第42回 「島耕作おまえもか」
平良 愛香
連載を続けていてちょっと困ることがあります。それは「ネタ切れ」ではなく、「次々と起こる問題」に記事が追い付かないということです。ここしばらく沖縄のことを書き連ねていますが、辺野古関連の工事で死者が出ているのに報道されない問題や、矮小化されるオスプレイ事故、与那国島の新軍港化計画、沖縄出身の俳優である二階堂ふみさんにウチナーグチ交じりでインタビューをたたみかけ、本人から「間違って」ウチナーグチを引き出そう(喋らせよう)という企画をしたバラエティ番組、米兵による少女暴行事件の裁判など、ほかにもさまざまな問題が起こっているのに、一か月に一回の掲載だとどんどん「過去の出来事の紹介」になってしまう。ですからそれぞれの記事が「遅ればせながら」になってしまうのですが、それでも「知ってもらうことは大切だ」と思い、遅ればせながら書かせていただきます。(あ、でも月に何回も書きたいというわけではありません。そこまでのゆとりもないんです。悪しからず。)本当は最新のLGBT関連の話や牧師だからこそできるキリスト教批判なども書きたいのですが、まだしばらく沖縄の記事が続きそうです
11月のある水曜日、辺野古の座り込みの現場では水曜担当の高里鈴代さんが参加者にマイクでこう語りかけて大笑いを誘っていました。「皆さん、日当はいくらもらっていますか?」(いうまでもありませんが、日当をもらって座り込みに来ている人なんて一人もいないことを知っていてのジョークです)。
講談社が発行する漫画雑誌「モーニング」に10月17日掲載された「社外取締役 島耕作」(島耕作さんってストーリーの中でどんどん出世していくにつれて、漫画のタイトルも変化していってるんですね)の中に、主人公の島耕作らが飲食をしながら辺野古の埋め立て現場を見渡す場面で、ある女性が「抗議する側もアルバイトでやっている人がたくさんいますよ。私も一日いくらの日当で雇われたことがありました」と説明するシーンが出てきました。漫画には「実在の人物や団体名とは関係ない」という但し書きが付いているものの、「辺野古埋め立て地」や「普天間飛行場」など具体的な固有名詞が出てきているので、辺野古の新基地建設現場の話であることは明らかです。その記事に対し、多くの人が「根拠を示せ」「デマだ」と指摘してSNSは大炎上、沖縄平和運動センターの山城博治さんは、「工事が始まってもう10年。もし日当をもらっていたら今ごろ豪邸が建っている。県民愚弄もはなはだしい。作者に抗議したい」と話しました。
沖縄の抗議の激しさに驚いた作者の弘兼憲史さんと講談社は、「確認が取れていない「伝聞」だった」として、「読者の皆さまにお詫びするとともに、編集部と作者の協議の上、単行本掲載時には内容の修正をいたします」と謝罪コメントを出しました。しかし謝ってほしいのは「読者に」ではなく「沖縄に」なのです。沖縄で日当をもらって抗議行動をしている人は一人もいません。(もしかしたら抗議行動に抗議をしている人たちの中には日当をもらっている人がいるのかもしれませんが。そうでないと「工事に抗議している人は日当をもらっている」なんていう発想は出てこないと思うのです。)にもかかわらず、身銭を切って命がけで辺野古の工事を止めようとしている人たちは、自分たちがそこまで軽んじられたことに、怒りを隠しきれません。ただの「誤解」「確認の取れていない伝聞を載せてしまった」では済まされないのです。沖縄の命がけのたたかいが理解されていない、それどころか「お金のためにやっている」という「伝聞」について、「本当にそうなのだろうか」という疑問がどうして生じなかったのでしょうか。少し取材すれば、過去に「ニュース女子」という番組(スポンサーはDHC)が基地反対運動を「テロリストみたい」などと表現して「辺野古の座り込みの人たちは日当をもらっている」という報道をしたことで、名誉毀損裁判があったことや、番組側が訴える「辺野古の座り込みが日当を受け取っているとの主張」について、裁判所が「根拠として薄弱」「真実と信じるについて相当の理由があったとはいえない」と2023年4月27日に判決を出し、DHCテレビジョンなどの上告が棄却されていることもすぐに分かるはずです。どうして「伝聞」に疑問を持たなかったのでしょうか。本当にそうだと思ってしまったのでしょうか。(無自覚にも)踏みつけている側は、踏まれている側の痛みに気づけない現実。私は、出版社側も沖縄に対する根源的な無関心があるのだなあとつくづく感じました。
今月はクリスマスがあります。それは闇の中に葬られた人々の声を発掘し、光をあてる日、いのちが尊重され、平和が実現する「時」の到来を確認する日でもあります。まだまだ埋もれていることはあります。クリスマスが光の到来となりますように。(久々にクリスチャンらしいことを書いてしまった…。)
[ライタープロフィール]
平良 愛香(たいら あいか)
1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。