赤毛のアンのお茶会 第37回

第37回 なぜリンド夫人はアンの大学進学を反対したのか?

南野モリコ

 

映画『アナと雪の女王』の主題歌のサビ部分、「少しも寒くないわ~♪」を強がって歌っている筆者モリコです。今月は『赤毛のアン』の陰の女王、リンド夫人について深読みしてみました。熱々のチャイで温まりながら、気楽にお読みください。

『アンの夢の家』松本侑子訳(文藝春秋、2020年)

 

マリラはフリーランス女性、リンド夫人は、オフィスのリーダー・タイプ?

 『赤毛のアン』は、結婚せずに年をとったマシューとマリラのカスバート兄妹が、孤児院から男の子を引き取ろうとしたところから物語は始まります。実際には、女の子のアンが送られてきたのですけどね。

カスバート兄妹の小さいようで大きな決心を村いちばんに知り、「とんでもなく馬鹿げたことをしようとしている」と、猛反対するのがリンド夫人です。

しかし、このリンド夫人、初対面の時こそ「赤毛でみっともない」と言い放ち、アンを歓迎しない態度をとりますが、第15章でアンが「学校に行かない」と宣言した時には、「私ならアンが言い出すまで学校の話はしない」とアンの肩を持ちます。

マシューがパフスリーブのドレスをプレゼントしようとした時にも、「アンが人並みの身なりをすると思うと本当にほっとする」と言い、アンの気持ちに寄り添っています。マシューはリンド夫人を「ずけずけものを言う」うるさ型おばさんのように言っていますが、マリラよりもずっと頭が柔らかく、世間に通じているように見えます。

第1章によると、マリラとリンド夫人は、「少しも似たところがないのに──というより多分そのせいで──二人には友情としか言いようのない類の感情が通い合っていた」とありますよね。マリラとリンド夫人の性格の違いはどこにあるのでしょうか?

  

物語の最初に登場するのはリンド夫人ですが、作者モンゴメリはマリラの親友、レイチェル・リンド夫人のことを「切り盛りのうまい主婦で、家事はいつも申し分なくこなすうえに、裁縫の集まりを開き、日曜学校を手伝い、教会援護会と海外伝道後援会の顔役でもあった」と紹介しています。

若い頃のロマンスについては不明だけれど、「レイチェル・リンドのご亭主」と呼ばれる目立たない男性と結婚しており、主婦として優秀であるうえに、社会活動をしているところから見て、アヴォンリー村の発展に尽くしたいタイプのように見えます。

 

一方マリラは、住まいの隅々まで埃一つなく、一日に何度も掃き掃除をしているところから、彼女の関心は専ら「家」にある、インナー系のような気がします。物語の中盤では、ギルバートの父、ジョンとの初恋に敗れてから、50代まで独身を貫いているところから、社会の目より自分の主義を優先させる生き方を感じさせます。

 

働き方に例えたら、マリラの関心は「家」にあり、村のコミュニティー的な場所から少し離れた場所に暮らすフリーランス・タイプ。リンド夫人は、村全体を第一に考える、今でいえばオフィスのリーダー・タイプではないかと深読みしました。

第18章によると「熱狂的な政治好き」なリンド夫人。時代が違えば、村の議員選に出馬したかもしれませんね。まあ、単なる深読みですけどね。

 

 

リンド夫人がアンの大学進学を反対したのは「村の少子化」を懸念したから?

『赤毛のアン』の世界を楽しむ人たちにとっては、手芸や料理など、手作りを大切にするライフスタイルが物語の大きな魅力ですが、シリーズ5冊目『アンの夢の家』にもなると、やや異質な雰囲気を放つ「電話」が登場しています。

アンは、「のんびりした昔ながらのアヴォンリーに電話があるなんて」と残念がりますが、リンド夫人は「行列に送れてはなりませんよ」と、電話回線を歓迎しています。リンド夫人が村の発展を願っていることがここでも分かります。

第13章で、アンは教会のピクニックでアイスクリームが食べられると言って大興奮していますが、そのアイスクリームを作ってくれるのはリンド夫人です。リンド夫人はアヴォンリー村に新しいものを取り入れたいようです。

しかし、大学に進学して教師となり、職業を持つ「新しい女性」になっていくというアンの夢についてはよく思っていません。アンが大学進学を諦めた時にも、「よかったですよ。男と肩を並べて大学へ行って、ラテン語だ、ギリシア語だと、くだらない知識をつめこむような娘はどうかと思いますよ」と言っていますよね。

なぜリンド夫人は女性が教養をつけることをよく思わないのでしょうか? それは、女性が高学歴化していくことで、女性が社会進出し、女性の晩婚化、未婚化が進むことを予想しているからではないかと深読みしました。

女性の結婚が遅くなったり、独身女性が増えていったりすることは、村の少子化を意味します。賢いリンド夫人は、大学に進む女性が増えるその先のことを懸念したのではないかと思うのです。アヴォンリー村小学校のステイシー先生も未婚ですよね。

 女性の地位向上と少子化の問題は、豆とにんじん(映画『フォレスト・ガンプ』より)のようにワンセット。作者モンゴメリも、それが分かっていたから、アンに大学進学の夢を持たせる一方で、リンド夫人のような登場人物を創ったのでしょうね。ま、単なる深読みですけどね。

 

[参考文献]

モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

 

 

[ライタープロフィール]

南野モリコ

『赤毛のアン』研究家。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。
Twitter:南野モリコ ID @names_stories

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