もう一度、外国語にチャレンジ スペイン語を学ぶ ~スペイン編~

第6回 言葉の学習は一日にしてならず

文・写真 伊藤ひろみ

 外国語学習に年齢制限はない!――そう意気込んで、国内でスペイン語学習に挑戦したものの、思うように前進しない日々が続いていた。そんな停滞に歯止めをかけるべく、現地で学んでみようとメキシコ・グアナフアトへと向かったのが2023年2月。約1か月間、ホームステイをしながら、スペイン語講座に通った(くわしくは、「もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~」をご参照ください)。

1年後、再び短期留学を決意する。目指したのはスペインの古都トレドである。

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 言葉の学習は一日にしてならず

マルタとのお出かけは発見の連続だった。ご近所さんや買い物に立ち寄ったお店の人とおしゃべりしたり、図書館を見学したりと、彼女にとっては日常の一部でも、私には新鮮なことばかり。日々新しい世界が広がっていく。(詳細は連載第3・4回をご参照ください)。

いよいよ語学学校へ

さて、肝心のスペイン語学習である。マルタとのやりとりをはじめ、ここはすべてスペイン語オンリーの世界。何かを買うにも、知りたいことを尋ねるときにも、使わざるを得ない環境下にある。スマホの翻訳アプリ、電子辞書など、文明の利器の力を借りつつ、なんとか乗り切ってきたが、本当に言いたいことが言えていない! 彼らの問いかけにきちんと応じられていない!

滞在4日目から語学学校に通い始めた。向かうのは、マルタ宅から歩いて10分ほどのところにある小規模の学校である。

先週末、様子を見に行ってみた。クラス授業を受講したいと申し出たが、現在私のレベルに合うクラスは開講されていないらしい。だが、チケット制のプライベートレッスンなら可能だと提案された。私ひとりにスペイン語の教師がひとりつく形式なので、クラスレッスンよりやや割高になること、時間や学習内容などは担当教員と相談できることなどの説明があった。

今の私は、これらの内容をスペイン語で理解できるレベルではない。語学学校の女性スタッフ、フローラ(Flora)は、最初に私に尋ねてくれた。説明はスペイン語か英語のどちらがいいかと。英語でお願いしたので、なんとか理解できたというわけ。

もはやレッスンを受けるかどうか、迷っている場合ではないだろう。必要なことをスペイン語でできるようにならなければ! とにかく、今は少しでも前へ進めること。学びたいこと、学ばなければならないことは山ほどあるのだ。

語学学校の教室内。教員と1対1で授業を受け緊張の連続

密度が濃いプライベートレッスン

初日はまず挨拶と自己紹介から。担当はカロリーナ(Carolina)先生。30代半ばくらいの落ち着いた感じの女性である。スペイン語を教えて、約10年のキャリアを持つ。トレドで生まれ、現在は新市街からバスで通っている。

レベル別クラスレッスンが開講されているのであれば、一般的に筆記や会話などのプレイスメントテストで、どのクラスに配置されるのかが決まる。だが今回は事情が違い、レベルチェック的なことは行われなかったため、こちらのプロフィールなどの質問を受ける形で、私のスペイン語力を見極めているようだった。

日本語母語話者にとって、スペイン語の大きなハードルのひとつは、動詞の活用だろう。たとえば、日本語の動詞現在形「食べる」は、主語が私であっても、あなたであっても、彼らであっても、「食べる」でOK。英語はeat がeats になる三人称単数形でのみ変化がある。だがスペイン語は英語よりもさらに動きが激しい(スペインの場合は6つ。イスパノアメリカでは5つ)。さらに、現在形のみならず、時制によるバリエーションも多く、スペイン語の動詞の活用表を見るたびに「なんでこんなに多いの!」とため息が出る。

カロリーナからの質問に、もたつきながらも第一関門クリア。さらに、希望する学習内容についてのやりとりが続く。まずは初級レベルの基本的なやりとりがスペイン語でできるようになることが目標である。数字が苦手だったので、その練習もお願いした。指定教科書は特になかったが、DELEの会話問題を使って、口頭練習することも決まった。

(DELE:外国語としてのスペイン語の能力を証明する検定試験。レベルはA1からC2までの6段階で、読解、聴解、会話、作文の4パートがある)

会話練習の教材。DELEの口頭試験の模擬問題などを利用した

ひとまず、その日はそこまで。あっという間に1時間が過ぎた。クラスレッスンと違い、誰かが答えている間に考えるということもできず、気が抜けない。その分密度が濃いが、動きの悪い脳からしぼり出すのに必死。疲れた!

午後3時のランチタイム

授業後、いったん家へ帰って昼食をとる。マルタはまだ帰宅していなかったが、キッチンにはダビッド(David:スペイン語の発音はダビッが近いが、第1回で示した通り、ここではダビッドと表記する)がいて、昼食の準備をしていた。彼は夜勤の仕事があり、それが明けると翌日は休日になるようである。ちょうどテーブルセッティングを始めたとき、マルタが帰ってきた。「今日は仕事が多くて、遅くなった」とのこと。

今日のランチのメイン料理は牛肉、豆、じゃがいも、にんじんの煮込み。一見、肉じゃがに近いような感じがするが、似て非なる料理。味はあくまでスペイン風である。肉も豆も野菜もやわらかく煮てあるので、口当たりがまろやか。アメリカ人留学生のフアンとともに4人でテーブルを囲む。時刻はすでに午後3時をまわっていた。

ランチで食べた煮込み料理。ごはんがすすむ一品

クールダウンにぴったりの場所、見つけた!

夕刻、タホ川沿いを歩いてみることにした。ウォークキングにいいとマルタが勧めてくれたからだ。トレドは小さな町なので、川沿いをひと回りしても、1時間程度だとか。初日に川沿いの外側の道を観光用の列車、Train visionで走ったが、歩くのは初めて。途中、ベンチで休憩したり、写真を撮ったりしながら、のんびり散歩する。ソコドベール広場、大聖堂、博物館などはどこも観光客で賑わっているが、タホ川沿いは人も少なく、とても静か。アヒルやカモが行列を作って行進している姿が見える。それを追いかける子どもたち、彼らの姿を写真に収める大人たち。そんな平和でなごむ風景に触れ、スペイン語でパンパンだった頭も、異文化に触れて戸惑う心も、いつしか落ち着いてくる。

タホ川沿いは鳥たちにとっても快適に過ごせる場所のよう

サン・マルティン門(Puente de San Martín)のそばまで来たとき、ちょうど日が沈む時間にさしかった。川面に映る夕日がキラキラと輝いている。かつては侵入者を防ぐために作られた門も、今は観光客たちの観光名所。ポーズをとる人、スマホを向ける人と、ここもほのぼのとした空気に包まれている。

西の端にあるサン・マルティン門。東にあるアルカンタラ門とともに旧市街へ入る重要な門

タホ川沿いのお散歩タイムは、たまった何かを吐き出したり、クールダウンしたり。どこにいても、ひとりになれる時間が大切なようである。

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

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