僕がゲイで良かったこと 第32回

第32回 代執行

平良 愛香

32 「代執行」

 

12月20日に大きな判決が出ました。辺野古新基地建設のための大浦湾埋め立てを承認しない沖縄県玉城デニー知事に対して、福岡高裁那覇支部は「県が承認しないなら国が代執行をします」という判決を出したのです。そもそも玉城知事が承認しなかったのは「沖縄防衛局が出してきた設計案では、軟弱地盤での工事は無理だ」と判断したからなのですが、裁判ではそのことには全く触れられず、「国益のために、国は代執行を行う権利がある」といった判決を出してきたのです。このことについて、私自身大変な憤りが二つありますが、その前に、まず「代執行」について分かりやすく説明しますね(主観も入りますが)。

1995年の沖縄での少女暴行事件から基地反対の機運が高まった沖縄で、当時の大田昌秀沖縄県知事は米軍用地の未契約地主に対する強制使用の代行手続きを拒否し、国に提訴されました。1996年に最高裁で県側の敗訴が確定。これが一連の国と沖縄県の最初の裁判となります。その後、国の機関委任事務を担う「出先機関」のように扱われていた地方自治は、2000年の地方分権改革によって国と対等になりました。公有水面埋め立てに関する事務は法的受託事務とされ、県に承認の権限が与えられたのです。それまでの「上下・主従」関係のようだった国と地方は、「平等・協力」関係に変わったのです。ところが、今回の玉城デニー知事の「不承認」を沖縄防衛局は不服とし、国に訴え、国土交通省がそれを受け入れ、「それはおかしい」と言った沖縄県の提訴を棄却。そして「玉城デニー知事が工事の承認をしないなら国が承認を代執行することができる」という判決を出してきたのです。

さて私の3つの憤りの話をします(以前別の機会に「2つの憤りがある」と書いたのですが、時間がたつにつれて憤りが3つになりました)。

学生たちに話すとみんな驚くのですが、「国」は「県」よりもエライわけではなく、対等です。少なくとも2000年からはそうなっているのです。「県は国に従わないといけない」ではなく、国は県の声に耳を傾けなければならず、折り合いがつかない場合もひたすら話し合うしかない。それが現在の日本の法律です。少なくとも地方自治法でそのように決められた部分に於いてはそうなのです。ところが今回の「代執行」は、「国に不都合なことを都道府県が言い出したら、国がそれを封じ込めることができる」という恐ろしい権限を認めたということになるのです。これは沖縄県だけの問題ではありません。日本中のすべての自治体の決定権を国が無視する、そんな権限を政府が持ち始めたのです。今度は沖縄県以外の私たちの住む地方自治が、国によって「管理・支配」されるかもしれない。自分たちで決めたことが「国に不都合だから」という理由で封じ込められてしまうかもしれない。言い過ぎでしょうか。でも本当にそう感じるのです。すべての自治体、すべての人が国に物申すことができない「被害者」になる危険性に気付かねばなりません。もっと国に対して憤らないといけないのです。

二番目の憤りは、「こんな暴挙は沖縄県が相手だからできたのではないか」という思いです。いまだに政府から植民地のように見られている沖縄だから、こんな弾圧が平気でなされるのではないか、と。沖縄の現状について連載を重ねていますが、そのほとんどが「抑圧されている」「自己決定権を奪われている」「いまだに植民地のように扱われている」沖縄の話です。そうだとすれば、その政府を支えている日本に住むすべての人々(選挙権のある人たち、と言ったほうがいいのかもしれませんが)が今度は「加害者」の側となります。現在の政府を支えている以上、言い逃れはできないということに気付かされるのです。沖縄をないがしろにする政府に対する憤りは、その政府を支えているすべての人々(残念なことに、その政府を変えられずにいる私自身も含みます)に対する憤りともなっていくのです。自分の加害者性と向き合うのはしんどいことですが、しっかり向き合わない限り、現状を変えていくことはできないのではないでしょうか。

上記の二つの憤りを並べて考えているとき、三番目の憤りが生まれてきました。日本中の人が国に対して激しい憤りを持ってもおかしくないのに、どうして他の都道府県は憤らないのだろうか。どうしてほかの知事たちが「大変だ!」と言い出さないのだろうか。そんな疑問を持っていたのですが、ふと、「沖縄だから仕方がない」「自分たちは大丈夫だ」と考えているのではないだろうか、と思い始めたのです。そうだとしたら、憤りはまた違ったものになります。沖縄以外の日本に対する憤りとなってくるのです。うがった見方かなあ。でもそう考えないと辻褄が合わなくなってきます。それとも全国の人たちが現状を知らないだけなのかなあ。

「代執行」から浮かび上がってくる疑問と憤り。2024年は憤りからのスタートです。

 

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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