「起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 第18回

結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

多くの種まきが、素敵な花を育てる
swan 代表社員・技術士
中島満香さん

取材・文 伊藤ひろみ
写真提供 swan

 

週末、東京・駒込駅近くに小さな花屋さんがお目見えする。オーナーは中島満香さん(47)。既存店舗の軒先を借り、小さなバスケットなどに花を入れ販売している。コロナ禍の2021年大型連休中から、このビジネスをスタートさせた。自らを路地裏花屋と呼んでいる。

 

軒先を借りて始めた
ちょこっとビジネス「路地裏花屋」

 

中島さんはこの花屋さん以外にも複数の顔を持つ女性起業家である。2021年8月、合同会社swanを設立。B to G(Business to Government) と呼ばれる民間企業と行政をつなぐコンサルティング業務を行っている。自治体等に自社の製品やサービスを売り込みたい企業は少なくないが、ノウハウがなければ、入り込む余地はほとんどない。そもそも行政相手のビジネスは、企業間取引とは商習慣が違う。行政がどんなルールや制度で動いているか、実情をよく認識したうえで戦略を練らなければならないのである。

行政から委託を受けるには、金額で委託先を決める入札参加がよく知られている。また特定のノウハウを持つ企業が指名されるのが随意契約。これら以外に、プロポーザル(提案型企画競争)と呼ばれる方式がある。かつては行政側が主体的に事業を実施できたため、委託先は金額の安さで選べばよかった。しかし今は行政の課題も多岐にわたり、何をどうしていいか、とまどっている自治体も少なくない。受注につなげるためには、魅力ある企画が提案できるかどうか、行政の課題をきちんと理解し、ともに解決していく力があるかどうかが問われている。

両者をサポートし、マッチングするのが中島さんの仕事。公民連携に関する調査や分析などの情報提供、研修やセミナーの実施、受注へとつながる企画立案など、業務内容は多岐にわたる。

 

起業家へのアドバイスを通じて、社会課題の解決に取り組み続けている。写真は43歳のころ

 

中島さんが大学を卒業したのは1999年。庭づくりに関心があり、造園会社での働くことを希望していたが、残念ながら叶わなかった。半年ほど自宅で家族の介護をしたあと、建設コンサルタント会社でアルバイトを始める。公園設計などを請け負う部署でアシスタントを務めたことにより、本格的にその仕事をしてみたくなった。そのためには専門的な知識が必要と気づき、アルバイト開始から2年半後に大学院へ進学。社会工学を専攻し、景観づくりを研究した。

大学院修士課程を修了後、大手建設コンサルティング会社に就職。約10年にわたり、まちづくりや過疎地域の活性化などに携わった。外資系コンサルティング会社に転職し、公共事業の計画立案やアドバイザリー業務に従事した。

大手ゼネコンなどの大企業が受注するのは、大型案件がほとんど。しかし現実に全国各地の自治体には、小さいながらも、さまざまな案件がある。「住み手がいなく放置されている大正時代の空き家があり、この空き家を活用した地域活性化策を考えたいが、地元の企業には活用のアイディアやノウハウがないので、取り壊すしかない」、「公民館の運営に地元も関わってもらおうと呼びかけたが、公共施設の運営ノウハウがないと断られてしまった。いつまでたっても行政直営の施設運営となり、あたらしい工夫が生まれにくい」など。それらを解決しなければならないと気づき、会社を興したのである。会社員時代に取得した技術士の資格も活かしながら、公民連携のノウハウをフル活用し、現場の悩みに応え続けている。

さらに中島さんは、不動産業という武器を持つ。10年ほど前から不動産投資を始め、アパートや戸建てを数件所有するオーナーでもある。その家賃収入だけでも、生活していけるほどだとか。若いときから投資に興味があり、さまざまな分野にチャレンジしてきたが、もっとも性に合っていたのが不動産投資だったという。

 

幅広くビジネスを展開する中島満香さん。コロナ禍で立ち上げたコンサル事業は2年目に入った

 

中島さんに大きな影響を与えた出来事は、父を早くに亡くしたこと。女手ひとつ、母が彼女と弟を育てた。「ある日突然、頼れる人がいなくなってしまう。どんなことがあっても自分ひとりでも生きていけるようにしなければならない」。幼いころからそんな思いを抱いていた。また、30歳のころ、通っていたビジネススクールで、収入の柱を3つ持つことを勧められた。会社勤めなど時間を使って固定収入を得ること、資産を活用すること、自分の知識と経験を生かし社会貢献すること。すでに前者2つを達成し、今は3つめにチャレンジできるところまでになったのである。

10年ほど前から婚活を始めた。週末を中心に精力的にお見合いした。運よく意気投合する男性とめぐり逢い、2017年に彼と結婚。朝食だけはともにするが、あとはそれぞれ自分の仕事、自分の世界へ。生活費はお互いの稼ぎの中から出し合い、分担しながら家事もこなす。

幼いころ植物好きだった祖母といっしょに花や木などを育てていたことが、今の仕事につながる原体験だったと振り返る。コロナ禍でリモートが増え、手触り感のある何かを欲していたところ、たまたま市場へ足を運び、生花を仕入れたことが花を売るきっかけとなった。自分の家に飾るプラスアルファくらいの気持ちで取り組んだちょこっとビジネス。軒先を借りてゲリラ的にスタートしたが、少しずつ認知されるようになった。今年の12月には実店舗を構えるそうだ。週末だけは生花を販売するが、それ以外の日は、地域の人たちなどの小商いの場、コミュニティスペースをつくる計画である。他に収入源があるので、この仕事へのプレッシャーを感じず、のびのびビジネスができる。彼女ならではのアドバンテージだろう。

 

駒込エリアを中心に少しずつファンも増えてきた。現在、実店舗展開の準備に追われている

 

「まずはやってみよう」の精神で、前向きにチャレンジする中島さん。気になったものはすべてトライし、あちこちに種を蒔き続けてきた。それがすぐに芽吹くこともあれば、10年かかることもある。それどころか、まったく芽吹かないこともある。それでもめげない、へこたれない。その手ごたえや結果を冷静に分析しながら、次への一歩を探り続け、自身の世界を切り開いてきた。

これからどんな花を咲かせるのだろうか。彼女の話に耳を傾けていると、こちらまでワクワクしてくる。

 

 

・合同会社 swan
☏ 090-8030-1003
E-mail: mika.nakashima★swanconsultant.com (★を@に変換してください)
https://www.swanconsultant.com/
・路地裏花屋
E-mail: mican3★gmail.com (★を@に変換してください)
Instagram: @rojiura_hanaya

 

 

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。近刊に『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)。

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