第29回 突然の最終回にお伝えしたい、いちばん大切なこと
スージー鈴木
ご愛読いただいてきた「スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ」、突然ですが、今回で最終回となります。
連載をさかのぼれば、2022年1月から書いていたんですね。当時「ロックンロール・サラリーマン」というコンセプトを思い付いてから2年とちょっと。その間に、コンセプトに沿った本を2冊も、上梓できました。
昨年『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』(新潮新書)を、そして今年『サブカルサラリーマンになろう~人生をよくばる108の方法』(東京ニュース通信社)。ありがたいことです。
この連載とこの2冊で、「ロックンロール・サラリーマン」という働き方について、自分より下の世代に伝えたいことは伝えきった、書ききったという感じもあります。というわけで突然かつ勝手ながら、今回で最終回とさせていただきます。
自分の書いたことが最初の一滴となって、少しずつ少しずつ広がっていって、結果、これからの日本に、会社一辺倒、仕事一辺倒ではないロックンロールなサラリーマンが、少しでも増えればいいなと思っております。僭越ながら。
- 「もうひとりの自分」と一緒にプレゼンする感覚
思えば、私が会社を早期退職したのが2021年の11月で、その後すぐにこの連載がスタートしたわけです。
自らの経験に基づきながら、会社員の働き方を、あらゆる方面からいろいろと考え続けた2年とちょっとでしたが、その結論として、ロックンロール・サラリーマンになるために、いちばん大切、そしてもっとも基本的な奥義を1つだけ挙げるとすれば、それは――「自分を見つめるもうひとりの自分を持つ」ということだと思います。
会社員時代、社内や取引先に対する「プレゼン」の機会が、死ぬほどありました。きれいな資料を作って、それをホッチキスで綴じ込んで配布したり、投影したりして、「えー、私たちの考えは……」なんて説明をするのに追われ続けた約30年。
そんなプレゼンを何年か繰り返していると、話している最中に「もうひとりの自分」が現れてくるようになります。あ、ちょっと精神世界っぽい、オカルトっぽい話になってきましたが、続けますね。
「おいおい早口過ぎるで」「今のは伝わってないわぁ、もう一回繰り返して」「おっウケたやん、最高」「あと2分くらいで締めよか」……なんて言葉をかけてくる「もうひとりの自分」が、斜め後ろから寄り添っている感覚――。
プレゼン中に「もうひとりの自分」が現れてくるまでに、私の場合はそうですね、10年くらいかかったでしょうか。で、逆にいえば、「もうひとりの自分」が現れてこない限り、その人のプレゼンは、まだアマチュアレベルという気がするのです。
- 「もうひとりの自分」と一緒に働き、一緒に生きる
話を戻すと私は、会社員たるもの、プレゼンの場だけでなく、日々の仕事の間じゅう、そういう「もうひとりの自分」をずっと寄り添わせながら、働こうと言いたいのです。
もっといえばロックンロール・サラリーマンたるもの、ロックンロールな「もうひとりの自分」とともに働く。ロックンロールで、素直で元気で感覚的で、年の頃はたぶん10代ぐらいの「もうひとりの自分」――。
そんな「もうひとりの自分」は、もちろん、ロックンロールなことを耳打ちしてきます――「さすがに最近、忙しすぎるやろ」「今日のコンサートは、絶対遅れたらあかん」「家族、ずっとほってらかしっぱなしやで」「このまま定年でええんか?」「お前の人生、ロックンロールが足りへん!」
会社というものは、いやそもそも働くということ自体、「もうひとりの自分」を抑えにかかります。自分を客観視せず、会社だけ、仕事だけを見つめて、一心不乱で働けという圧力をかけてくる。
それでも歯を食いしばって、ロックンロールな「もうひとりの自分」を呼び寄せて、グッと腕をつかんで寄り添わせる。
その「もうひとりの自分」は天からの目線を持っています。あなたの仕事だけでなく健康状態、精神状態、家庭環境、さらには夢、野望、ひいてはあなたという人間が獲得すべき、この世界における存在意義みたいなものまで熟知しています。
そんな「もうひとりの自分」と一緒に働くのです。一緒に生きるのです。そして「もうひとりの自分」のロックンロールな教えに、素直に耳を傾けて生きていく――これがロックンロール・サラリーマンに向けてのいちばん大切な奥義だと思ったのでした。
というわけで、「もうひとりのスージー鈴木」が、「もう次に行くべきなんじゃないか」と言い出したので、この連載は、新企画へと発展解消します。ありかとうございました。
――♪子供達が笑ったり泣いたりする限りロケンロールは死なない(THE HIGH-LOWS『THE GOLDEN AGE OF ROCK’N’ROLL』)
[ライタープロフィール]
スージー鈴木(すーじーすずき)
音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演多数。
著書…『サブカルサラリーマンになろう』(東京ニュース通信社)、『〈きゅんメロ〉の法則 日本人が好きすぎる、あのコード進行に乗せて』(リットーミュージック)、『弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる』(ブックマン社)、『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)、『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』『サザンオールスターズ 1978-1985』『桑田佳祐論』(いずれも新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)、『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。