赤毛のアンのお茶会 第45回

第45回 マリラとミス・ラヴェンダーを比較してみた

南野モリコ

「赤毛のアン深読みニスト」南野モリコです。11月だというのに夏のような暑さが続きましたね。おかしな秋です。さて今月は、マリラとミス・ラヴェンダーについて深読みしてみました。「ふーん、へえ、そんな考え方もあるのね」と焼き芋でも食べながら気楽にお読み下さい。

ミス・ラヴェンダーは2人目のマリラだったかも?

『赤毛のアン』は、プリンスエドワード島アヴォンリー村に住むマシューとマリラ兄妹のところに「男の子と間違って」孤児院から送られてきた赤毛の少女、アンが周囲の人たちを魅了しながら幸せになっていく物語です。本作は個性豊かなキャラクターが多く登場しているのも魅力のひとつ。シリーズ全12冊通してなんと2400人もの人物が登場しています(筆者調べによる)。
2400人の中には、一度だけ名前とエピソードが紹介される人物も膨大にいるのですが、たった一度でも強烈な印象に残るキャラクターが多いのに驚きます。
さて、その驚異的な数の登場人物の中でも、筆者がSNSでこっそり行う人気調査で上位にランキングされているのが、アンの養母となるマリラと、シリーズ第2巻『アンの青春』第21章から登場するミス・ラヴェンダーです。
マリラとミス・ラヴェンダー、似ていると思いませんか? それぞれ若い頃、別れた恋人がおり、それ以降恐らく恋愛はしないで未婚を貫いています。マリラにはグリーン・ゲイブルズが、ミス・ラヴェンダーにはこだま荘と、どちらも「家」を持っています。そして、どちらも村の繁華なエリアより少し離れた場所に位置して建っており、やや人と離れた場所にいることが好きにも関わらず、家を素敵に整えていて、もてなし上手ですよね。
そして、マリラにはアンが、ミス・ラヴェンダーには住み込みのメイド、シャーロッタ四世がいます。
もしかしたら、モンゴメリはミス・ラヴェンダーを第2のマリラとして登場させたのではないかとも深読みしてもおかしくありませんね。

アンはマリラの家族。シャーロッタ四世は、メイド。

もちろんマリラとミス・ラヴェンダーには大きな違いが幾つかありますが、一番大きな違いは、それぞれのアンとシャーロッタ4世との関係性です。
マリラはアンを使用人ではなく、家族として引き取り、「マリラ」と呼ばせて対等に付き合っています。(第44回拙コラム参照)

一方、シャーロッタ四世はメイドであり、ミス・ラヴェンダーとは雇用関係があります。仲はもちろんいいのでしょう。しかし、こだま荘の名前の由来を尋ねられた時も、ミス・ラヴェンダーは「吹きなさい、シャーロッタ」と言っており、言葉も命令調です。
また、シャーロッタ四世という名前も、彼女の本名ではなく、ミス・ラヴェンダーが「姉妹がそっくりで見分けがつきにくいから」という理由でつけたニックネームであり、本名を聞かれても「レオノーラだったかしら」と、うろ覚えであることを告白しています。
こう言ったことからも、ミス・ラヴェンダーは、マリラと比べて他人への興味が希薄であることも深読みできます。
もちろんミス・ラヴェンダーは、想像することが好きで、もてなし上手の魅力的な女性であることは言うまでもありません。『アンの青春』第30章では、アンのお気に入りの生徒であるポール・アーヴィングの父親とこだま荘でロマンチックな結婚式を挙げ、ハネムーンに旅立ちますからね。
マリラもシリーズ第3巻『アンの夢の家』で、昔の恋人、ジョンの息子であるギルバートとアンの結婚式をグリーン・ゲイブルズで挙げています。やはりミス・ラヴェンダーは、2人目のマリラだったかもしれませんね。ま、単なる深読みですけどね。

 

参考文献
モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

[ライタープロフィール]
南野モリコ
赤毛のアン深読みニスト。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。
X(旧Twitter):南野モリコ ID @names_stories

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