赤毛のアンのお茶会 第44回

なぜマリラは、アンといい関係を築けたのか?

南野モリコ

「赤毛のアン深読みニスト」南野モリコです。10月に入り急に秋めいてきましたね。
さて今月は、なぜアンとマリラはいい関係を築けたのかを深読みしてみました。「ふーん、へえ、そんな考え方もあるのね」と秋の夜長にポテトチップスなどを食べながら気楽にお読み下さい。

 

マリラはアンと「対等」の関係を作ろうとしていた?

『赤毛のアン』は、結婚せずに年をとったマシューとマリラのカスバート兄妹のところに、「男の子と間違って」孤児院から送られてきた赤毛の少女、アン・シャーリーが持ち前の明るさと利発さで、周囲の人々を巻き込み、幸せになっていく物語です。

アンは無類のおしゃべり好き。初めてアヴォンリー村にやってきた日、駅まで馬車で迎えに来たマシューに得意のおしゃべりを披露しますが、ただマシンガンのようにしゃべり続けるのではなく人を楽しませ「聞かせる」スキルのあるアンを、マシューは「おもしろい子だ」と気に入ります。

そんなアンを「胡散臭い」と感じ引き取ることに前向きではなかったマリラも、いつの間にかアンのおしゃべりを楽しんでいることに気が付きます。一度は、孤児院に送り返そうとしますが、その道中でアンの生い立ちを聞かされ、家庭の愛情に飢えているアンが冷たく人遣いの荒そうなブリュエット夫人に子守りとして雇われそうになったところを見て、アンを引き取ることを決意します。

そして、グリーン・ゲイブルズで暮らしながら、マリラとアンは強い絆が生まれていくのです。

カスバート家に引き取られた時、アンは11歳、『赤毛のアン』シリーズ続編から逆算するとこの時、マリラは55歳です。11歳の少女と55歳の中年女性、44歳という年齢差がある2人が1つ屋根の下でいい関係を築き、家族のようになっていくには、マリラには関係性を作るのにある種のコツが必要だったのではないかと思います。

もちろん、アンという少女が大人から見ても親しくなりやすい魅力があったからいい関係が作れたこともあるでしょう。アンは孤児であり、人より苦労していることから社会の厳しさを知っています。そんなアンは、家族に恵まれた11歳の少女よりも内面的に成熟しており、関係性が作りやすかった面もあるでしょう。(本コラム第33章参照

その一方でマリラにもアンといい関係性を構築できる持って生まれた資質があったように思います。マリラがアンといい関係を築き、2人が家族のようになっていけたのはなぜか? それは、マリラのアンに対する付き合い方が「対等」だったからではないかと筆者モリコは深読みしました。

 

「おばさん」ではなく、名前で呼ばせたマリラ

第8章で、「おばさんを何と呼べばいいの? ミス・カスバート? それともマリラおばさんと呼んでいいの?」とアンがマリラに訊ねた時、マリラは「ただのマリラでいいですよ」と答えます。

お互いをどんな風に呼び合うかで、2人の関係性が固まっていきます。「ただのマリラでいいですよ」という答えは、一見、素っ気ない答えのように見えて、一つ屋根根の下で暮らすのに例え年齢差はあったとしても、上下関係なくフラットに付き合っていきたいというマリラの人間としての本質が表れているように思えます。

家庭の愛情に恋焦がれていたアンは、「マリラおばさん」と呼びたがったのですが、マリラは却下したのは、「本当のおばさんではない」からというだけではなく、2人の関係に枠を決めず、自由でありたかったからのように思えるのです。

今目の前にいる11歳のアンもすぐに成長してしまう。どんな風に大人になっていくかは未知数ですものね。

このマリラのアンとの関係性の構築の仕方や付き合い方は、学校教育や企業における上司と部下の関係作りにもかなり参考になるのではないでしょうか。ま、単なる深読みですけどね。

 

参考文献
モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

[ライタープロフィール]
南野モリコ
赤毛のアン深読みニスト。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。
X(旧Twitter):南野モリコ ID @names_stories

タイトルとURLをコピーしました