「起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 第7回

取材・文 伊藤ひろみ
写真提供 ラウンドフィット

結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

 

コロナに負けない強さとしなやかさ
Round FIT代表 フィットネスインストラクター
高田朝美さん

 

新型コロナウイルス感染拡大は、さまざまな業種・職種に影響を与え続けている。第1波が広がった2020年4月、スポーツクラブでクラスターが発生。ジムやレッスンスタジオなど、軒並み休業を迫られ、高田朝美さん(54)が運営するラウンドフィットも大きな影響を受けた。起業して、ちょうど2年を迎えようとしていたころだった。

ストレッチ、エアロビクス、ヒップホップダンスなどのレッスンのほか、健康セミナーやイベントなど幅広くフィットネス指導を行う高田さん。この道35年のベテランインストラクターである。これまでいくつかのスポーツクラブと契約してきたが、お呼びがかかってこその仕事。長年に渡りキャリアを積んできたものの、明日の仕事が保証されているわけではない。いつまで使ってもらえるだろうか。50歳を目前にしたころ、ふとそんな不安が頭をよぎり始めた。もやもやした気持ちを抱え、出した答えは、「だったら、自分で仕事を作ろう」だった。

教えることには自信があったが、独立するためには、それだけでは足りない。開業に向け、友人知人に助けを借りながら準備を重ねた。区が提供する共同のスタートアップオフィスを借りてそこを事務所とし、2018年3月、開業にこぎつけた。

 

コロナ禍でも果敢にチャレンジする高田さん。 50代でもこの若さ!

 

そんな時間を経て、なんとか軌道に乗りかけた矢先、コロナ禍に見舞われたのである。第1波が猛威をふるいはじめた2020年3月以降、スタジオレッスンはもちろん、予定していたイベントやセミナーなどもすべて中止。外出もままならず、人と会うことも、いっしょに体を動かすことも自粛を迫られる日々。一気に収入がゼロになり、事業の練り直しを余儀なくされた。

スタジオでのレッスンが無理なら、オンラインでやろう。そのためには、バーチャルスタジオを設定し、遠隔でも満足してもらえるようなコンテンツにしなければならない。高田さんの新しい挑戦が始まった。おうちでできる簡単エクササイズなど新しいトレーニングメニューを開発したり、自ら撮影したエクササイズ動画をSNSにアップしたり、試行錯誤の日々が続く。しばらくして、それらを視聴した人たちの中から、ぽつぽつと反応が出始めるようになった。これらのレッスンと並行し、指導者として日本フィットネス協会の実技講習会や実技テスト審査などもオンラインで行った。

1980年代半ば、トレーナーを目指して専門学校へ進学した。アメリカ発のエアロビクスが日本でも注目され始めたころである。その華やかさ、かっこよさに魅せられたのが、この世界に飛び込むきっかけとなった。卒業後、マシントレーナーとして、またレッスンインストラクターとして仕事を始めた。本場アメリカまで出向き、エアロビクスやダンスレッスンを受講するなど、貪欲に学び、それを指導に取り入れた。

 

 

華やかさにあこがれて飛び込んだフィットネス業界。試行錯誤を重ねながら自身のメニューを作り上げていく。

 

始めたころは、インストラクターとしての寿命は30歳くらいだと思っていた。入れ替わりが激しく、後進の指導者も次々と登場し、若さがウリの世界だったからだ。20代後半、結婚、出産と高田さんのプライベートに変化が訪れる。体が動かせるギリギリまでレッスンを担当し、休業中はマタニティレッスンも受けた。もっと体を動かしたい、でも思うようにできない、そんなもどかしさが募るなか、見えてきたことも多かった。

レッスンメニューやフィットネスに対する人々の意識が多様化し、指導を受ける人たちの年齢層も高くなってきている。こうした変化に伴い、求められるインストラクター像も変わりつつあると気づき始めた。健康志向を重視したコンディショニングプログラムへとシフトしたのも、社会の変化を見据えてのことだった。

スポバンドとは、6つのポケットがついた伸縮自在のゴムバンド。偶然スポバンドを見つけた高田さんは、フィットネスに使えるのではないかと考え、さっそく行動を開始する。この商品を開発していた会社の社長に連絡を取り、独占的に使用許可を得たのである。スポレッチは、高田さんが開発したラウンドフィットオリジナルのストレッチ&筋力トレーニングだ。スポバンドのポケットに手を入れ、ゴムを引っ張るだけで、自然と体が伸び、これを続けることで筋力も増す。トレーニングジムに行かなくても、特別な道具がなくても、手軽に試せる方法である。レッスンに取り入れたり、使い方などを紹介する動画を発信したりするなど、さらなる拡大を目指している。

また、血流を促進したり、身体をほぐしたりするなど、家で手軽にできるエクササイズFine Move Stretchも高田さんのオリジナルプログラム。随時レッスンメニューに取り入れているほか、動画配信も行っている。

 

バンドの太さによって、負荷も変えられるスポバンド。ストレッチ、筋力アップなどのトレーニングに取り入れている。

 

レッスン指導はもちろん、資金管理、営業、宣伝など、すべてひとりでこなしてきた。起業当初、東京オリンピック・パラリンピック開催に合わせて法人化する計画だったが、コロナ感染拡大の影響が長引くなか、この目標はまだ実現していない。

思うようにビジネスができない、売り上げが伸びないなど、困難と背中合わせの1年半。起業女子にとっても試練が続く。できない理由をコロナのせいにするのはたやすいが、それはコロナに負けたと同義。個人、法人を問わず、その覚悟、精神の強さ、クレバーさ、柔軟性などが問われた試練とも言える。この厳しい時間をいかに乗り越えたかで、アフターコロナに大きく差がつくことだろう。

「私の憧れはファラ・フォーセット。彼女のように、いつまでも健康的で、美しく、ゴージャスでありたい」と目を輝かせる高田さん。「いくつになっても自分を高める努力なしに得られるものは、ない」ときっぱり語る。

 

レッスンを受ける年齢層も幅広い。オンラインでも対面でも多くのファンに支えられている。

 

人生100年時代と言われる昨今。90歳のフィットネスインストラクターが登場するなど、業界自体も変化し続けている。10年後、20年後、彼女はどんなインストラクターになっているだろうか。

ますます期待が膨らんでいく。

 

〒Round FIT
〒171-0021 東京都豊島区西池袋2-37-4 としま産業振興プラザ IKE-Biz 4階
TEL 070-3167-2727
https://round-fit.com

 

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。

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