「起業」女子 〜コロナ禍でも前向きに生きる〜 終章

結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。

「『起業』女子」たちが灯す希望の光

                                文・伊藤ひろみ

 

新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界を震撼させた。日本においては、2020年4月に発令された緊急事態宣言以降、日々の暮らし、仕事のスタイルなどさまざまな変化を余儀なくされた。さらに残念なのは、仕事が減ったり、離職せざるを得なかったりし、経済的な影響を受けた人が多かったこと。彼らの悲痛な声が、私の耳にも届くようになった。

「『起業』女子」を企画し始めたのは、2020年の暮れ。皆不安を抱え、右往左往している時期だった。コロナにめげず、積極的に何かにチャレンジしている人たちを応援したい、そんな気持ちからだった。あえて女性としたのは、元気な女性たちが身近に多かったことによる。お互いに励まし合う機会になればという思いもこめて、「コロナ禍でも前向きに生きる」という副題をつけた。

取材対象は、起業後10年程度、現在もその仕事を続けていることなどを目安とした。2021年5月から2023年5月の最終回まで、計25人の起業女子が登場した。飲食、ファッション、健康、美容、教育、IT、コンサルティングなど彼女らが活躍する業種・職種はさまざま。年齢も幅広く、結果として30歳台から60歳台までが顔をそろえた。

誰に声をかけるかも悩ましかった。スタート時は身近なネットワークから、また掲載した方からの紹介などでつなぎつつ、アンテナを張り続けた。イベント、セミナー会場に足を運んで事前に情報収集したり、彼女らが経営する店舗などに出向いたりした。

取材対象が決まったあとも、長い作業が続く。インタビューも1回で終わらず、複数回会った人も。現在の仕事の内容、起業までのキャリアはもちろん、プライベートな部分も含め、できるだけ丁寧に話を聴くよう心がけた。コロナ禍ではあったが、25人すべての女性と対面し、インタビューできた。

 

彼女たちは、どんなきっかけで起業したのだろうか。

ひとつ目は、「好き」を極めたケース。起業女子に限らず、「好き」を仕事につなげたいと考える人が多い。それを武器にして、自分らしく輝ける世界を目指す。素直でまっとうな考え方だと思う。だが、ことはそう簡単ではない。趣味としてではなく、仕事として取り組むには、それ相応の覚悟や忍耐力などが求められる。

ふたつ目は「必要に迫られた」人たち。自分自身や家族、友人などの悩みや困りごとに応える形で取り組み始め、それをビジネスへとつなげたバターンである。誰もが笑顔でいられるようにと願う気持ちがすべての原点である。

開業までに急展開するケースもあったが、概して、準備が入念だった。企業人としてしっかりと経験を積み、それを持って自身のビジネスにつなげる。新たな世界でチャレンジしようとする場合は、学び直しがポイントだった。専門知識を広げ、スキルを磨き、必要な資格を取得する。当然時間がかかる、エネルギーがいる、何より努力が必要である。近年、リスキリングが注目されるようになったが、起業女子にとっては、今も昔も当たり前にやってきたことである。さらに、起業セミナーを受講したり、ビジネスコンテストにチャレンジしたり、起業家として磨きをかける人も多かった。

立ち上げ資金の調達、事務所の開設などもハードルが高いことだろう。前者は、自分で工面できる範囲で小さく始める、友人の力を借りる、という例が目立った。クラウドファンディングという方法をとった人もいる。近年、スタートアップビジネスに低金利で融資したり、シェアオフィスを提供したりする自治体も増えている。それらの情報を取集し、必要に応じて利用しているようだった。

なんといっても起業女子たちの強みは、ネットワークの力。友人や知人が、さまざまな形で彼女らをサポートしている。一人でできることは限られているが、まわりの人を上手に巻き込み、ともに力を合わせることで、さらに可能性が広がる。

女性ならではの悩みも多かった。結婚、出産、離婚、再婚……。ライフステージの変化に伴い、家事、育児、看護、介護など、女性への負担が大きい。それらをこなしながら、それらを乗り越えながら仕事に向き合うのは、時間的にも体力的にも精神的にも大変である。

さらにコロナという、誰もが想定できなかった事態に陥った。この3年間、彼女らの仕事や生活においても、多くの不自由と停滞を余儀なくされた。だが、彼女らなりの知恵と工夫、努力で仕事を続けたのである。

残念ながら、真の意味で「女性が活躍する社会」に至っていないのが日本の現実。彼女らの笑顔の向こうに、あえて言葉にできなかったその裏に、悩み、苦しみが見え隠れしている。

多くの困難にめげず、自らの世界を展開しようともがき続ける彼女らは、やはり希望の光だった。

 

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完全にコロナが収束したわけではありませんが、コロナ前の日常を取り戻しつつある昨今の状況を踏まえ、ひとまず起業女子の連載を終えることとしました。

取材に応じてくださった起業女子のみなさん、お忙しいなか、本当にありがとうございました。コロナにもめげず、懸命にそれぞれのビジネスや活動に取り組んでいらっしゃることに、心動かされました。みなさんの真摯で前向きな姿は、私自身への新たな活力にもつながりました。改めて感謝申し上げます。

みなさんのビジネスや活動が、今後ますます発展しますように。

2023年6月15日
伊藤ひろみ

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