僕がゲイで良かったこと 第39回

第39回 阿波根昌鴻さんに学んだこと4

平良 愛香

 

辺野古の座り込みに韓国の平澤(ピョンテク)から参加した人たちがいました。米軍基地の拡張のために村がつぶされる。それに抵抗している人たちでした。その人たちは辺野古のたたかいが非暴力で行われていることを知って非常に驚いたそうです。「どうしてやり返さないのか」と。それに対し「私たちは暴力に抵抗しているのです。だから暴力は使いません」と言ったところ、「分からない、理解できない」と頭を振りながら韓国に帰っていった。ところが後日、平澤の映像を見たら、警察や軍隊が殴る蹴るの暴力を用いて住民を追い出している中で、非暴力で抵抗している人たちが何人も映っている。それが辺野古で非暴力を学んでしまった人たちだと気づいたとき、辺野古で非暴力のたたかいをしている人たちは「とんでもないことを教えてしまった」と感じてしまったのだそうです。非暴力でたたかうことの厳しさは自分たちが十分体験して分かっている。けれど、それを人に伝えることの「重さ」、私たちから非暴力を学んでしまった人たちが担うことになる「苦しみ」、そういった責任が自分たちにはあったのだと気づかされ、愕然としたと言っていました。けれどもこう続けたのです。「それでも私たちは、非暴力でたたかう。それは決して無力ではないと信じるから。戦争という最大の暴力に抵抗するために、私たちのたたかいに暴力は使わない。もし暴力を使ってしまったなら、辺野古新基地建設を阻止できたとしても、それは私たちの負けだ」。

「僕がゲイでよかったこと」という連載がこんな方向に進むとは、読んでいる人たちは夢にも思わなかったかもしれません。けれど、僕が連載を引き受けた時に書かねばならないと感じていたことが、「非暴力のたたかいについて」でした。LGBTの問題も、沖縄の問題も、暴力では解決しないのです。(暴力とは広い意味で、「正論によって相手の意見を封じ込めてしまう」ということも含まれるかもしれませんね。きちんと対話するなかで解決を見出さないといけないのに、一部の人の「正論」によって、「なんかおかしい」「なんか違う」と感じていても反論ができなくなるということがよくあります。そういうとき僕は「正論という圧力によって、ほかの意見が封じ込められた」と感じるのです。とはいいつつ、最近の政府は「正論ですらない圧力」があまりにもまかり通っていて、正論を持ってですら反論できない状況が続いていますが)。

今回は4回に分けて阿波根昌鴻さんに学んだ「非暴力抵抗運動」について書いてみました。沖縄で続いている非暴力のたたかい。体制側の一方的な暴力で怪我を負わせられている人たちは後を絶ちません。抗議船がひっくり返させられ、水中から浮かび上がろうとしている人たちを水中に押さえつけて溺れさせようとした海上保安庁(これは裁判が続いています)、陸上では土砂を運び込もうとするダンプカーを止めるためにスタンディングをしている人たちを押し倒そうとする機動隊(厳密には押し倒そうとするのではなく、ぐいぐい押してきて突然力を緩め、その反動でスタンディングをしていた人たちを転ばせるのだそうです。それが計算でなされているかどうかは知りませんが、その結果コンクリートに頭を打ち付けられて救急搬送された高齢女性がいました)、辺野古より北にある高江では、オスプレイの離発着場建設の阻止行動をしていた人の一人の首にロープが巻き付いているのを知りつつその人をそこから引っ張り出そうとして失神させた警察がいました。抗議、阻止行動をしている人の中に死者が出ないのが奇跡だと感じるほどです。

けれどもこんな話も聞きました。海の上で抗議船に乗っているときに、海上保安庁の人たちとこんな会話をすることがあるそうです。「お兄さんたち、本当は海を守りたくて、自然を守りたくて、人を守りたくて海上保安庁に入ったんでしょ。いつか一緒に飲める日がくるといいね~。」するとたまに「そうだね~」と答えてくれる保安庁の人がいる。そんな時に感じるのは、「私たちの敵はあの人たちではなく、あの人たちにこんなことをさせている政府なのだ」と。そういうところから、非暴力のたたかいはまた力を生むのかもしれません。先述の「頭をコンクリートに打ち付けて救急搬送された」という高齢女性はこんな話をしてくれました。「私の趣味はね、無表情な顔をして立っている機動隊や警備の人たちに話しかけて、表情を取り戻させることなの。きっと私たちが話しかけても無視するように言われているのね。でも私が、『暑いでしょ』『ちゃんと休みなさいよ』『無理はしないでね』と一人一人に話しかけると、小さく返事したりうなずいたりする人がいるのよ。私がおばあさんだから無視しにくいのかもしれないけど、なんだか嬉しいわよね」。

阿波根昌鴻さんに学んだ非暴力のたたかいは、2024年9月現在も続いています。辺野古の、そして沖縄の非暴力のたたかいは、世界中とつながっています。

 

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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