僕がゲイで良かったこと 第38回

第38回 阿波根昌鴻さんに学んだこと2

平良 愛香

 とんでもないニュースが飛び込んで来ました。昨年12月に沖縄でまた少女が米兵によって誘拐、暴行されていたにも関わらず、3カ月後にそれを知った政府がさらに3カ月間それを県に知らせていなかったというのです。県議選の前にこの事件が公になってしまうと投票に影響が出てしまう(基地反対派に有利になってしまう)と何者かが判断してたのではないでしょうか。それとも私がうがった見方をしているのでしょうか?

8月1日には大浦湾に砂杭(すなぐい)を打ち込むと政府は発表しました。私は自分の体に杭を打ち込まれるような痛さを感じています。私が自意識過剰なのでしょうか?(それにしても県議選後の政府のやりたい放題は目に余ります。そのことはまた今度書ければと思います)。

前回「阿波根昌鴻さんに学んだこと1」として辺野古埋立て阻止のたたかいが非暴力で行われていることを書きました。そう、最初はとてものどかな座り込みだったのです。声を荒らげることもなく、「ここでたくさんの人が工事を阻止するために平和に座り込みをしているよ」とアピールすることで、強引な工事を止めていたのです。工事の調査に来た沖縄防衛施設局(当時。現在は沖縄防衛局)の人と冷たい麦茶を一緒に飲んで帰ってもらうという、平和な座り込みだったのです。

ところが2004年8月13日(金)、その均衡が破られました。沖縄国際大学のキャンパスに米軍の大型ヘリコプターが墜落したのです。もしかしたらヘリコプターと言ったら4~5人乗りの乗り物を想像するかもしれませんが、軍用の大型ヘリはバスを吊り下げて飛んだり、何十名も兵士を乗せて飛んだりできるほどの巨大なものです。それが大学の敷地内に落ちて来たのです。そこは言うまでもなく基地の内側ではなく外側、米軍のフェンスの外でした。ところがヘリが墜落するや否や、そこには米軍によって規制線のロープが張られ、沖縄県警すら近づかせてもらえませんでした。いざというときは、沖縄は島全体が米軍基地になり、米軍が支配するのだということを実感しました。

「怪我人が出なくて良かったですね」と言った人がいました(本当に怪我人が出なかったかどうかは知らないのですが)。米軍の中には「民間人を巻き込まなかった優秀なパイロットだ」と称賛する声すらあったようです。けれども、ヘリコプターは人がいないところに落ちたのではないのです(確かに大学は夏休み中で学生があまりいなかったのは事実ですが、それはたまたまでしょう。夏休みを狙って落ちて来たということなんてあるまいし)。むしろ爆音を立ててヘリコプターが落ちてくるのを目撃し、命の危険を感じて逃げたので人々は助かったのです。ある母親は赤ちゃんを抱いて部屋から飛び出しました。その部屋には直後にヘリコプターの折れたプロペラが窓をぶち破って飛び込んで来たのです。逃げていなければ大惨事になっていました。それほどとてつもない事故だったのです。ただ沖縄では大事件でしたが、その日、関東で配られた号外新聞のニュースは「ナベツネ辞任」でした・・・。(実はその日私は東京にいたため、号外が「ナベツネ辞任」だったということをすぐに知りました。テレビでもトップニュースはヘリ墜落ではなくナベツネでした。それを知った時、あまりの温度差に誇張ではなく本当に頭がくらくらしました。今でもしっくりこないニュースがトップに来ると、「何か重大な事件や事故を隠そうとしているのでは」と疑っています。「上野動物園のパンダがどうのこうの」とか。そして大抵そういうニュースが紙面を踊らせるときは、沖縄で起きている重大な事件がトップから外されていたり、まったく触れられてなかったりしています。)。

さて、8月13日にヘリコプターが墜落して、時の首相である小泉純一郎総理大臣がこう言いました。「やっぱり普天間基地は危険だ。今すぐにでも閉鎖、返還しなければならない」。この発言は嬉しかった。けれど彼はこう続けたのです。「だから一日も早く、辺野古に基地を完成させて移転させねばならない」。そこから辺野古の座り込みは暴力に巻き込まれて行ったのです。もはや「のどかな座り込み」ではなくなりました。防衛局が力づくで基地建設を進めようとし始めたのです。

と、ここまで書いて、またまた沖縄のニュースが飛び込んできました。米兵による性暴力事件がまたもや起きたと。性暴力事件は軍隊だけが起こすものではありませんが、軍隊によって起こされるのは「たまたま」ではなく、どこかにその土地やそこに住む人々を「戦利品」のように感じる意識があるのではないかと思います。また「力のある者がその下の者を支配する軍隊の構図」が事件の根底にあるのを強く感じるのです。たまたま起きた残念な事件ではなく、軍隊が駐留しているというのは、性暴力事件が起きやすい環境がそこにあるということなのだと感じています。(続く)

 

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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