ネットと表現 その1/3
山本有紀
他人の描いたイラストや歌詞をネットに載せる行為は、その他人(著作者)の著作権、具体的には複製権や公衆送信権を侵害します。
侵害行為は刑事罰の対象になることがあります。また、著作者から差止請求の他、損害賠償請求がなされることもありえます。
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依頼者さんから、「裁判の書類」をネットにあげていいでしょうかと尋ねられることがあります。
民事裁判においては、裁判所に裁判を起こす側(原告)が訴状と呼ばれる書面を、起こされた側(被告)が答弁書と呼ばれる書面をそれぞれ作成、提出します。
訴状の内容は、誰にどのような請求をするか、その根拠はこういうものだという内容。答弁書はそれに対する反論です。
さらに、裁判が進む中で、原告被告双方が準備書面と呼ばれる主張や反論の補充、再反論を記載した書面を提出することが一般的です。
これらの「裁判の書類」をネットに載せたいとおっしゃる依頼者さんは、多くの場合、裁判の相手方(こちらが原告であれば被告、こちらが被告であれば原告)から届いた書面の内容に対して憤りを感じておられます。
相手の言っていることは事実と異なる。こちらの名誉を害するものだから、ネットでそれに対して異議を述べたい。
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著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。
さらに、著作権法は、例示として著作物を列挙しており(著作権法10条1項)、具体的には、小説、脚本、絵画、地図、映画等が挙げられています。
冒頭で述べたイラストや歌詞も、著作物に該当します。そして、「裁判の書類」である訴状や答弁書、準備書面もそれを書いた当事者や弁護士の手による著作物です。
著作物を創作した者である「著作者」は、その著作物に対して、著作権と著作者人格権を有します。
著作権は、いろいろな権利の束であり、具体的な権利の一例として、複製権や公衆送信権があります(著作権法21条〜)。
著作者から利用許諾や権利の譲渡を受けずに、著作物をコピーすることや写真で写しとることは著作者の複製権を、複製したコピーをネットにあげることは著作者の公衆送信権を侵害する行為となります。
そして、著作権の保護は、著作物の創作の時に始まり、原則として著作者の死後70年を経過するまでの間存続します(著作権法51条)。
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ただし、例外的に著作者に了解を得ずして、第三者に著作物の利用が許される場面があります。
「裁判の書類」の利用はその一例で、著作権法40条1項は「裁判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続きを含む。第42条第1項において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集し利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と定めています。
すなわち、裁判手続における「公開の陳述」にあたる、裁判所で既に当事者あるいは代理人弁護士によって陳述された訴状等は、内容を編集しなければ複製したりネットにあげたりしたりしても著作者の著作権を侵害しません。
もっとも、まだ最近の裁判例で、原告の作成した訴状が被告の元に届いたけれども公開の法廷で陳述されていない段階、すなわち第1回期日が開かれていない段階で被告がネットに訴状を載せた事案について、裁判所は被告の行為が公衆送信権の侵害(それに加えて著作者人格権のうち公表権の侵害)にあたると判断しました。
したがって、裁判の書類について、それをネットにあげることは、その時期を間違えなければ、著作権に関しての問題はないようです。
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とはいえ、裁判の書類をネットにあげてもよいか相談者さんに尋ねられると、私自身はしない方がいいですよと伝えています。
どうしても裁判を通して相手方の主張を目にすることでさらに憤りが大きくなりがちですが、憤りをネットで明らかにすることは、紛争の解決を目指す裁判そのものの進行からはプラスにならないからです。
では、万が一相手方にこちらの裁判の書類をネットに上げられた場合。名誉毀損やプライバシー侵害の問題はないのでしょうか。
次回はネットとこれらの問題について考えたいと思います。
[ライタープロフィール]
山本有紀
1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。