湘南 BENGOSHI 雪風録 第28回

「過労死等防止啓発月間に寄せて」

山本有紀

とある大学に行った。

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大学! いいなぁ。

大学のキャンパスってなんだか心が湧き立つ。誰でも気軽に出入りできる感じがいい。大学の周りに大学生向けのお店が集まっていればなおいい。

歳の若い人がやはりたくさんいるのが、エネルギーみたいなものを感じられていい。レポートがだるいと話している男子学生のおでこが、若い人にしかない光り方をしている。

今思えば、自分の学生時代はあんまりサークルをやりすぎた。バイトも結構やっていた。当時は当時で悩みがあって、外から見ればただだらけている時間も長かった。今思えばもっと勉強すればよかったと思う。

他方で私を、講義の(一回きりとはいえ)先生と認識し見つめてくれる、わこうどたちのめのかがやきよ!

目の前の学生さんたちは皆真面目だ。いや、授業に出てくるのは真面目な学生さんだからこそなのか。

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11月は「過労死等防止啓発月間」である。

過労死等防止対策推進法の定めに従い、厚労省がシンポジウム等を開催する。

11月に限らず、この法律に基づいたいろんな取組みが行われている。

一つは教育機関で行う、労働問題・労働条件に関する啓発授業だ。

基本的には過労死された方のご遺族と弁護士が一人ずつペアになり、高校や大学に出張授業に行く。

私もその役目をいただいて、先日とある大学に行ったのだ。

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現在、法律上過労死は2種類あって、一つは「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡」、もう一つは「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」である(過労死等防止対策推進法2条)。

脳血管疾患には脳梗塞、くも膜下出血等、心臓疾患には心筋梗塞等があげられる。

精神障害としてはうつ病や適応障害等がある。

ものすごく乱暴に言うと、あんまり長いこと働いたりパワハラやセクハラといった辛い環境下で働いたりする中で、心身に異常をきたして死の結果が導かれることを過労死と呼んでいる。

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学生さんはみなさん本当に熱心に話を聞いてくれた。嬉しかった。

しかし真面目な方ほど、めちゃくちゃな働き方の会社に入ってその働き方に疑問を持たずに働き続けたり、おかしいと思っていても我慢してしまったりする。

過労死等防止対策推進法は2014年に成立した。政治家が思いついた法律ではない。

過労死された方のご遺族と、過労死の問題に熱心に取り組んできた弁護士の熱心かつ地道な活動によって成立した。

この法律が成立するまでに何人もの人が過労死したし、その中にはまだ20代の若い人の死も含まれていた。

そして2014年にこの法律が成立した後(まだそんな前の話ではない。10年経っていない)も過労死はなくなっていない。若い人も亡くなっている。

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私は講義で、ある程度肩の力の抜けた態度で振る舞おうと試みた。

真面目に自分で悩みを抱え込んでしまうことは過労死の方向へ行くから。

でも本当はそういう心の守り方の問題ではなくて、日本の労働環境がもっと良くなる必要がある。

過労死遺族の当時1年生の男の子が書いた「ぼくの夢」という詩がある。

 

大きくなったら

ぼくは博士になりたい

そしてドラえもんに出てくるような

タイムマシーンをつくる

ぼくは

タイムマシーンにのって

お父さんの死んでしまう

まえの日に行く

そして

「仕事に行ったらあかん」

ていうんや

 

 

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。

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