湘南 BENGOSHI 雪風録 第39回

例によってNHK朝の連続ドラマ「虎に翼」を見ています。

夫婦別姓、子どもの進学、更年期、家族の認知症・介護、尊属殺重罰規定違憲判決、学生運動、原爆裁判、マイノリティと差別の問題、公害訴訟……と色々な問題が立て続けに取り上げられています。

個人的には「怨」の旗がはためくシーンが挿入されたのにしびれました。

1971年、水俣に出向いたアメリカ人フォトジャーナリスト、ユージン・スミスが撮った写真の中に、はためく「怨」の写真があります。

4大公害病の一つに挙げられる水俣病、その公害訴訟を含めた運動の中で、使われてきた旗です。「怨」という文字に、この災厄をもたらした相手への怒りだけでなく、それがたとえ自分に跳ね返ってきたとしても構わないと思い詰めるような、相手への強い強い恨みの気持ちが立ち上ってくるような、当事者の気持ちを突きつけられた気がします。

「苦界浄土」で石牟礼道子氏が、ミナマタ以前の美しい水俣をまず描き、以後の変わったもの、変わらないものを描いて、弁護団・弁護士はその救世主としては描かないこと、「怨」を背負う当事者と弁護士の立場の違いが明確にされること-弁護士が果たして向き合うものは、ただ事件に取り組んで重い門をこじ開けるだけではない、もっと根源的な葛藤みたいなものがあると思うのですが、原爆裁判でのよねと原告のやりとり、原告が法廷への出頭を取りやめたエピソードの挿入は、その辺りの葛藤も描きたいというこのドラマの制作陣の気概の表れのはず、すなわち、よね・轟ペアのスピンオフを私たちは素直に期待していいですよね…?(期待)

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とらちゃんは家庭裁判所少年部の裁判官になっています。

来週の予告にまさかの美佐江でてきましたやん(この原稿がどれだけ鮮度の高いものか…)。

当時、18、19歳の少年への厳罰化を求める動きがあったそうで、ドラマではとらちゃんたち少年事件の現場にいる裁判官がこれに抗議する様子が描かれています。

ところで、現在も、大人の刑事事件と、少年の刑事事件は取り扱いが違っています。

刑罰でなく教育による少年の更生を目指すという視点から、大人の刑事事件とは大きく制度の仕組みが異なっているのです。

例えば、大人は、何らかの被疑事実で疑いをかけられても、嫌疑不十分や起訴猶予で不起訴処分となり、刑事裁判にならない場合が一定数あります(令和4年の刑法犯の起訴率は36.2%(令和5年犯罪白書より))。

しかし、少年については、「全件送致主義」がとられています。すなわち、捜査機関が少年の被疑事件について捜査し、犯罪の嫌疑があるとなった場合及び、犯罪の嫌疑が認められない場合でも、家出を繰り返している、犯罪性のある人と付き合いがある等の理由があり、「その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」については、すべての事件が家庭裁判所に送致されます(少年法41条、42条)。成人の刑事事件のように、捜査機関限りで事件を終了させることは認められていません。

家庭裁判所送致後は、親や周囲の人たち、付添人(少年の弁護士)、調査官や裁判官等多くの人が関わって、少年自身に考えを深めてもらうとともに環境調整が試みられます。刑罰を科す大人の刑事事件とは大きく異なる仕組みといえましょう。

ただ、2021年の少年法改正により、18、19歳の少年は「特定少年」と位置付けられ、特定少年については検察官送致、すなわち、大人の刑事裁判で裁く対象事件の範囲が拡大されました。それとともに起訴された後は少年の実名報道を可能とすることになりました。結果的に少年法の趣旨が適用される対象者が狭まり、少年法の枠組みの中で更生の期待できた少年の範囲が狭まりました。

成人であれ未成年であれ、取り返しのつかない恐ろしい事件を起こす者は残念ながらおり、少年の更生を多くの人が考える少年法の運用の中で、被害者が取り残されていると映るのはやむをえないように思います。

ただ、再発防止の観点から厳罰化、大人の刑事裁判の手続きにのせるというのは効果がないだろうなと思います。少年にいろんな人が関わり、直すべきところを直し、良いところを伸ばして、自信と適切な判断力を養うことで、自分で良いこと悪いことの判断ができるようになることに再発防止の路があり、周りがその子への関心を持つことが、多岐川判事が何度も言っていた「愛」というものなのかなーと考えています。

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今年の育児介護休業法改正で、事業主は、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者を対象に、柔軟な働き方を実現するための措置を取ることが義務付けられました。

具体的には、事業主は、始業時刻等の変更、テレワーク等(10日/月)の採用、保育施設の設置運営等、新たな休暇の付与(10日/年)、短時間勤務制度の中から、2つ以上の制度を選択して設ける必要があり、該当する労働者はその中から1つを選択して利用できます。また、来年4月からは、子の看護休暇についても、これまでは小学校就学の始期に達するまでの子に関して、取得事由は子の病気・怪我、予防接種、健康診断だったのが、小学校3年生修了まで対象が広がり、取得事由に感染症に伴う学級閉鎖や入園(入学)式、卒園式が追加されました。

日々の生活が子どもに関心を向ける時間を持つことを許さないのでは「愛」どころでなく、子育て含めた家庭生活と両立あっての仕事ですので、この辺りの制度が浸透し、積極的な利用がなされることを期待します。また、育児休業などを取得したことを理由に、事業主がその労働者を不利益に取り扱うことは法律上明文で禁止されています。

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