第11回 オフィスの中での「最強の態勢」について
スージー鈴木
今回は「最強の態勢」について考えてみたいと思います。具体的には、会社の中の自分のデスクで作業をするときに、もっとも作業に集中できる態勢・姿勢・環境について。
と、「自分のデスク」とさらっと書きましたが、最近では「フリーアドレス」といって、デスクも椅子も共有になっていて、好きなところで仕事をするという形態のオフィス環境が増えています。となると「自分のデスク」という概念はなくなりますね。
でもすいません、私、そういうオフィスは、ほとんど経験しなかった世代ですので、自分のデスク・自分の椅子があった時代の昔話をしたいと思います。でも、フリーアドレスでも参考になる部分があるかもです。
集中力の高まる「最強の態勢」、言い換えると、ロックンロールなスピード感を作業にもたらす態勢について、私の会社員時代の話をします。もちろん、そんな態勢は、人によってかなり異なるはずですので、私の話を参考にしながら、みなさん自身の「最強の態勢」を見つけてほしいと思います。
まず座り方です。私にとっての最強の座り方。まず、椅子はかなり高くしていました。そして右脚は普通に床に付けながら、左脚だけ、いわゆる「あぐら」の形にして、椅子に乗せる。
高い椅子と左足あぐら。両方とも、理由は分かりませんが、なぜか身体にしっくりときたのです。あえて理由を見つけ出せば、高い椅子は、視野が高くなり、オフィス全体が見渡せる気持ちよさがありました。また左足あぐらは、受験勉強のときから身体になじんでいたもので、デスクに乗せたノートPCに向かって下向き加減になるときに、腰のあたりの感覚がちょうどいい。
デスクの上は、正直かなり散らかっていました。ここらあたりはフリーアドレス時代には通用しない話かもですが、仕事に関する資料や物が、ノートPCの周りに雑然と並んでいるのが、好きだったのです。逆に、フリーアドレスだ、新しいオフィス環境だといって、整然とし過ぎていると集中できないのではないかと感じる私は、そう、旧世代だ。
ノートPCの近くに、様々な資料や物を並べて、それらを必要に応じて、最短距離で手に取れるようにしていました。そして1つの仕事が終わると、それらを一気に片付けたり、捨てたりするときの快感たるや。あぁ、懐かしい。
そしてイヤフォンをして、いつも音楽を聴いていました。その昔は、PCにCDを入れて聴いていたものでしたが、いつの間にかPCにCDドライブがなくなり、そもそもサブスク時代になって、CDそのものを聴かなくなり。
私が愛聴していたのはradiko(ラジコ)です。ご存じ、インターネットでラジオが聴ける機能。PCに指したイヤフォンでradikoを聴く。それもradikoプレミアムに加入して、日本中のラジオを聴く。
会社生活の晩年は、大阪のFM COCOLOというラジオ局をよく聴いていました。「日本初、OVER 45のためのMUSIC STATION」を標榜したラジオ局だけあって、私世代に懐かしかったり、馴染みやすかったりする曲が流れるので、とても気分よく仕事ができるのです。
ただ思うのは、作業が乗ってくると、「ラジオを聴いているのに聴いていなくなる感覚」に陥るということ。作業に集中する結果、聴覚情報に意識が向かなくなって、どんな曲が流れているのか、分からなくなる。そういう意味では、どの局を選んでも、結局は大差ないのかもしれませんね。
●「突然の声掛け」というボスキャラ
と、私自身の「最強の態勢」をご説明しました。反面教師にしながら、あなた自身の「最強の態勢」を作ってほしいと思います。大切なことは、「最強の態勢」を追求するという意識です。あなたにも、あなたなりの「最強の態勢」が絶対あるはずなのです。
しかし、「最強の態勢」を崩す敵がいます。それは──「突然の声掛け」。
上司や部下から、突然話しかけられて、作業に集中している意識を中断せざるをえなくなります。場合によっては、席を外しての移動を強要させられたりして、「最強の態勢」が崩壊するのです。何としたことでしょう!
そういえば昔には、固定電話がかかってくることによる作業中断も、よくあったものです。その点、携帯電話は、留守録機能があるので、作業に乗っているときには必ずしも出なくてもいい感じがして、助かるのですが。
会社員である以上、「突然の声掛け」というボスキャラとの戦いは避けられません。というか、会社なんだから、「突然の声掛け」を断ることはできない。その意味では、このボスキャラとの戦いは基本、敗戦必至。
実は一時期、「突然の声掛け」への対策として、あるルールを考えたことがあるのです。仕事に集中したいときには赤い旗をデスクの上に掲げる。赤い旗を置くと、その人は、一種の「緊急事態宣言」だとみなして、声掛けをしてはいけないというルールにする。そんなルールを自分の部に導入してみたのです。
しかし、そのルールの周知が大変だったり、また赤い旗を置きっぱなしにする輩が出てきたりする中で、結果根付かずに終わってしまいました。でも、あのルール、我ながらいいアイデアだったと思っています。
フリーアドレスに代表される、新しくスマートなオフィス環境もいいと思うのですが、どちらかといえば、働く人(従業員)の視点というよりは、働かせる人(経営層)の効率論視点が優先している気がします。
大切なことはやはり、働く人からの発想ということだと思います。だとしたら「働く人の集中力からの発想」、つまりは「働く人の最強の態勢発想」で、オフィス環境を考えるべきなのです。
というわけで、いつか私が会社を設立したら、オフィスにはFM COCOLOが流れ、高い椅子と散らかったデスク、そしてデスクの上には赤い旗が並んでいることでしょう。変わった会社になりそうだなぁ。
[ライタープロフィール]
スージー鈴木(すーじーすずき)
音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演多数。
著書…『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)、『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。