湘南 BENGOSHI 雪風録 第5回

2020年9月15日

山本有紀

◇8月○日

美容室でドラマ「SUITS 2」の話題がでる。

アメリカの話なんで、実際、日本の法律事務所とは違いますよねえと美容師さん。

⁂ ⁂ ⁂

この時、私は美容師さんに心から感謝しました。

本連載の原稿、毎回七転八倒しています。優しい担当の方の温情で、なんとか掲載を続けられておりますが、毎回六転目くらいで締切ギリギリになります。

弁護士の仕事を垣間見てもらい、この仕事に興味を持ってもらうとともに、普段はおよそ意識しなくても、法律がいかに皆さんの生活に関わっているか、その影響がどれほど大きいかが伝わればいいなと思っています。そして法律ひとつひとつを定めているのは、結局、立法府である国会のメンバーを選挙で選ぶことのできる一人一人であるということに思いを至らせる内容にしたい(目論見を書いてしまった)という気概だけは捨てていません。しかし実際には、守秘義務違反をするわけにはいかないので具体的な仕事のことを詳しく書くことはできないし(もし書けたら、弁護士ってやりがいのある仕事だなときっとわかってもらえるでしょう)、そうなると読み応えは減ってしまうし、不正確なことも書きたくないし、本業で書面を書くより難しいなといつも感じています。

そんな中、ヒントをくれた美容師さん本当にありがとう。

今回は、日本の法律事務所と弁護士について書きたいと思います。

弁護士の事務所を法律事務所といいます(弁護士法20条1項)。かっこよく英語でローファームということもありますね。ローオフィスと呼ぶことも。ロー(LAW)が法律の意味です。

ドラマ「SUITS」だと、パートナー、アソシエイト、と弁護士が呼び分けられ、蟹江先生がパートナーになりたがっています。パートナーとは、法律事務所を経営する弁護士を指します。だからパートナーの先生は幸村先生か上杉先生のどちらを代表にするか、投票権を持っていたわけですね。アソシエイトは、法律事務所を経営する立場ではなく、パートナーから事件を割り振られて、仕事をする立場です。

いわゆる四大ないし五大(東京にある大手企業法律事務所4(5)つを指す。年収が1年目からめちゃくちゃいいらしい)だと、もっとも人数が多い西村あさひ法律事務所で弁護士は562人います(2019年3月31日当時)。秘書や経理の方等スタッフさんもたくさんいるでしょうから、所属人数はもっともっと多いはずです。日本の法律事務所は一人事務所が全体の60%、5人までの事務所で83%を占めていますので、この規模は全体から見ると極めて例外的です。

ちなみに西村あさひの本丸は、大手町(東京駅と皇居の間のあたり)にあります。あのあたりから窓の外を見たら、「SUITS」みたいな光景でしょうね。

先日、労働審判(裁判所で労働事件を扱う一つの形式で、訴訟よりも迅速な解決が期待できる)の時に、偶然使用者(多くは企業)側の代理人が多くいる待合室で待つことになりました。労働審判では、裁判所と一方当事者がそれぞれ話し合う時間が設けられ、その間、他方当事者は待合室で待つことになります。しかし、入れ違いになるとはいえ相手方と顔を合わせると気まずいので、別の待合室で待つのが一般的です。私は労働者側の代理人としてしか労働審判をやったことがないので、使用者側の代理人の待合室には入ったことがなかったのですが、使用者側待合室にいる弁護士は、偶然かもしれないが、大変にスタイリッシュでした……幸村先生みたいなおしゃれをした先生もいる。

また、法律事務所は、ざっくりいうと執務スペースと相談スペースに分かれています。執務スペースには事件のファイルはじめ取扱い要注意の個人情報がたくさんありますので、外部の人が執務スペースを見るチャンスはあまりないのが実際のところです。「SUITS」に出てくるようなガラス張りのおしゃれな執務スペースの事務所もあるのかな? ドラマの執務室はファイルも本も少ないけど、もうこれ全部データ化されてるのかな……? かなり気になります。これを読んだ四大の人誰か教えてください。そしてまた次回原稿のネタとして使わせてください。

というわけで、執務スペースについては検証できなかったものの、「SUITS」の弁護士像は、日本でもあながちありえないというものではないです。ドラマの中だと内乱ばかりで弁護士があまり仕事してる感じがしないけど、実際の企業法務系はめちゃくちゃ忙しいとこが多いみたいですよ!

他にCMでも目にする弁護士法人アディーレやベリーベストも弁護士が150人以上所属していて、かなり大きい法律事務所です。

ただ、支店に一人ないし数人を配置するスタイルのようなので、大勢が一緒に働いている大きな支店は少ないのでしょう。

ちなみに我が事務所は弁護士が9人おり、規模としては大きい方です。ガラス張りの執務室ではないです。事務所の感じは、映画「後妻業の女」の法律事務所が近いです……もうちょっときれいですけども。

というわけで巨大事務所から一人事務所まで、法律事務所にはたくさんのスタイルがあります。

実際に法律問題を相談したくなったとき、どの弁護士に相談すればいいのか困ることがあると思いますが、特に一般の人の、身近な問題を取り扱う街弁は、法律事務所の名前ではなく、弁護士本人の名前で仕事をしています(弁護士法人等の場合を除く)。裁判所に提出する書面も、どこに連絡すればいいのかが裁判所に伝わるように、訴状では法律事務所の名前を書きますが、以後提出の書面は、基本的には法律事務所の名前をいちいち書きません。弁護士個人の名前で仕事をします。

ですので、その人となりがわかっている知り合いに紹介してもらった弁護士に相談するのが実は一番いいのかなぁと思います。あとは、昔からある事務所かどうかもひとつの基準になるのかなと。それだけ蓄積があると思いますので。加えて、事務所を飛び越えて弁護士同士のつながりが色々とあることもあり(弁護士会で集まることも多いので)、相談内容が自分のあまり詳しくない分野であれば、詳しい先生を紹介してくれるということも期待できます。

ので、通うのに無理のない範囲(訴訟になると、頻繁に事務所で打合せをすることがあります)で、そういった点を意識して事務所を探すのがおすすめです。図らずもうちの事務所をアゲてしまいましたが……(今年48周年)。

◇9月□日

宝塚歌劇を見に行く。

雪組・望海風斗さん主演の宝塚大劇場特別公演「N O W! Z O O M M E!!」。

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全然悲しい歌を歌うシーンじゃないのに、望海さんが出てきてまず泣きました。半年ぶりの望海さん。

新しい時代に向けて私たちは甦って行こうね。取り消されていた裁判が再開し始めて、だんだんこちらの勢いも戻り始めました。

※弁護士の人数等の記載は日本弁護士連合会 「基礎的な統計情報(2019年)」を参考にしました(2020年9月14日)。

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。

大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。

神奈川県藤沢市で弁護士として働く。

宝塚歌劇が好き。
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