もう一度、外国語にチャレンジ スペイン語を学ぶ ~スペイン編~

第14回 日本とスペイン、その密なる関係とは?

 

文・写真 伊藤ひろみ

 

外国語学習に年齢制限はない!――そう意気込んで、国内でスペイン語学習に挑戦したものの、思うように前進しない日々が続いていた。そんな停滞に歯止めをかけるべく、現地で学んでみようとメキシコ・グアナフアトへと向かったのが2023年2月。約1か月間、ホームステイをしながら、スペイン語講座に通った(くわしくは、「もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~」をご参照ください)。

1年後、再び短期留学を決意する。目指したのはスペインの古都トレドである。

 

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<第14回> 日本とスペイン、その密なる関係とは?

 

トレドでスペインギターの巨匠に出会う

ある日マルタが私に言った。「明日、おもしろいところへ連れて行ってあげるね」と。どこへ行くのか気になったが、行ってみてのお楽しみらしい。

翌日、県議会(Diputación Provincial)から南に下り、とある建物へ。そこはふつうの民家のように見えたが、小さな看板がかかっていた。

「ホテル?」

「そう、今はね。でもかつてパコ・デ・ルシア(Paco de Lucia)が住んでいたの」

「えっ、ここに?」

最初にマルタに会ったとき、フラメンコが好きだと自己紹介に加えた。それを彼女は覚えていたのだ。

ギターやCDのほか、パコ・デ・ルシア写真や映像資料も充実

 

パコ・デ・ルシアは、スペインを代表するフラメンコギタリスト。すぐれた技術を持ち、新しい演奏スタイルを打ち出した天才的ミュージシャンであり、フラメンコギターを志す人にとっては、神様みたいな存在である。もちろん、私もよく聴いている。しかし、彼はスペインの南、アンダルシア州・アルヘシラスの出身ではなかったか。

マルタによると、ここは彼の生家ではなく、彼が一時期住んでいたところらしい。そのゆかりの地が、現在宿泊施設として営業している。ブティックホテル・エントレ・ドス・アグアス(Entre dos Aguas Hotel Boutique)という名で。La casa de Paco de Lucia en Toledo「トレドでパコ・デ・ルシアが暮らした家」との断りもあった。

客室のひとつ。パコ・デ・ルシアの世界を味わいながら、静かに過ごしたい人向け

 

彼女に促されて中へ入る。静かで落ち着いた雰囲気のホテルである。訪ねたとき、ちょうど宿泊客2組が中庭のレストランで朝食をとっていた。上階のテラスも眺めがよく、気持ちいいスペース。客室は5つで、彼の音楽が堪能できる小部屋もある。客室や廊下、レストランなど、ホテル内はパコ・デ・ルシアゆかりのグッズやCDにあふれている。また、彼が奏でるギターの曲が流れ、耳も楽しませてくれる。どこをとっても、どっぷりパコ・デ・ルシアを堪能できる空間。

テラスからは旧市街の町並みも楽しめる

 

「ここに泊まりたい!」思わずマルタにもらしてしまったひとこと。おっと、今回はマルタ宅に1か月滞在するんだった。「次回、トレドを訪ねることがあれば、ぜひ!」と心の中で言いなおしていた。

緑や花も飾られ、くつろぎのスペースがあちこちに

 

 

トレドで日本語を学ぶ学生たち

「トレド大学で日本語のクラスがある」という情報を提供してくれたのも、マルタだった。トレド在住の日本人女性教員がいるらしい。運よくその彼女とつながり、授業におじゃまする機会を得た。

夕刻から始まる社会人向けの日本語講座だった。彼女が担当しているのは、初級2クラス。それぞれ週2回授業を行っている。ひとつめのクラスは、午後5:30からスタートだったが、皆仕事を持っているからなのか、時間通りに来た学生は2人だけ。授業開始後、ぼつぼつと集まり始め、6人がそろった。

基本的には日本語で授業を進めているが、学生たちが戸惑ったときはスペイン語で説明を加える。ここでの学習者はスペイン語母語話者だけなので、必要に応じて、それもありだろう。ひらがな、カタカナ、漢字とスペイン語とは異なる文字を使用するだけに、それらに慣れるにはかなりの訓練が必要である。さらに、文法の違いも大きい。スペイン語と日々格闘している身だからこそ、彼らの気持ちもよくわかる。日本に興味を抱き、もっと日本を知りたい、日本語を学びたいとここへやってくる人たち。数は決して多くはないが、貴重な存在である。これからも、その気持ちを持ち続けてほしい。祈るような気持ちで彼らを見つめ続けた。

トレド大学内にあるカフェテリア。お茶をのんだり、おしゃべりしたり、学生たちが集う

 

日本との接点を求めて

スペイン・トレドは日本からは遠く離れた地だが、滞在中、いくつかの日本との接点を見つけた。トレドで暮らしたり、仕事をしたりする日本人がいる。そのひとりは、ソコドベール広場近くで、カフェ(cafetetería zocodover)をひらいている。スペイン人と結婚し、ここで暮らして25年ほど。夫と二人三脚で店を切り盛りしている。基本メニューはスペイン料理だが、どら焼きを作る日もあるとのこと。運がよければ、日本の味も楽しめる。

日本語で「どら焼き」との案内もあり。あんこが苦手な人にも楽しめるようチーズやチョコレート味も作っている

 

IROIROは、日本で暮らしたことがあるスペイン人がオーナーの雑貨店。彼は日本語も話せるし、日本のこともよく知っている。町歩きの際は、ふらっと彼の店に立ち寄り、日本語でちょっとおしゃべり。私には、スペイン語漬けでパンパンになった頭をちょっと冷やせる貴重な場所だった。トレド滞在中、私が出会ったスペイン人で、流暢に日本語が話せるのは彼だけだった。

「また日本へ行きたい」という彼の声に、「今度は東京で会いましょう」と笑顔で返す。

スペインと日本、やっぱり遠い国、でも、縁あってつながった国。それを大切にしたいね。今までも、そしてこれからも…。

日本語からとったという店名。店主によると、「いろいろ置いているから」とのこと

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

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