「起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 第20回

結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

コーチングスキルで、ビジネスの世界を広げる
Global Competency 代表取締役
森本裕子さん

取材・文 伊藤ひろみ
写真提供 Global competency

 

近年、人材育成や教育の世界で注目されているキーワードのひとつがグローバル・コンピテンシー(global competency)。国際社会で活躍できる能力、力量、資質などを意味する言葉である。自身の経験とスキルを活かし、グローバルに通用する人材を育てたいとコーチングの世界で力を注いできたのが、今回ご紹介する森本裕子さんだ。

国際コーチ連盟認定コーチ。コーチング経験15年以上のキャリアを持つ

 

父の仕事の関係で、1歳半から3歳まではフランス、3歳から6歳まではスイスで暮らした。小学校入学と同時に帰国。高2 のとき、再び家族とともにメキシコへ。その後、単身帰国し、日本の大学へ進学。コミュニケーション学科で異文化コミュニケーションを専攻した。大学時代には、40日間ほどヨーロッパをひとりで旅した。

森本さんはいつしか海外で働くことを意識し始めるようになったが、新卒で就職したのは外資系銀行の東京支店。日本では男女雇用機会均等法が成立していなかった当時、男性と同じ条件で女性社員を募集していた数少ない会社のひとつだった。特に興味があった業種ではなかったが、ここで経験を積むことも必要との思いで決断。ディーラーのアシスタントを務めた。

上司は日本人だけでなく、ベルギー人、インド人、アメリカ人など、外資系企業だからか、めまぐるしく入れ替わった。彼らといっしょに働くことで、見えてきたこと、得たことは大きい。異なる文化背景を持つ人たちとどう理解し合って、ともにビジネスを進めるか。いくつもの壁にぶつかりながら、実践トレーニングの日々となった。国際プロジェクトチームでは、グローバルコーディネーターとしても活躍し、社内で表彰された。銀行員として仕事を始めて7年目の秋、大学時代に知り合った男性と結婚した。

近年、改めて日本の伝統文化に興味を持ち、その奥深さにはまっている

 

銀行業務は数字がすべて。常に厳しい競争にさらされていることもあり、プレッシャーも大きい。夢中で仕事と向き合ってきた時期を経て、冷静に客観的に、まわりがよく見えてきたころでもあった。「何か新しいことをしたい」。もやもやとした思いが沸き上がり始めていた。

そんな折、夫の海外勤務が決まった。赴任先はカリフォルニア州シリコンバレー。「次」を意識し始めていた森本さんは、すでにアメリカの大学院へ進学しようと準備を進めていたところだった。約10年勤めた会社にピリオドを打ち、夫とともに渡米した。

そして、サンフランシスコ州立大学院で異文化コミュニケーション学の修士号を取得。修了後、さっそくアメリカで異文化研修の仕事を開始した。現地のビジネスパーソンに日本のビジネス慣習を伝えるなど、日本とアメリカをつなぐ役割を担った。しかし、「異文化コミュニケーションだけでは物足りない。もっと何かが必要ではないか」。そう感じた森本さんは、世界初のコーチング養成学校へ入学。1年半ほどかけて、コーチングの理論とスキルを磨き続けた。

アメリカ時代、外国人向けに東京の情報を伝える書籍を出版

 

2009年、アメリカから帰国し、その後日本で起業。40代半ばでの新しいスタートとなった。2011年には法人格を得て、株式会社グローバル・コンピテンシーとなり、代表取締役を務めている。

コーチングは、具体的な言動・行動変容を促すことがポイント。クライアントの話に耳を傾け、相手の深いところにあるものを引き出すところからスタートする。たとえば、外国人の上司とうまくコミュニケーションが取れていないと感じているクライアントがいるとする。十分に意思疎通ができない原因が自身の英語力にあると感じている場合も少なくないのだが、果たして本当にそうなのか。自分自身の中にある思いこみに縛られていたり、本来向き合うべき課題が他にあったりする場合もある。森本さんはクライアント本人からの情報だけでなく、必要に応じて、まわりの人の声も聴くこともあるという。客観的、多面的に状況を知り、そのうえでゴールを決め、解決へとつなげていく。コーチングの鍵は、相手から引き出すこと。「邪念や思いこみは禁物。相手に素直に質問を投げることが大切なんです」と語る。

オンライン会議システムを利用し、個別セッションでコーチングする森本さん

 

近年、企業の管理職のサポートのほか、組織のリーダーシップ開発などにも尽力してきた。2022年10月には、個人のクライアント向けのホームページを公開したばかり。今後は、個人へのコーチングにも力を注ぎたいと意気込んでいる。

 

 

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。近刊に『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)。

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