足・しのび足なの?」

テーブルにはいつものようにピオーネが5粒入った瀬戸物の小鉢が置いてある。

おそるおそるティーカップを口に運びながら、上目遣いで母親を見るトモオ。特に変わった様子もない。

「トモオ、あんた、やっぱりおかしいよ。もしいまひとつ調子がでないようなら早退しちゃいなさい」

心配げに玄関先まで見送る母。

トボトボ歩いていると

「ヨッ今日も頑張ろうぜ!」

背中を叩かれしなにゲナゲナと崩れて地面に倒れるトモオ。同級生はあわてて

「ス……スマン、大丈夫か?悪かった……」

校門に入ってみたがブルーシートもなく警官も鑑識もおらず、教室に入ると、珍しくトウマが話しかけてきて

「おはよう。君大丈夫?血が出ているよ」

ハッとなって触ってみる。首筋に二か所傷ができている。「夢」の中のロボットの触手が襲いかかってきた跡だろうか。

そうこうしていると、始業のチャイムだ。みんな遊びをやめてそれぞれの席につく。先生が入ってくる。

授業中も落ち着かず心ここにあらずである。

「おい、トモオ」

「はい!」

ビクッとなるトモオ。

「テキストが逆さまだ」

「(クラス内の声)ワハハハ」

こうして座っていると、周りのクラスメートや先生が全員ロボットで、みんなが一斉のせいので俺に襲いかかってきたらどうしよう、となる。どうやって逃げようか。自分から教室の扉まで結構ある。そこに至るまでにみんなが人垣ならぬロボット垣を作ったらどうしよう……

ここで意識が消失した。目が覚めるとそこは保健室のベッドの上だった。養護の先生が声をかける。

「あ、目が覚めた?一時間たってるみたい。どうする?授業うけに教室もどる?」

「あの……俺はどうしたんですか?……」

「コイシカワユウジって子に感謝した方がいいわよ。すぐ保健室からタンカを借りて、先生と一緒になってあなたを運んできたんだから。」

俺はただ昨日悪い夢を見ていたんだろうか。ツーと視線を動かすとバランスのよい三食の栄養の摂り方が描かれたポスターが目に入ったが、と同時に見慣れない男たちが見えた。やっぱりあれはただの夢なんかじゃない。正夢なんだ!

「ヤメロー!」

トモオはやたらめったらに男たちを殴ったりけったりして、みんながひるんだ隙にトモオは保健室からのみならず、学校からも逃げ出した。保健室の先生も高い声で叫ぶ。

「あの子を追いかけてー!」

ファンファンファンとサイレンを鳴らしながら、大通りを走る緊急車両の音。小路で身を隠すようにうずくまっているトモオ。

「どうしよう。家に帰るわけにもいかない。連中の一味が先回りしてるかもしれないし、母さんも改造されているかもしれない」

移動しようと立ち上がったら天国に行きそうでスーッとなり立ちくらみがした。それでも強いて歩こうと思ったら視界がグニャリと歪み、平衡感覚を失っていることに気づいた。トモオはバッタリ倒れ、そのまま起き上がらなかった。

トモオが目覚めると白い壁に囲まれたベッドに寝ていた。殺風景な部屋にある唯一の器物は花びんのみ。気づいた、気づいたぞーという歓声。声の主は保健室でオレを取り囲んだ男たちだった。目を転じると、すすり泣いている母親と心配そうに俺を見つめている保健室の先生。しばらくすると、四十代くらいの医師が入ってくる。

「落ち着いたかね。」

「ウワーッロボットめ!No.$#00dys00mxp01が!俺を改造する気か」

「おいおい……何のことだ。私は人間なんだ。せめてジョー先生と呼んでくれ。ジョーは下の名前で名字は『イトウ』だけどな。自己紹介させてもらうと、私は君の中学校が連携している近藤総合病院の脳神経外科医だ。いいか。君の脳内には腫瘍がある」

ハッとするトモオ。思わず頭を触る。

「君の腫瘍は大きく、首元から出血している程で、いつ破裂してもおかしくない。破裂すれば即死だ。うるさかったろうが病院自前の緊急車両でサイレンを鳴らして男性スタッフと一緒に捜し回らせてもらった。緊急事態だったんでね」

「ウルサイ!こうやって俺を捕まえて俺を改造してロボットにしようという魂胆だな!」

さめざめと泣いていた母が話しかける

「……トモオ。まだこんなこと言ってるのかい。私たちはロボットなんかじゃない。人間だよ」

「どうしてそんなことが分かる!」

母さんは服をゆるめ出す。

「ちょっと、TPOを考えてよ!」

母は服の袖をまくるとトモオのカバンから筆箱を出してコンパスを取り出してあらわになった肌に突き立てる。血がツツーと出る。

「ねえ?人間でしょう?」

「ダマサれないぞ!きっとそのつくりものの皮膚の下に赤い液体のタンクがあるんだろ」

「これでも信じないのかい?」

母はさらに服を脱ぎ、液体染みができているシャツを脱いでみせる。乳房は血管が走り張っており、白色の液体を垂らしている。

「思いだすよ……トモオが赤ちゃんのころ、授乳の時、いつも獰猛な顔をしておっぱいに食らいついて。おまえのせいでおっぱいの形がすっかり崩れちゃったよ」

じっと聞いていて涙を流すトモオ。悟られまいとあお向けのままでいて寝る姿勢を変えない。医師がパンパンと手を叩く。

「さあ、納得しただろう。手術は2週間後だ。そうそう、緊急の処置がいるからね」

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