赤毛のアンのお茶会 第41回

第41回 なぜマリラは、アンのパフスリーブ愛を否定したのか?

 

南野 モリコ

 

「赤毛のアン深読みニスト」南野モリコです。今月は、マリラがなぜファッションに気を使わないのかを深読みしてみました。「最近、またパフスリーブが流行っているのよね」と思いながら気楽にお読みいただけると嬉しいです。

村岡花子訳『赤毛のアン』(新潮社、1973年)

 

マリラが見た目に気を使わないのはグリーン・ゲイブルズの立地のせい?

 

『赤毛のアン』は孤児アンが、結婚せずに年をとったマシューとマリラのカスバート兄妹に引き取られ、天性の明るい性格から周囲の人を巻き込みながら幸せになっていく物語です。

アンは「男の子と間違って」カスバート家にやってきたのですが、色とりどりの花が咲き乱れ、豊かな自然に囲まれたグリーン・ゲイブルズ(カスバート家の屋号、緑の切妻屋根の意)に一目で魅了されたアンは、マシュー、マリラと暮らすことを熱望します。

願いが叶ってグリーン・ゲイブルズで暮らせることになり大喜びのアンだったのですが、ひとつ気に入らなかったのはマリラが作ってくれた洋服です。

孤児院から着せられてきた交ぜ織りの服しか持っていなかったアンにマリラが作ったのは、「こざっぱり」した服ばかり。同じ年代の女の子が着ているようなパフスリーブ(膨らんだ袖)のお洋服を期待していたアンは、コストパフォーマンス重視の服たちにがっかりします。

想像力が自慢のアンは「気に入っていると想像することにするわ」と、ここぞとばかりスキルを発揮しようとしますが、マリラへの遠まわしの嫌味のようでもあり笑えます。

シリーズ第4作『風柳荘のアン』では、サマーサイドに住むギブソン夫人も「新聞にものなんぞ書く人に、料理ができるとは思わなかったよ。でも当然だね、マリラ・カスバートが躾けたんだから」とアンの料理の腕前を褒めながら、マリラの子育てスキルを称賛しています。マリラがアヴォンリー村とその周辺のコミュニティでは信頼された人物であることが分かります。(1年目第14章)

そのマリラが服装にだけ気を使わないのは不思議と言えば不思議です。アヴォンリー村が都会から離れた農村で、ファッションの情報が入りにくかったとも考えられます。しかし、小川を挟んだお向かいのバーリー家のダイアナは、村の子どもたちの間でもファッション・リーダー的な存在ですし、リンド夫人も「マリラがアンに着せる物といったら、どう見てもおかしい」と、アンに同情的です。なぜマリラはアンや村のほかの女性たちと違い、ファッションへのこだわりがないのでしょうか?

それは、マリラが住むグリーン・ゲイブルズが、民家が集まる場所から少し離れた所という立地に起因するのではないかと筆者モリコは深読みしました。

第1章によると、カスバート家=グリーン・ゲイブルズは「街道から家まで長い小径を歩かなければならなかったのでずいぶん遠く見えた」とあります。

マシューとマリラの父親が無口で内気な男だったため、森の奥の隠遁した、とまでは言わないが、隣近所からできるだけ離れたところに敷地を定め、開墾した土地のいちばん外れにグリーン・ゲイブルズを建てたのです。

カスバート家の家業は農業です。ただでさえ農作業は1人で黙々とやるものである上、カスバート家は他の家屋から離れており、人目につかない場所にあるのです。服装を気にする必要もなくなりますよね。ま、単なる深読みですけどね。

 

マリラはアンから「人目を気にすること」を学んだ?

 

また、マリラの「年齢」も考えられます。

グリーン・ゲイブルズにやって来た時、アンは11歳。シリーズから逆算すると、その時、マリラは55歳です。

マリラも10代の頃は人並みにファッションをチェックしたり、何度も鏡を見ては髪を整えたりしていたかもしれません。しかし、1日のほとんどを1人で黙々と家事や農作業に費やす生活を何年もしていたなら、人目を気にすることよりも、実用性を優先するようになってもおかしくはないですよね。

たまにはリンド夫人と連れ立って都会に出かけることもあるかもしれません。しかし、そんな年に何度かしかないことのために、わざわざお金を使うこともないだろうと考えるようになっても当然です。

 

そんなマリラも、アンがクイーン学院に入学する頃になると、「ジェーンもルビーもジョージーも『夜会服』とやらを作ったそうじゃないか。あんたに引けをとらせたくないと思ってね」と言って、薄物のドレスを作っていますね。(第34章) この時、アンは15歳。グリーン・ゲイブルズにやってきて4年目です。アンのおかげでマリラは長年忘れていた「人目を気にする」感覚を思い出したのかもしれませんね。ま、単なる深読みですけどね。

 

 

参考文献

モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

 

 

[ライタープロフィール]

南野モリコ

赤毛のアン深読みニスト。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。

Twitter:南野モリコ ID @names_stories

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