彩流社43 安和桟橋での死亡事故
平良 愛香
いつ書こうか、まだ待ったほうがいいのか、ずっともやもやしている事柄があります。辺野古工事関連で昨年6月に死傷者が出ているのに、ほとんど報道されていないどころか、いまだに概要が明らかになっていない事実。もっと明らかになってから書こうと思っていたのですが、刻刻と時が過ぎており、「このまま薄れさせようとしているのではないか」という危惧もあって、今回このことに触れることにしました。詳細が(意図的に?)明らかになっていないこともあってファクトチェックができず、もしかしたら正確ではない部分もあるかもしれませんが、ご了承ください。
2024年6月28日午前10時過ぎ、辺野古新基地建設の埋め立て用の土砂を搬送するダンプカーが、名護市安和桟橋の出口付近で住民と警備員を巻き込むという死傷事故が発生しました。安和桟橋の作業ヤードから出るダンプカーは国道を左折します。辺野古の基地建設に反対する市民が、その出口をゆっくり横断して、なるべくダンプカーが出ないよう、2018年12月から抗議行動をしてきました。とはいっても全く封鎖することはできないので、市民が横断している間はダンプカーは出さない、という牛歩の抗議行動です。いつしか警備会社・事業者・抗議者の間で、「抗議者が出口前を片道を歩いたらダンプを1台出す」、「右側、左側とダンプを交互に出し、同じ側から2台連続して出さない」、「抗議者はダンプ運転手に手をあげて合図をしてから歩き始める」等の「暗黙のルール」ができていました。抗議行動は安全に配慮して行われてきたので、これまで大きな事故も起こりませんでした。
ところが、2023年末に警備会社が変わり、24年2月ごろから工事の元請業者が変わったためか、ダンプの誘導方法が強引になり、「2台出し」や、抗議者が渡り終えていないうちに見切り発車のようにダンプを出すなど、危険な状態が発生するようになっていました。2024年1月から3月にかけて、桟橋出口の国道で、ダンプカーと一般車両の交通事故が4件立て続けに起こっていることも、ダンプの出し方が強引になったことと無関係ではないと思われます。
その日(6月28日)、同じ側のダンプが連続して出る危険な「2台出し」が行われたので、「ルールを守れ」と、抗議に歩きだそうとしたAさんが警備員Cさんに制止されました。Aさんの抗議によりダンプカーは停止。ダンプカーの台数記録のために後ろにいたBさんも抗議しようとダンプに近づいたところ、BさんもCさんに制止された。そこに一時停止せずに、かなりの勢いで発進してきたダンプカーがBさんとCさんに衝突したのだそうです。Bさんのおなかの上をダンプカーが通過して本人は重傷を負い、警備員のCさんははねられて亡くなりました。起こってはならないことが起きたのです。
現在オール沖縄会議は沖縄防衛局に以下の要請をしています(平良による抜粋)。
1.今回の死傷事故の原因は、防衛局が辺野古新基地建設事業の工事を急がせるために、業者に無理を強いたことにあると思われる。防衛局は、全ての工事を中断し工事の在り方を全面的に見直すこと。
2.防衛局は一方的に搬出作業の再開を決めるのではなく、「事故原因」、「安全対策」について知事に説明すること。
そもそも、車両乗り入れ部は歩行者優先ですし、そこを横断する歩行者がいた場合、車両は待機して待たなければなりません。また、警備業法15条には「(警備員は)他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない」とあります。ところが沖縄防衛局は、「妨害するほうが悪い」と言わんばかりに8月16日に県知事に対して「妨害しないように市民に呼びかけてほしい」と要請を出してきたうえに、22日には安和桟橋からの土砂搬出を再開してしまいました。しかも事故の調査は始まっていないのか進んでいないのか、一行に報告が出てきません。沖縄で基地がらみの事件・事故が起きた場合、それがかなり大きな事柄だったとしてもほとんどニュースとして扱われない現実。つい「国の政策に対する不満が高まらぬよう、また隠蔽しようとしているのではないか」と思ってしまうのです。
東京で辺野古新基地建設に反対の防衛省前行動をしていたら、辺野古基地建設推進の人たちから、「辺野古に反対する人たちが警備員を殺した」とまで言われました。あまりの言葉に絶句し、命が失われたことすら自分たちの主張に利用しようとする発言に、怒りと悲しみでいっぱいになりました。沖縄ではこういうことが起きている。そして日本にはほとんど知らされていない。そのことに気づいてほしいと思い、書かせていただきました。
[ライタープロフィール]
平良 愛香(たいら あいか)
1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。