スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ 第20回

第20回 「サブカル・サラリーマン」の大いなる可能性

 

「サブカルな会社員って、一見ダメそうだけど、案外うまくいく」という話をしようと思います。

 

ま、私が勤めていたのが、サブカルと親和性が高そうに見える広告代理店だからかもしれませんが(実のところ、広告業界の体質はかなりマッチョで、思われているよりサブカル色は濃くないのですが、この話はまたいずれ)、少なくとも私の周りでは、できる「サブカル・サラリーマン(パーソン)」が多くいました。

 

あ、まずは「サブカル」の定義ですね。正確には「サブ・カルチャー」。「メイン・カルチャー」に対する「サブ」という意味でしょう。つまり大いに売れて支持も得ているメイン=王道に対して、もっとマニアックで偏狭でアンダーグラウンドなカルチャー。

 

でも、21世紀のカルチャー業界って、もう「メイン・カルチャー」という概念が崩壊している気もするので、ま、そういう説明よりも、「サブカル・サラリーマン=会社員のくせに、AMラジオをよく聴いていて、小ぶりなイベントに足繁く通って、主張のある髪型をしていて、へんてこなTシャツ着てて……みたいな人」ということにしておきましょう。

 

あ、カルチャーの一翼にスポーツも含めると、明らかな「メイン・カルチャー」、ありましたよ――大谷翔平。

 

「大谷翔平、またホームラン打ったねぇ」「すごいよねぇ」……みたいな会話を良しとしないというか、さすがに自分も心から「凄い」と思いながら、どこか斜めから斬れないか、ネタに出来ないかと思っている会社員、これが「サブカル・サラリーマン」。長い。略して「サブサラ」とします。

 

私にとっての「サブカル」はこの時期の『宝島』(1981年6月号)

 

  • サブサラの「サブ視点」「サブ人生」がメインにもたらすもの

 

「そんな面倒くさい奴、会社で通用しないでしょう?」と思われるかもしれません。確かに、業種や規模にもよると思うのですが、少なくとも私なんかが携わっていた「企画職」という舞台では、サブサラならではの視点が活きることが多かったように思います。

 

というのは、企画という作業は、要するに「サブ視点」が問われるものだからです。商品やサービスに対して、普通の、一般の……「メイン視点」とは異なるものの見方ができるか否か。

 

大谷翔平を起用した男性化粧品の広告がありますが、私はあれにちょっと「サブ視点」を感じます。たしかに美形とは言え、俳優や歌手ではなく、野球選手、それも、どう見ても肌やルックスを丹念に気にしていなさそうな野球選手を起用するなんて。

 

「でもよく見たら、大谷翔平って、すんごい美形ですよね」という「サブ視点」、さらには「ルックスをほとんど気にしていなさそうだからこそ、広告のインパクトが出るんですよ」という「サブ視点」が、あの広告には活きていると思うのですが。

 

ですが、サブサラの決定的な良さは、会社仕事という「メイン」を、かなり強引に要求される会社員の人生の中で、その「メイン」を客観視し、相対化する「サブ人生」を持ち続ける特技を持っている(持ち続ける確率が高い)から。

 

分かりやすく言えば、サブサラは、会社仕事もさることながら、ラジオも聞きたいし、イベントにも美容院にも行きたいし、へんてこなTシャツも探したい。

 

そんな「サブ人生」の充実度が、まずは会社仕事という「メイン人生」の気分転換になるし、さらには、そこから生まれた「サブ視点」が、「メイン人生」そのものを活性化し、安定化させる。

 

「遊んでいる奴の方が、仕事ができる」――これは企画職を超えて、すべての会社員に当てはまる気がします。そして、今後、より当てはまっていく気がします。あと、少なくとも、「サブ人生」が充実している人ほど、メンタルヘルスが保全されているはずだし。

 

とはいえ、多くのサブサラにおいて、「メイン人生」=会社仕事の繁忙度が増していくごとに、だんだん「サブ人生」がヘタれてくるのですが、そこを踏ん張って、ラジオを聞いて、イベントにも美容院にも行って、へんてこなTシャツを探す。それがサブサラの生きる道なのです。これがサブサラの生きる道。がんばって。

 

[ライタープロフィール]

スージー鈴木(すーじーすずき)

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演多数。

著書…『幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術』『サザンオールスターズ 1978-1985』『桑田佳祐論』(いずれも新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)、『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。

タイトルとURLをコピーしました