湘南 BENGOSHI 雪風録 第7回

2020年11月15日

山本有紀

◇10月○日

建築の技術面の知識が必要な事件。

依頼者さんと打合せを重ねる。

⁂ ⁂ ⁂

生活を取り巻く物理的なあれこれが、どう作られているのかを聞けるのはとても興味深いです。いろんな専門の業者さんがいらっしゃるんだなあ……と感心します。ひっそり街にたたずむこの建物も! あの建物も! いろんな人の手と技術によって生まれたんだねえ……。

しかし感心しているだけでは当然済まず、ご依頼を受けたからには、こちらがちゃんとお話を聞き取って書面に書かなければなりません。そして聞き取ったままを書面にするだけでなく、法的な主張の形にする必要があります。

弁護士は大抵文系ですが(かなり稀ですが、時々医師や技術士の免許を持ってらっしゃる弁護士もいますね……すごい)、書面を読む側の裁判官もおよそ文系なので(別の仕事をしていたことのある裁判官、は別の仕事をしていたことのある弁護士、より少ないと思う)書面をわかりやすく書くよう心がけ、工夫をするようにしています。

また私は近頃、先輩弁護士に見習って、事件を理解するために、依頼者さんにお話を聞くのと併せて実際に現地に繰り出してみるようになりました。同じように歩き回っている弁護士は結構多いのではないかと思います。

弊所最年長弁護士の言っていた「弁護士3つのW」。WRITE(書く。書面をとにかく書く)、WAIT(待つ。相手の出方等。調停事件も待ち時間が結構あります)、WALK(歩く)は的を得ている……弁護士の友人はこの前佐渡まで行ったと申しておりました。

なお、技術的な知識が必要になる事件は、事件を見極めるべく裁判所が専門家を呼ぶこともあります(民事訴訟法92条の2以下)。

◇10月□日

相手方が弁護士をつけていない事件の期日。

⁂ ⁂ ⁂

先ほど依頼者さんのご依頼を受けたからには、と書きました。

弁護士は、刑事事件では弁護人、少年事件では付添人、その他の事件(一般民事や家事事件等)では代理人と呼ばれます。

代理人とは一般に本人を代理する人の意です。すなわち、実は一般民事や家事事件は、代理人である弁護士に依頼しなくても、自分で臨むことができます(未成年者及び成年被後見人を除く)。

日弁連によれば、「民事第一審通常訴訟事件の弁護士選任率」(※1)は2018年度で86.8%。民事第一審通常訴訟事件のおよそ10件に1件は原告被告のいずれにも弁護士がついていません。そして5件に2件はどちらか一方にしか弁護士がついていないそう。びっくり! 本人訴訟多い! まだもっとがんばらなくてはならないのか……!

ちなみに、同統計によれば一方にしか弁護士がついていない事件のうち、原告にのみ弁護士がついている事件は被告にのみ弁護士がついている事件より圧倒的に数が多いです。家賃を滞納したままどこかに行ってしまった借主に対して、貸主である会社が訴訟を提起する事件だと、原告のみ弁護士がついていて、被告側は弁護士をつけないことはもちろん、本人も裁判所に現れない場面が多いのかなという予想を持っています。

もっとも、訴状が届いた場合、内容よくわからないし、知っている弁護士もいないし、とりあえず初回は行かないでおこう……訴状は引き出しにしまっておこう、としてしまうのは一番よくないです。

というのも、訴状の記載内容が事実と異なる場合であっても、裁判所に出頭して自分の言い分を伝えないと、相手方(原告)の言い分のまま請求が認められてしまうリスクがあるからです。もし訴状が届いたときは、とりあえず指定された日にちに裁判所にいきましょう。

◇10月△日

電話相談の中の人になる(再び)。

どうしても通常の相談のようにじっくりとは聞けないなか、要点をとらえて出来るだけわかりやすい説明を心がける。

⁂ ⁂ ⁂

電話口で、訴訟タダで頼めますかと聞かれることがあります。

正味な話、全くのタダは厳しい……。

現にお金の準備が難しい場合、例えば法テラスに訴訟費用を立て替えてもらい分割で返済する方法が考えられます。

上に書いたとおり、ご自分で訴訟を起こすこともできます。

でもそれでもやっぱりお金はかかります。

弁護士をつけなかったとしても、訴訟を提起する際は、裁判所に対する申立費用を印紙で納める(印紙の額は起こす訴訟の種類や、相手に求める支払額によって変動します)と同時に、郵便切手を買って裁判所に渡さないといけません。

郵便切手は、普通の人なら1年間でもそんなにつかわないよという量(通常の訴訟であれば6000円程)を納めるように言われると思います。訴状等の書面を相手方に送る際に使う郵便切手なので、2人以上を相手に訴訟を起こす場合は、納める切手の額はさらに大きくなります。

でも実際に裁判に出てみると、裁判所は収めた額をはるかに超えて熱心に事件に向き合ってくれるという印象を持たれるかと思います。ある意味裁判官も司法を担う専門の業者さん……そして弁護士を頼めば熱心に向き合う人の数は2倍に(突然の宣伝)!

※1 「弁護士白書 2019年版」

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。
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