第13回 僕が(多分)同性婚をしない理由 1
平良愛香
小学生のころ、僕にはとても強い結婚願望がありました。実際に結婚式を挙げる夢を見たこともあります。男性と二人で白いタキシードを着て、屋根が高く、外からの光がたくさん入ってくるガラス張りのチャペルで式を挙げた夢です。(自分がウェディングドレスを着ていなかったことから、僕の性自認は男性なのだな、ということにも改めて気づかされます。もちろん性自認が女性である人がタキシードを着たっていいのですが)。ちなみにその時の結婚相手の顔は全く覚えていないのですが、背が高い金髪の男性だった気がする・・・・・・映画か何かの影響かもしれませんね。ちなみに現在20年以上寄り添っているパートナーは黒髪の男性です。
ですから、結婚や結婚式に憧れがありつつ、相手は男性だというのは大前提でしたし、かといって自分が女性になるというわけではありませんでした。ちょっと素敵な「結婚(式)観」がありました。入場行進はワーグナーの結婚行進曲を男声コーラスで、退場の曲はウェーバーの「狩人の合唱」をやはり男性コーラスで、と決めていました。今でも「狩人の合唱」を聞くと心がときめきます。
けれど、現在の僕は「同性婚が法制化されたとしても、結婚はしないだろうな」と感じています。その理由について、何回に分けて書いてみたいと思います。
まず「結婚」について。簡単に言って「結婚」って、「法律婚」と「事実婚」の二つがあると言えるでしょう。両方とも「婚」という字がついており、「あらあら、ゲイカップルでも「おんなへん」を使わないといけないのね」ということに苦笑してしまうのですが、とりあえず「法律婚」の話からしたいと思います。なお「法律婚」というのは「事実婚」に対して使われる便宜上の言い方ですが、正式には「婚姻」といいますので、ここからは「事実婚」への比較として使うとき以外は「婚姻」という用語を用いますね。
ご存知の通り、現在の日本では「婚姻」は男女のみに認められている制度・権利です。ですから「男同士/女同士は結婚できない」と言ったときは、「婚姻ができない」ということになります。僕が幼稚園で働いていた時、こんな会話を園児(女の子)たちとしたことがあります。
園児「愛香先生〜。今から私たちお姫様ごっこするから、先生は王子さまになって迎えに来て〜」。
平良「え〜、僕も王子様に迎えに来てほしいなあ」。
園児「そっか、愛香先生は男の人が好きなんだよね。でも男と男は結婚できないんだよ」。
平良「そうだねえ。日本では結婚できないけど、男と男が結婚できる国もあるんだよ」。
園児「ふ〜ん。でも今は我慢して、私たちを迎えに来て!」
(平良大笑い)。
印象的だったのは、「男と男が結婚できる国もあるんだよ」と言ったとき、誰一人「ヘンなの」と言わなかったことです。おそらくこのときの会話は、「日本は男と男が結婚できない国だけど、できる国もあるのだ」という新しい事実を知ったという出来事に過ぎず、「それは奇異なことだ」という価値観をまだ植え付けられていなかった、ということなのだと感じるのです。「偏った価値観」を植え付けられるより前に、「いろいろな人がいる」ということを学んでほしい、だからこそ「性教育」は早いほうがいい、とつくづく感じました。
少し話がそれましたが、日本では同性同士は「(事実婚を含めて)結婚できない」のではなく「婚姻関係」にはなれない、というのが正確な言い回しになるでしょう。憲法にも24条で「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と明記されているからです。言うまでもなく、「親や他者の合意ではなく婚姻したいと思っている当人同士の合意に基づく」ということを言っている条文ですが、婚姻したいと思っている二人が男女以外の組み合わせであることを全く想定していなかったために「両性」という言葉を用いたと考えられます。
そのため結果的に同性同士の婚姻がまだ日本ではかなわない(男同士であっても「両性である」と解釈可能だ、と言っている人もいる)のですが、それに対し「これは同性婚を求める人がいるにも関わらず、その権利を疎外している」と訴えている人も少なからずいますし、「同性パートナーシップ条例では不十分である」ということから、日本中で複数の訴訟が進行中です。それらは、「わたしたちパートナーの関係性を、法律でもっと認めてほしい」「絆を強めたいから、お墨付きがほしい」という「結婚の温かさ、幸福感、充実感を社会や権力者に求めていること」とは全く違います。実際に男女であれば「婚姻」という制度を用いることで得られる法的な補償、メリットが、自分たちには与えられていないのはおかしい、ということを訴えているのです。
たとえば、男女であれば婚姻関係になるだけで、財産は共有になります。片方が死去しても、財産は残された伴侶のものとなります。ところが同性カップルは、財産を法的には共有していませんし、どちらかが亡くなると、パートナーの財産は1銭も自分のところに残りません。ともすると一緒に暮らしていた家さえ、「家主が死んだ。あなたはただの居候だったのだから出ていけ」となりかねないのです。もちろん、生前に何万円も払って公正証書を作っておけば、それらは免れるかもしれません。けれど、異性カップルだと婚姻しただけで無料で手に入る権利が、同性カップルだと何万円もかかる。
そういったことが実にたくさんあるのです。
(続く)
[ライタープロフィール]
平良愛香(たいらあいか)
1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。