僕がゲイで良かったこと 第16回

僕が(多分)同性婚をしない理由 4

こんなに長くなると思わなかったし、逆に書けば書くほど「説明が必要な事柄が多いなあ」と感じてしまっています。なかなか終わらない文章にお付き合いくださり、ありがとうございます。(一冊の本として書くのなら、最初に全体像を作ってから書き始めるのでこんなアンバランスにはならないのだろうなあ、と感じつつ、幸か不幸か「連載」という形での執筆なので、バランスを考えずに書いています。読み手の皆さん、申し訳ありません。彩流社さん、わがままを許してくださってありがとうございます。)

さて、前回「僕がゲイである以前に男性であることで『有利』な点がたくさんある」ということを書きました。確かに「男のくせに」という男性差別を向けられることはありますが、女性はもっと多い頻度で「女のくせに」と言われているのです。会社などで男性社員が失敗しても、責められるのはその人個人であって「だから男はダメなんだ」とは言われないのに、女性社員が失敗すると「だから女はダメなんだ」と言われてしまう。これは女性というグループそのものを「ダメなもの」「劣ったもの」としているジェンダー差別です。(たまたま今週見たNHKの朝の連続ドラマ「ちむどんどん」でも、主人公の暢子(高校生女性)が「かけっこで男子に負けたことはそんなに悲しくない。でも今までは勝ったら『女のくせに』って言われて、これからは『やっぱり女だから』って言われる思うとすごく悔しい」と言っていたのが印象的でした。)ジェンダー差別についてはいくらでも事例がありますし、本もたくさん出ているので、僕がわざわざ書く必要もないのですが、実は多くの知り合いのレズビアンやバイセクシュアル女性の人たちが「同性愛者や両性愛者である以前に、女性としての不利益をものすごく被っている」と話してくれます。言い換えるとゲイ男性は「同性愛者としての不利益は被っているけど、それ以前に男性としての利益は得ている」「ときには、同性愛者女性だけでなく、異性愛者女性を含めても、同性愛者男性のほうが社会では利益を享受する側になっていることがたくさんある」とすら感じるのです。

さて、そんな現実をゲイ男性として突き付けられつつ、ではどうして僕は「同性婚をしないだろう」と思っているのか、という最初の問いに戻ります(ようやく戻って来た!)。簡単です。良くも悪くも「男性であるということで、男性優位のこの社会でラクに生きている僕とパートナーとは、法的にカップルであると認められなくても、さほど不利益を被っていない」と感じているからです。先に申し上げておきますが、法的にカップルであると認められないことで不利益を被っている同性カップルはたくさんいます。そのため、「法的に同性婚を認めないのはおかしい」と訴える人がいるのも理解していますし、応援もしています。異性カップルだと「婚姻」(法律婚の正式名称)という手段によって得られるたくさんの「優遇」「おまけ」「メリット」が、カップルが同性同士であるというだけの理由で得られないのは、とても不公平だと感じるからです。連載の第9回でも触れましたが、婚姻によって得られる外国人の在留ビザや、納めなければならない税金の額の控除など、法的な結婚によって得られるものは多いのです。ただし、たまたま僕と僕のパートナーにとっては、そこまでして得たいメリットは現在のところ法律婚にはありません。むしろ「結婚という枠に縛られるのではなく、恋人のままでいるのがラクだね」という話をしています。それは、たまたま二人とも「日本国籍を有し」「収入がほどほどに安定しており」「男性という既得権を行使できる立場にある」からなのではないか、とも思うのです。もちろんそんなこと言ってられないカップル(同性異性に限らず)もたくさんいます。「結婚ってロマンチックね」という理由ではなく、生きていくために婚姻を選択する(選択したい)人たちもいる。しかしパートナーが同性であるからというだけの理由で、その選択を許されない人たちがいる。これってやっぱり不公平ではないでしょうか。

そういう「不公平」を訴え、改善するために、「すべての人に等しく婚姻の権利を」と訴えて日本中で訴訟が起こっています。これは「同性愛者の権利を認めよ」と言っているのではなく、「婚姻が阻害されている人たちがいてはならない」という訴訟です。「同性のパートナーと婚姻関係になりたいから」という表向きだけの理由ではなく、「そもそも婚姻って何?」ということも問われる訴訟なのです。僕たちカップルは「結婚したいとは思わない」という話をしていますが、だからといって僕自身は「同性同士という理由だけで、法律婚が許されないというのはやはりおかしいのではないか」と考えています。しかしこの問題は実は、「どうして異性同士なら法律婚が認められるのに、同性同士だと認められないのか」という、かなり核心に迫る話になってくるのです。

(もう少し続く……かも)。

[ライタープロフィール]

平良愛香(たいらあいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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