もう一度、外国語にチャレンジ スペイン語を学ぶ ~スペイン編~

第9回 トレドにはローマ時代の浴場跡が眠っていた!

文・写真 伊藤ひろみ

外国語学習に年齢制限はない!――そう意気込んで、国内でスペイン語学習に挑戦したものの、思うように前進しない日々が続いていた。そんな停滞に歯止めをかけるべく、現地で学んでみようとメキシコ・グアナフアトへと向かったのが2023年2月。約1か月間、ホームステイをしながら、スペイン語講座に通った(くわしくは、「もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~」をご参照ください)。

1年後、再び短期留学を決意する。目指したのはスペインの古都トレドである。

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 トレドにはローマ時代の浴場跡が眠っていた!

スペイン・トレドに滞在して1週間あまりが過ぎた。平日の午前を中心に語学学校でスペイン語学習に精を出す一方、スペイン人宅に滞在しながら日常の暮らしにもふれる毎日。スペイン語はまだヨタヨタ状態ではあるが、少しずつ耳も慣れてきている(と思いたい)。せっせと町歩きを続けるなか、さらにびっくりの場所を発見した!

 

歴史を遡ること2000年?

そこは、語学学校のカロリーナ(Carolina)先生の推し、旧市街の中心にある知る人ぞ知る、テルマス・ロマナス・デ・アマドール・デ・ロス・リオス(Termas Romanas de Amador de los Rios)と呼ばれる場所だった。テルマス・ロマナスとはローマ式の浴場のことなのだが、「なんのこっちゃ?」状態の私に、カロリーナ先生が歴史をひもとき、解説してくれた。ゆっくりと丁寧なスペイン語で。

紀元前2世紀ごろからイベリア半島はローマ帝国によって支配される。だが、それも5世紀に滅亡。その後は西ゴート族の支配下になり、トレドを首都とした。占領されても、古代ローマ人たちがこの地に与えた影響は大きく残った。

まずは言葉。ローマの公用語であるラテン語である。それがスペイン語の基礎となった。さらに、ローマ人たちは建築技術に優れ、道路や港などのほか、円形闘技場、水道橋などを建設した。マドリッドの北西にある町、セゴビアに残る水道橋はローマ時代に造られたものである。そのローマ人がトレドに残したもののひとつが、ローマ式の浴場だったという。

とまどう私に、カロリーナ先生が同行してくれた。「見つけにくいところにあるからね」と。確かに、そこは細い通りに面したごくフツーの建物内にあり、彼女が案内してくれなければ、知らないままで過ぎていることだろう。それが、テルマス・ロマナス・デ・アマドール・デ・ロス・リオスだった。

テルマス・ロマナス・デ・アマドール・デ・ロス・リオスの入口。細い通りの奥にひっそりあるので、見落とさないで

地下に下りると、数人のスタッフがいるカウンターがあった。カロリーナ先生が「日本から来ていて、今スペイン語を勉強している生徒。トレドのことを知りたがっている」と彼らに紹介した。挨拶を交わしたあとは、彼女は急ぎ学校へ戻った。彼女はまた授業があるからだ。ここからは自力でなんとかしなければならなくなった。

「どうぞ中を見学してくださいね」とのことだったので、ひとまずひとりで動き始める。カンターの後ろからさらに奥へとずっと遺跡が続く。

水や湯をためたと思われる穴があったり、丸いアーチ状の石組みがあったり。これらを見る限り、ここにローマ時代の浴場があったと言われたら、「そうだったんだ」と納得せざるを得ない。それにしても、普通の建物の地下に、こんなものが出てくるなんて。しかも、ここはトレド旧市街のど真ん中。いったいこの町の地下はどうなっているのだろうか。

ローマ浴場跡のひとつ。テルマス・ロマナス・デ・アマドール・デ・ロス・リオスでは、スタッフが常駐している

他にもあるある、地下に眠る遺産

スタッフによると、ここだけではなく、他の場所にも浴場跡などローマ時代の遺跡があるらしい。ここでは、トレドの穴場を紹介するウォーキングツアーを実施しているそうだ。「よかったら参加してください」と誘われた。知りたいのはやまやまだが、スペイン語だとなぁ。そもそもトレドの歴史、建築についてなど、日本語で説明を受けてもわかるかどうかはなはだ疑問なのに。スペイン語で理解できるとは到底思えないのだが。

「実際に目で見ればわかることもあるから、心配しないで」と背中を押され、夕刻のツアーに参加することになった。

開始予定時間の5分前に集合。イタリア人夫婦とイギリス人女性と同行することになった。ここから案内してくれるのは、ルーカス(Lucas)さんという男性ガイドだった。彼の早口のスペイン語にのっけからお手上げ状態だったが、なんとか一部の単語だけでも拾えないかと、必死で聞き取りに集中する。

南に5分ほど歩く。一見ごく普通の民家の家の鍵を開け、中へ入るよう促した。私も彼らに続き、地下にもぐる。そこで目にしたものは、確かに遺跡。それがローマ時代のものだとはにわかに信じられなかったが、考古学的調査の結果、浴場跡だと解明されたのだろう。それにしても、ここにどうやって水を運んだのか。トレドの旧市街を囲むタホ川がその水源であることはわかったが、残念ながらその方法までは理解できず。スペイン語力もさることながら、背景知識の欠如も甚だしい。写真を撮ることに徹せざるを得なかった。

ごく普通の民間の地下に眠る遺跡。旧市街のあちこちから発掘されている

案内が終わり、再び歩いてテルマス・ロマナス・デ・アマドール・デ・ロス・リオスに戻る。あまりに意味不明だったので、何か資料はないかと尋ねたところ、分厚いスペイン語の専門書を出してきた。紹介してくれたのはありがたいが、私の今の実力では10年かかっても読みこなせないだろう。

今日訪ねたのは、一般的な観光客が目にすることがない場所。専門ガイドとともに、実際に目にしただけでも、貴重な機会だったと言える。それにしても、外からはそれとわからない場所や地下に、ローマ時代の遺跡があちこちに存在するという事実。教会や修道院、博物館など地上に残る文化の混淆(こんこう)とともに、地下深くにも、スペインの歴史が眠っているのだった。

トレドは地上も地下も歴史的建造物だらけ。観光客が少ない静かなエリアも要チェック

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

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