僕がゲイで良かったこと 第29回

第29回 沖縄が訴えた裁判でいま起きていること

 

平良 愛香

 

この連載で、「沖縄本島ってほんとう?」「沖縄県ってほんとうに沖縄県?」という話を書き、次は南西諸島という名称についての思い(困惑)について書こうと思っていたのですが、8月から9月にかけて沖縄の状況が大きく揺さぶられているので、そのことを共有できればと思い、そちらを先に書くことにしました。「今沖縄で起きていること」というタイトルにしてしまうと無限に書くことはあるのですが、とにかく今、起きていることを書いてみますね。

辺野古の新基地建設についてはこの連載でまだほとんど触れていませんが、「新しい軍事基地は要らない」「戦争を生み出す島になってはならない」ということから毎日陸と海での座り込みによって工事の阻止行動が続いています。けれど最近の情報で、「まもなく辺野古浜の埋め立ては100%完成する」ということが言われています。かなり衝撃的なニュースですし、おそらく近日中に埋め立てられた辺野古浜の航空写真が新聞をにぎわせることになるでしょう。けれど「もう後戻りができないところまで行ってしまった」というわけではありません。今回埋め立てられようとしているのは、辺野古崎の南側にある辺野古浜という浅瀬であり、政府が本当に埋め立てて滑走路を作りたいのは北側の大浦湾なのです。大浦湾はとても深く、ここに滑走路を造れば空母が接岸できます。しかし大浦湾には軟弱地盤が見つかりました。マヨネーズのような軟弱地盤、と表現されることがありますが、生物たちにとってはかけがえのない土壌でもあります。この軟弱地盤が見つかったことで、当初予定していた工法では工事ができないことが判明したのです。そこで沖縄防衛局(防衛省の地方組織)は設計変更をしました。その設計変更に対して、沖縄県は「この新しい設計案は世界でまだ実現したことがなく、非常に問題が多い。この設計変更でも工事はできないと判断する」と言って、未だに承認を出していないのです。(つまり、このまま工事を始めてしまうと違法になってしまう)。

けれど沖縄防衛局は国土交通省に対して「行政不服審査請求」を出しました。行政不服審査というのは、行政が何かをしようとしたときに「それは私たちにとって不都合だから審査し直してください」と住民が請求できる権利です。よりによって防衛局は、住民のような顔をして「沖縄県が工事を承認しないのは私たちにとって不都合であるから、沖縄県の『未承認』をやめさせてください」と国土交通省に請求したのです。そして国土交通省はそれを認めてしまいました。そこで沖縄県は、国土交通省がそれを認めたことに対して2つの訴訟を起こしました。一つは、「沖縄県が出した不承認に対し、国土交通省が出した不承認取り消しという『決裁』、この『決裁』の取り消しを求める」という訴え、もう一つは、「設計変更を承認するよう国が県に『是正指示』を出したのは違法である」という訴え。けれど地裁でも高裁でも県の訴えは棄却されており、そして8月24日には一つ目の裁判が、9月4日には二つ目の裁判が最高裁で判決が出ました。両方とも「上告棄却」(最高裁では扱う必要がないと判断され、沖縄県の訴えは認められないということが決まった)でした。そしてどちらの判決も「設計変更による辺野古大浦湾の地盤工事が妥当かどうか」といった内容には全く触れておらず、すべて「国の業務について自治体はそれに従う義務がある」といった視点での説明でした。改めて「国ってなんだろう」「地方自治ってなんだろう」ということを考えさせられます。地方自治はそこで暮らす人たちのために働いている、と感じますが、国はそこに生きる人のためではなく「国のために政(まつりごと)をしている」と感じてしょうがないのです。そもそも、内容に踏み込まない時点で、おかしいと思いませんか? 沖縄県は「内容に問題があるから承認していない」と言っているのに、「承認しないことそのものが認められない」という判決であって、内容は全く関係ないのですから。

なお、この判決が出たとたん、防衛局は大浦湾の工事を始めようとする可能性はあります(まだ沖縄県が「承認」を出していないのに、すでに受注は始まっているようですし、埋め立てたばかりの浅瀬を大浦湾埋め立てのための土砂置き場にするという計画まで進んでいます。)けれど、これで工事が始められるわけではありません。だって、工法がまだ承認されていないですし、承認しない理由がちゃんとあるのですから。もしかしたら今度は政府が無理やり「代執行」をして「県の代わりに設計変更を承認する」ということをしようとするかもしれません。けれどもこれからも辺野古新基地建設阻止は続きます。これは沖縄が「戦争を生み出す島」になってほしくないからです。今回はかなり色の違う文章になったかもしれませんが、少なくとも読者の皆さんには、「今現在、こんなことが起きている」ということを知ってもらいたいと思い、緊急的に書かせていただきました。

 

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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