僕がゲイで良かったこと 第7回

第7回 ゲイであることのメリット・デメリット?

平良愛香

まず初めに、ゲイ(Gay)という言葉は、LGBTとセットで用いる時は「男性同性愛者」という意味になりますが、単独で使うときは「同性愛者」という意味のときもあり、女性同性愛者を含むこともあります。アメリカ映画を観ていると、「私レズビアンなの」「ふーん、ゲイだったんだ」という会話に出会うこともあるし、演説を聞いていても「すべての人」という意味で「young and old, black and white, gay and straight」という言葉が出てくることもある。ですから、「Gay」という言葉が出てきたときは、必ずしも「男性」同性愛者だけを指しているわけではないこともあるので要注意。

(広い意味ではトランスジェンダーをも含めてGayと言っていることすらあります。そもそも「男性として認定された体」を持って生まれつつ、性的指向(恋愛や性的な方向性)が男性に向いている人の中には、自分が男性として男性を好きなのか、女性として男性が好きなのかはっきりしない、という人も少なくないのですから。あえて名付けるなら、「性自認はXで、性的指向は男性愛(日本ではあまり使われないが、アンドロセクシュアルとかマセクシュアルという語もある)」とも言えるのですが、そのような人たちも「ゲイ」を名乗ったり、そう呼ばれたりすることは多いですね。ある友人はゲイを名乗ってましたが、あるとき自分の性自認が男性ではなかったことに気づいて、「私はゲイじゃなかった!」と報告してくれました。性的指向が男性に向いていることに変わりはないのですが、自らの性自認が「男性ではない」とすると「同性愛」とは言えなくなる(同性愛から異性愛になった…!?)。そんな話は実はときどき聞きます。「男性同性愛者」から「自分は男性ではないという性自認を持ちつつ、性的指向は男性に向いている男性愛者」になった場合、厳密には「同性愛者」とは言いにくくなるのですが、その場合必ずしも「ゲイ」という言葉まで捨てる必要はないので便利です。本人が「ゲイ」を名乗り続けるかどうかは本人の自由なのですから)

一方、「様々な性的マイノリティを『ゲイ』と一緒くたにするのは嫌だ」という人たちも当然います。男性同性愛者をゲイと言っているのに、女性同性愛者や同性愛ではないセクシュアルマイノリティまでゲイと呼ばれると、まるで「男性ゲイが全ての性的マイノリティを統括している代表であるかのように聞こえる」という批判です。Man(男性)という言葉が「女性も含む」という意味で用いられることがあるのと同じですね。(かつて議長は男性がするのが当たり前とされていたのかchairmanと呼ばれていましたが、それはおかしい、性差別であるということから最近はchairpersonに替わってきました)

また、ゲイという言葉を欧米の男性同性愛者たちが積極的に使い始めたときに、「女なんて嫌いだぜ」というニュアンスがあった、という話を聞いたことがあります。これはレズビアンたちにとっては聞き捨てならないことです。女性である自分たちへの排除を豪語するニュアンスがあるのですから。では「異性なんて嫌いだぜ」という意味に取ればいいのか? 実は女性同性愛者の中には男性と結婚し子どもがいる人も少なくありませんでした。女性が一人で生きていくのが難しい時代だったのですから。(今でも一人で生きていける社会になっているかどうかというと疑問だらけですが。現在でも離婚できない理由の一番は男性は世間体、女性は経済力だと言われています)。ですから、レズビアンであっても愛する夫と子どもたちがいることが多い。そうなると「異性なんて嫌いだぜ」とも言えない。「私は女性に性的指向が向いている」ということのみで「レズビアン」を名乗るのです。男性同性愛と女性同性愛は対概念になるかもしれませんが、細かいニュアンスも見るとゲイとレズビアンは対概念とは言えない部分も出てくるのです。当然「私をゲイに含めないでほしい」というレズビアンは出てきますよね。

ということで、「ゲイ」には「男性同性愛者」という縛られた意味と、もっと多様な意味を持つことがあるのですが、この連載、コラムでは「男性同性愛者」という意味で使っています。ここまでが、今回の前書きです(はあ、なかなか本題に入れない……)。

改めて「男性同性愛者であることのメリット・デメリット」。何をしてメリット(デメリット)とするか、というのはかなり主観的な話ですが、一番のメリットは「男はこうあるべき」「男女はこうあるべき」という世間の価値観の縛りから解放されることではないかと思います。もちろんこれは同性愛者でないと解放されない、ということではありませんが、僕の場合は同性愛者であったから縛られずに済んだ、ちょっと縛られてもすぐに解くことができたと感じているからです。読者の皆さんの中に「男らしさ」「女らしさ」「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という価値観はないでしょうか。男女は結婚して一人前という意識や、結婚することが幸せだという刷り込みはないでしょうか。

ようやくテーマに一歩入ったところですが、次回につなげたいと思います。お楽しみに〜。

[ライタープロフィール]

平良愛香(たいらあいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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