赤毛のアンのお茶会 第39回

第39回 なぜバリー夫人はダイアナを酔っ払わせたアンを絶交させたのか?

南野モリコ

 

「赤毛のアン深読みニスト」の南野モリコです。今年の桜はパッと咲いてパッと散っていきましたね。さて今月は葉桜の吹雪の下、ダイアナのママ、バリー夫人を深読みしてみました。グリーン・ゲイブルズの庭にある「雪の女王様」を思い浮かべながら、気楽にお読みくださると嬉しいです。

菱田信彦 著『快読『赤毛のアン』』(彩流社、2014年)

 

バリー夫人はアンとダイアナが遊ぶことを最初から快く思っていなかった?

 『赤毛のアン』は、結婚せずに年をとったマシューとマリラ兄妹に引き取られた孤児アン・シャーリーが、春の光のような明るさと利発さでアヴォンリー村の人々を魅了しながら成長していく物語です。

そのアンに最初に魅了された1人がダイアナです。アンはカスバート家に引き取られることになった時、「私はこの村で腹心の友ができるかしら?」とマリラに聞きます。「腹心の友」とはアン流の言い回しで「親友」という意味ですね。マリラは、小川を挟んだ向かいに住むバリー家のダイアナがちょうど同じ年だと言います。

「永遠の友情」を誓い、すぐに仲良しになったアンとダイアナ。しかし、第16章でラズベリー水と間違えてスグリ酒を飲ませ、ダイアナを酔っ払わせてしまいます。村岡花子氏の名訳で知られる「いちご水事件」ですね。

この「いちご水事件」がダイアナの母、バリー夫人の逆鱗に触れ、アンと遊ぶことを禁止されてしまいます。マリラが事情を説明しようにもろくに話を聞いてくれません。アンはダイアナと遊べない悲しみで「絶望のどん底」にいるような気分になってしまいます。

さて、バリー夫人はなぜここまでアンのことを怒り、ダイアナと遊ぶのを禁止してしまったのでしょうか? アルコールを飲ませてしまったのはアンがつい間違ったからで決して故意ではないし、同じ年の娘の母親であるバリー夫人が、11歳の女の子にここまで怒るのは、大人げない気がしますよね。

ここで思い出していただきたいのは、マリラの「いい子でないとバリー夫人がダイアナと遊ばせないよ」というセリフです。この「いい子でないと」という言葉の裏には、アンが孤児だという事実が含まれているような気がします。

マリラがアンを連れてダイアナに会いに行った時、バリー夫人は「遊び友達ができてありがたい」と言い、アンを歓迎しています。しかし、それは表向きであり、実際には自分の娘が血筋も分からない孤児のアンと遊ぶことを嬉しく思わなかったのではないでしょうか。

ダイアナのお母さんは、娘を日曜学校の聖歌隊で歌わせ、お金持ちのジョセフィン・バリー夫人を家に招き、ダイアナを音楽学校に通わせる学費の援助をしてもらおうとするくらい、娘の教育に熱心です。そんなバリー夫人が、はたして孤児が娘の遊び友だちにふさわしいと思うでしょうか。

マリラとアンが訪ねてきた時は、出会ったその日に生涯の友情を誓うほど仲良くなるとは思わなかったかもしれませんよね。

バリー夫人は、ダイアナがアンと遊ぶのをやめさせる機会を待っていたのではないでしょうか。そこにきて「いちご水事件」が起こったので、ここぞとばかり怒って反対したのではないかと思うのです。ちょっと意地悪な見方でしょうか。まあ、単なる深読みです。

 

バリー夫人は「負け犬」カスバート兄妹を見下していた?

そもそもバリー夫人は、カスバート家のマシューとマリラ兄妹に対してもリスペクトがなかったかもしれません。

菱田信彦は『快読『赤毛のアン』』(彩流社、2014年)で、ダイアナの家族、バリー家はアイルランド系のカトリック教徒であり、そのためバリー夫人はアルコールを毛嫌いしていたと考察しています。

『赤毛のアン』の時代、19世紀末から20世紀初頭にかけては、禁酒運動がさかんな時代です。バリー夫人が、家でスグリ酒を作っているマリラのことをよく思っていなくても不思議ではありません。実際、マリラが会いに行った時も「カシス酒のことであてこすりされた」と言っています。

またカスバート家は、マシューもマリラも兄妹揃って未婚で年をとっています。マシューにいたっては、女性と口もきけないくらい気弱で内向的です。

先に書いたように、バリー夫人は娘のダイアナを日曜学校の聖歌隊で歌わせたり、ジョセフィン・バリー夫人の援助を得てまで音楽学校に通わせようとしたりするくらいですから、とても上昇志向の強い女性です。

兄妹揃って未婚で、妹はこっそり(?)自家製の酒を作っていて、兄は女性と口をきくことすらできない風采のあがらない男とくれば、カスバート家を自分たちより下に見ていたとしても頷けます。そんなのが、このリスペクタブルなバリー家のダイアナを得体の知れない孤児アンと遊ばせようなんて、身分をわきまえないにも程があるってものですよね。

「いちご水」事件でバリー夫人があそこまで怒ったのは、アンが、アヴォンリー村の負け犬一家と見下しているカスバート家の「子ども」だったからではないかと深読みしました。

とはいえ、ミニーメイを看病し、アンの誤解が解けてからは人が変わったようにアンを大切にもてなすようになったのですから、悪いママではないんですよね。まあ、単なる深読みです。

 

 

参考文献

モンゴメリ著、松本侑子訳『赤毛のアン』(文藝春秋、2019年)

 

 

[ライタープロフィール]

南野モリコ

赤毛のアン深読みニスト。慶應義塾大学文学部卒業(通信課程)。映画配給会社、広報職を経て執筆活動に。Twitter:南野モリコ ID @names_stories

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