「起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 第22回

結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

声にならない声をカタチに
レオラ(Leo La ~Heartful communications~)代表
武井康代さん

取材・文 伊藤ひろみ
写真提供 レオラ

 

「もともと自分の声が嫌いだったんです。話すことも好きではなかったし…」そう語った武井康代さん(52)。「なのに、今はそれを仕事にしている。不思議ですね」

武井さんは2014年6月、レオラ(Leo La)を立ち上げた。事業内容は、企業研修業務、声診断および声のカウンセリング、そしてMC・ナレーションの3つ。いずれもキーワードは「声」である。

自分の声を武器に起業した武井さん

 

ひとつめは、ビジネスマナーやコミュニケーションの講師としての仕事である。企業の新入社員やフォローアップ研修、マナートレーニングなどを行っている。依頼主は、ホテルなどの接客業からIT起業まで幅広く、指導する相手、人数などもさまざま。ひとりで対応することもあれば、複数の講師とチームを組んで行うこともある。新人研修などでは、お辞儀の仕方や名刺の渡し方など、知っていて当然と思うことも、基本に立ち返って指導する。その際、その意義などを丁寧に説明し、納得してもらうことが大切だという。そのうえで、「わかったこと」を「できる」ことへと繋げ、現場力を強化する。

興味深いのは2つめの仕事だろう。武井さんは日本声診断協会認定の音声心理士という資格保持者。声診断とは、声を録音し、音声分析ソフトを使ってその周波数をチェックする。各人の声が12色に分類され、それぞれの潜在意識などが可視化される。同じ人でも、体調や精神状態などによって、表れ方が異なるとか。どんな色がより強く出るか(出ないか)を確認することで、自分の現状を再認識できたり、気になる点を変えるきっかけにもなったりする。おもしろそうだからと声診断のみの依頼が入ることもあれば、自分の声を変えたいという相談もあるという。後者の場合は、個別セッションを組み、カウンセリングを行う。「人と比較して自分はダメだと悩んでいる人も多く、それが声に出てしまうんです。自分の声が好きになると、人生も変わりますよ」

声診断チャート。12色の現れ方を分析し、カウンセリングにつなげる

 

3つめはMC・ナレーター業務である。2019年8月より、「武井ヤッコのハートフルトーキング」(八王子FM)というラジオ番組を担当している。毎回ゲストを呼び、武井さん自身がナビゲートする。「航空会社のVIPラウンジがイメージコンセプトなんです。飛行機を待つひとときに、シャンパンを飲みながらリラックスして聴いていただけるような番組にしたい」と語る。さらに、後進のパーソナリティ育成にも力を注いでいる。

武井さんがナビゲートするラジオ番組の収録風景

 

武井さんは大学卒業後、都内のホテルに就職した。だが、もともと客室乗務員になりたかったため、ホテルウーマンとして仕事をする傍ら、航空会社の試験を受け続けた。その夢が叶い、2年後CAデビュー。そして、学生時代からつきあっていた男性と結婚した。

生活ががらりと変わった。何より、希望する仕事に就け、自信を得たことが大きい。仕事がら移動が多く、体への負担も少なくなかったが、若さと情熱で乗り切った。

客室乗務員として飛び回ること約6年。無理がたたったのか、メニエル病を患ってしまう。体が危険信号を灯しているが、それを受け止めるのがつらい。結局、憧れだった仕事にピリオドを打った。その後、二人の子どもを出産し、家事と子育てに追われる日々となった。

憧れの仕事に全力投球していたCA時代

 

かつてCAだったこと、だが、CAを続けられなかったこと。それがプライドでもあり、コンプレックスでもある。いったんは家庭に入ったが、子育てをしながら、仕事を再開。健康飲料の営業という新しい仕事を得た。ホテル業務やCA経験で培ったコミュニケーション力でみるみる営業成績を上げていった。やがてチームリーダーに抜擢され、15年以上働き続けた。

そんな折、たまたま友人からの依頼で、研修業務を始めることになった。企業と仕事をするためには看板が必要だと思い、社名をレオラLeo Laとし、開業届けを提出した。Leoは声、Laは太陽を表すハワイ語。少しでも業務内容も知ってもらいたいと、社名の後に、Heartful communicationsを添えることにした。

コロナ禍で、オンラインでも研修業務を請け負うようになったが、対面での指導も続けている

 

開業6年目の2020年春、コロナパンデミックで新入社員研修の依頼がすべてキャンセルになってしまった。いつもの年なら、フレッシュな人たちを前に奮闘している時期だったのだが、緊急事態宣言が発令され、それどころではなくなった。一緒に研修を請け負っていた仲間たちも頭を抱えた。その後、オンラインでもできるように準備するなど試行錯誤を繰り返し、2021年春には、リモート研修も対応できるまでになった。

大学時代、恩師の一人に、「あなたの声、いいね」と言われたことがあった。そのころは、自分の声にまったく自信がなかったのだが、それが人生を180度変えるきっかけになったのではないかと感じている。

父は会社員をしながら、ジャズを愛し、ウッドベースを弾いていた。幼いころから何気なく聴いていた音楽が耳を鍛え、声にも刺激を与えたのかもしれない。その父が若くして他界してしまったが、亡くなる2年前にジャズベーシストをやりながら念願のビジネスで起業。その父の背中を見ながら、いつか好きなことで起業したいと強く思ったという。

自分の声の魅力を知り、愛でること! 声の良さは持って生まれたものなのではなく、トレーニングによって変えることができるのだ。そんな希望を抱かせてくれる武井さんだった。

 

★レオラ(Leo La 〜Heartful communications〜)
☏080-3471-3814
E-mail: yaco.taco.yu.cot★icloud.com(★を@に変換してください)
声診断用LP https://peraichi.com/landing_pages/view/yacco

 

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。近刊に『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)。

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