第19回 僕が(多分)同性婚をしない理由 7
平良 愛香
前回、同性同士の「結婚」は「カミングアウトを伴う」という、とてもハードルの高いものとなっていく、ということで文章を閉じました。いまお付き合いをしている(というより、ほぼ一緒に生活をしている)Eさんは、僕と「結婚」するとなると、同時にカミングアウトしなければならない、という「リスク」を負うことになります。
Eさんは親しい友人にはカミングアウトしているし、平良愛香というパートナーがいることも隠していませんが、家族や親せきにその理解を求めるというのは、必ずしも同じことではありません。かなり別のエネルギーがいるのです。出生や障がいなどで差別を受けることのあるマイノリティーの人たちの中には家族が理解者でありサポーターになることが多いのではと思うのですが、LGBT性的マイノリティーについては「親に逆らった」「家族の恥、一族の恥」とばかりに家族が最も敵になりやすいのです。(とは言いつつ、障がい者の人権運動をしている友人は「障がい者も実は家族が一番敵になるんですよ。当事者の声よりも家族の苦悩のほうが取り沙汰されていることが多く、なかなか本人の声は聴いてもらえないんです」と言ってましたが。)
まあ、Eさんも年齢が年齢なので、今さらカミングアウトして家族や親せきからつまはじきにされることはないとは思うのですが、それでも「わざわざリスクを負ってまで、結婚したいとは思わない」というのはある意味自然な判断なのかもしれません。
一方、僕が「結婚」に疑問を持つようになったのは、別の大きな理由があるからです。前にも述べたように、法的に婚姻が認められたとき、様々な「メリット」を得ることはできます。例えば一人当たりの税金が安くなる。でもこれは、婚姻していない人がその分、たくさん税金を払っているということになります。本当にそれでいいの? 婚姻している人の税金が安くなるのは、そもそもなぜなの?
実は現在日本中で提訴されている「すべての人に婚姻の自由を」という訴訟(いわゆる「同性婚訴訟」)に対して、同性婚を認めようとしない国側は「男性と女性が子を産み育てながら共同生活を送る関係に対し、特に法的保護を与えること(自然生殖可能性のある関係性の法的保護)が婚姻制度の目的である」と言っています。おかしいと思いませんか? 少なくとも日本では「子を産み育てることが婚姻制度の目的」としているのです。もしそうだとしたら、同性婚以前に、異性同士の婚姻が問われないといけないのになあ、と感じるようになったのです。異性婚している皆さん。婚姻の目的が「子を産み育てることである」と国が言っているって、知ってました?
ちなみに国側は、「子を産む意志や可能性がない男女も『自然的かつ基礎的な集団単位』として社会的な承認があるので、男女に限る合理性はある」ということも言っていますが、それって、「産み育てることが政府の認める婚姻の目的」「産み育てなくても男女だったら社会が承認しているから婚姻を認める」ということですよね。ツッコミどころ満載。社会的に承認されているから国が認める、というのは制度としておかしいのではないか、とも思うのです。婚姻って何?という問い以前に、「国って何?」「制度って何?」って感じがします。でも国や制度について語る場になってしまうと、この文章がさらに進まなくなってしまうので、とりあえず次に進みます。
男女であると、「婚姻」というシステムで法的なお墨付きをもらい、いろいろなサポートを得ることが可能です。同性カップルだと法的な権利が得られません。そういう意味では「この人と一緒に生きていきたいのに、異性じゃないというだけの理由でサポートを受けられない」というはやはり差別だと僕は思います。なので僕は訴訟を起こしている人たちを応援しています。そして同時に「そもそも、二人で支え合って生きていこう、ということにお上のお墨付きがないと成立しないのって、なんかヘンじゃない?」ということも考えるようになったのです。一言で言うなら「同性婚であろうと異性婚であろうと、ちょっと立ち止まって考えてみる必要があるんじゃないの?」と感じるようになったのです。これが僕自身が「法的な同性同士の婚姻に入りたいとは思わなくなった理由」です。(実は同性婚訴訟の人たちもその点も考えた上で、「それでもこの不利益は差別である」と訴訟に踏み切っています。きちんと一度立ち止まった上で「それでも訴えねば」と立ち上がった仲間たちを、応援したいと思っています。)
では、法律婚(婚姻)ではなく「事実婚」なら納得できるのか。実際「婚姻」には問題が多いと気づき「事実婚」を選ぶ男女も多いです。僕はどうしたいのかなあ。どうやら「事実婚」すらしないような気がします。次回に続く。(なんか、講義みたいな話になってすみません。次回はノロけますので、お楽しみに)。
[ライタープロフィール]
平良 愛香(たいら あいか)
1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。