僕がゲイで良かったこと 第26回

第26回 沖縄島と沖縄本島

平良 愛香

 

「僕がゲイで良かったこと」というタイトルで始まったこのコラム。ずいぶんセクシュアリティとは離れたところの話になってしまってるなあ、と感じてる人も多いかもしれません。僕自身がそう感じているのですから。でも、たまたまウチナンチュ(沖縄の人間)として生まれた僕と、たまたまゲイとして生まれた僕は、どちらも切り離せないのです。そして、ゲイであるとはどういうことかを突き詰めて来たのと同じように「ウチナンチュであるってどういうことだろう」という突き詰めも、とても大切だと気づかされるのです。もう少しお付き合いくださいませ。

前回「万国津梁の鐘」の話を書きました。「琉球王国は南の海にある蓬莱の島で、船を万国の掛け橋にして貿易によって栄える国である」と刻まれた鐘。とてもいい話です。けれど別の面も感じるのです。琉球王国によって苦しめられた人たちがいるという現実です。

沖縄県庁所在地である那覇市がある島を「沖縄本島」と呼ぶことがあります。行政的にはそれが正しい名称なのでしょう。でも本島って本当? なぜ「本島」と呼ぶのか考えたことはありますか? 一番面積が広いから? 県庁所在地があるから? それとも昔の首里王朝があったところだから? どうして「本島」と呼ばれるようになったのかという経緯を私は知りません(読者の中で詳しい経緯をご存知の方がいましたら、是非ご連絡ください)。でもちょっと気になるのです。

この島は中心の島、メインの島であって、あとは「周辺」なのだろうか。誰がそう決めたのだろうか。それ以外の島が「先島(さきしま)」と呼ばれることがあるけど、それでいいのだろうか。

確かに琉球王国の歴史を見ると、首里王朝が回りの宮古、八重山、そして奄美をも支配してきた歴史があることも分かります。琉球王国は「貿易で繁栄した国」であったと同時に、「周りの島々を搾取し、苦しめた国」であったのも事実です。首里から人頭税という悪税を強要されて宮古島民が苦しんだという話は有名です。所得に関係なく、15歳から50歳の人数で税金を課すという人頭税により、多くの島民が飢えに苦しみました。宮古島には「人頭税石」という145センチほどの高さの石が残っており、この高さにまで子どもが成長すると税の対象になった、という年齢ではなく身長による課税伝承が伝わっています。

現在ではこの石は天体の観測のためのものとされ、人頭税との関わりは完全に否定されていますが、そういった伝承が出てくるほどに、島では人頭税が被抑圧の歴史として知られているのだろうな、と感じます。(実は人頭税は宮古や八重山だけでなく、沖縄島でも行われていたのですが、小さな島ほど負担が大きかったというのは事実でしょう。)

沖縄は戦争や軍事基地によって多大な「被害」を受けていますが、逆の面からみると「加害者」としての一面も見えてきます。これは沖縄に限らず、すべての事柄で言えるかもしれませんね。(障がい者差別について学んでいくと、障がい者同士でも差別があることに気付かされますし、LGBT差別について学んでいくと、やはりその中にも差別があることに気付きます。女性差別も起こりますし、性別適合手術を受けているトランスジェンダーが、受けていないトランスジェンダーを差別することがあるという話も聞きます。「抑圧されている側がさらに弱者を抑圧する」という負のスパイラルが生じやすい、というのは、きっと抑圧されていることが問題であり、「加害者にさせられている、のであってやっぱり被害者である」と言う事もできるのでしょう。けれど、そう言ってしまうことで責任逃れをするわけにはいかない、といつも感じています)。

少し話がそれてしまいましたが、沖縄島を無自覚に「沖縄本島」と呼ぶことで、周りの島を「周辺」「付属品」のように扱ってしまうことに、私はいつも疑問を持つのです。実際そのように扱われていると感じている宮古、八重山の人たちは多いのではないでしょうか。「沖縄県の基地の問題のニュースはヤマト(沖縄以外の日本)ではなかなかニュースにならないけど、宮古・八重山の問題は沖縄(島)ですらニュースにならない」と言われたことがあります。(宮古・八重山の人たちは沖縄島のことを「沖縄」と呼ぶことが多いです。沖縄島に行くことを「沖縄に行く」と普通に言っているのですから)。

そういうこともあり、私自身は「沖縄本島」という言葉をあえて避けて「沖縄島」と呼んでいます。意外と私の周りにはそう呼んでいる人が多いですね。面倒でしょうか? 是非、面倒だと思ってください。そういった「名称」や「言葉」の選びって、実は面倒だからこそ意味があるし、面倒だと感じることがそれだけ「無意識に抑圧に加担しているのかもしれない」と考えるきっかけになるのですから。次回は「沖縄ってほんとうに沖縄県?」という話を書いてみたいと思います。

 

 

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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