湘南 BENGOSHI 雪風録 第24回

ネットと表現 3/3

山本 有紀

侮辱罪の法定刑が、今年7月7日から引き上げられました。

⁂ ⁂ ⁂

これまで侮辱罪について刑法231条は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」と定めていました。拘留とは、1日以上30日未満の間刑事施設に拘置すること、科料とは、罰として千円以上1万円未満のお金を払わせることです。

この定めが、7月7日からは「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」となりました。

すなわち、侮辱罪にあたる行為をした者には、拘留、科料以外にも、1年以下の懲役もしくは禁錮という身体の自由を奪う刑や、30万円以下の罰金という、より重い刑がありうることになりました。

ちなみに懲役と禁錮は、刑事施設に暮らすという点では同じですが、懲役では刑務作業が課せられるのに対し、禁錮では課せられないという違いがあります。

私が刑務所見学で実際に見た懲役中の人たちは、着物を畳んで収納するための紙製の袋をつくっていました。

⁂ ⁂ ⁂

 法務省は、侮辱罪の法定刑引上げを行うに至った理由に、インターネット上の誹謗中傷が特に社会問題となっていることを契機として、誹謗中傷全般に対する非難が高まるとともに、こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民の意識が高まっていることを指摘しています。

確かにインターネットを見ていると、他人を誹謗中傷する内容の書込みは、そこかしこに見られます。インターネット上の誹謗中傷が、人を死に追いやった事件もありました。

⁂ ⁂ ⁂

刑法においては、いずれの罪についても保護法益といって、法律によって守られるべき利益がそれぞれ設定されています。

侮辱罪の保護法益は、外部的名誉(人の社会的な評価)であるというのが通説です。

しかし、ネット上の誹謗中傷が現に問題となっているのは、それが人の社会的な評価を落とす結果を招くことよりも、誹謗中傷によって本人が精神的な苦痛を受け、場合によっては日常生活が送れなくなる、安心してネットが使えなくなるといった被害が招かれることにあります。

そのため、外部的名誉を保護法益とする侮辱罪の法定刑を重くすることは、ネット上の誹謗中傷を抑制することには必ずしもつながらないのではないか、という問題提起を含む意見書を日本弁護士連合会が出しています。

確かに、例えばTwitterのダイレクトメッセージのような第三者の目に届かないところでの誹謗中傷により、大きな精神的な苦痛を受けた場合。第三者の目の触れない以上、公然と侮辱したとはいえず、侮辱罪が成立しない場面がありえます。

⁂ ⁂ ⁂

ところで、侮辱罪と一見似ているようで異なる罪として名誉毀損罪というものがあります。名誉毀損罪と侮辱罪とは、具体的な事実を摘示しているかどうかで区別されます。

名誉毀損罪にいう「具体的な事実」というのは、嘘の事実でも構いません。

⁂ ⁂ ⁂

 裁判の書類をアップしないまでも、裁判のことをインターネットに書いてもいいですか?と尋ねられることが時々ありますが、当事者の感情面での対立が鋭い中でブログに裁判のことを書いてしまうことは、書き方によっては侮辱罪や名誉毀損罪に該当する行為となることがあります。

 

 

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。

タイトルとURLをコピーしました