耳にコバン 〜邦ロック編〜 第28回

第28回 すてきな四にんぐみ

コバン・ミヤガワ

 

 

「おそろい」ってのは、カッコいいわけです。

 

子どもの頃、寝る前に父がよく絵本を読んで聞かせてくれた。その中でも特に好きだったのが、トミー=アンゲラーの『すてきな三にんぐみ』。

黒いマントと帽子の泥棒三人組が、真っ赤な「おおまさかり」やラッパ銃なんかで、盗みを働く。そんな中で、さらった一人の少女との出会いで改心し、孤児たちを救う。誰もが知る名作絵本だ。大人になって読み返すと、懐かしさと同時に痛烈な社会風刺も見ることができて、また面白い。

では、子どものボクは一体何に惹かれていたのか。ストーリー、絵、どれをとっても素晴らしいが、ボクはきっと「おそろい」に惹かれていたんだと思う。三人がおそろいのマントと帽子でいることに、何か格別の魅力を感じていたのだ。それでいてそれぞれが特徴的な武器を持っている。こんなにカッコいいものはない。

これは、どこか「ヒーロー戦隊」に通ずる部分がある。色こそ違えども統一感のあるコスチュームと、個性的な武器で悪党を倒す。ボクは「仮面ライダー」よりも根っからの「ゴレンジャー」派なのであった。

『すてきな三にんぐみ』は今もオールタイム・ベストとして君臨している。

 

かの有名なビートルズだって、最初は「おそろい」だった。ビートルズの四人が世界中に受け入れられたのは、おそろいの小綺麗なスーツを身に着け、ロックをやったからだ。

こう見ると、「ロックとスーツ」というのは、切っても切れない関係にある。

 

日本にも、おそろいのスーツを身に纏った四人組のチョーカッコいいバンドがおりまして。

そのバンドを「THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)」といいまして。

揃いの細身の黒スーツに黒ブーツの四人組。それぞれが楽器を手にして掻き鳴らす様は、もう「すてきな四にんぐみ」ですよ!

 

THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(以下、ミッシェル)は1996年にデビューし、2003年まで活動していた四人組バンドである。

カッコいいバンドは数あれど、もしも「カッコいい日本のバンド教えて」と聞かれたら、真っ先にこのバンドを挙げますね。彼らの持つ雰囲気、スタイル、音楽そのどれをとっても「カッコいい」という言葉に集約される。世の中の「カッコいい」成分をすべて集めて凝縮したバンド。それがミッシェルなのである。

 

ミッシェルとの出会いは偶然だった。

2010年頃だったと思う。今をときめくバンド『SEKAI NO OWARI(セカオワ)』がまだ『世界の終わり』名義だった頃。セカオワを聴こうとしてネットを開いて「世界の終わり」と検索すると、全く別の「世界の終わり」がヒットした。

バンド名ではなく、曲名が「世界の終わり」だった。

なんとなく聴いてみる。それがガレージロックとの出会いだった。

ジャキジャキのギターが奏でる、特徴的なイントロ。野太く、激しいベース。それらをキュッと束ねるドラムのリズム。そしてしゃがれた歌声。4つの音がバチバチに殴り合っていた。

脳みそがジュウジュウと音を立てて焦げ付くような感覚。激しい。とにかく激しい。今まで聴いてきた「ロック」というものが霞んでしまうくらいに、音が爆発していた。でもそれがとてつもなくカッコよかった。

 

なんなんだこの音楽は!!!

 

早速調べてみると、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTというバンドらしい。「THEE」? 「THE」の間違いじゃないのか? いや、そんなことはどうでもいい。とにかくとんでもないバンドに出会ってしまった。しかし、もう活動はしていないらしい。しかもギタリストはもうこの世にいないらしい。

そこからズブズブとミッシェル沼にハマり、ボクの中の「カッコいいバンド」第一位として未だ更新されずにいる。

 

ミッシェルの音楽は、いわば「味覚の大暴走」である。

辛くて、熱くて、しょっぱくて、酸っぱい物を口の中いっぱいに頬張っているようなものである。口の中は、それはもう大変である。いろんな味でもうめちゃくちゃである。しかし、それをすべて飲み込み、胃袋に収めた時に残る至福の旨味と感覚。それを味わいたくて、何度でも頬張りたくなる。

それでいて、スーツなわけですよ!

そんな彼らを「おそろい」ってものが強固に繋ぎ止めているんじゃないかと思うわけです。別々の服を着ていたら、あんなにカッコはつかないと思うんです。

ミッシェルは是非、ライブ映像を観てほしい。まるで映画のようである。強面の四人がスーツでステージを闊歩し、汗だくになりながら激しいロックをする様は「カッコいい」という言葉以外出てこない。

 

まさに男が惚れる男たち。

スーツって男の「勝負服」なんだ。聴けば、きっとスーツを着たくなりますよ。

後にも先にも、あんなにカッコよく、揃いのスーツを着こなしロックするバンドはいないのではないかと思ってしまう。それくらい彼らのロックは完成されている。

おすすめのアルバムは1998年の『ギヤ・ブルーズ』だ。

 

 

アブラがノりにノったギラギラのロックがほしい瞬間、ありますよね。そんな時にはこれ。

これが純正邦ロックだなんて! 世界に誇れるカッコよさである。

鋭利なまでに研ぎ澄まされた四人の「個性」が、一気にぶつかる。調和を取るわけでも、己を抑えるわけでもない。全力でぶつける。ぶつかった瞬間の圧倒的なインパクトとその衝撃は、一つの音楽となって、まるで核爆発のように、倍々的に勢いを増しながらボクたちの脳を焦がし尽くすのである。

 

それが「すてきな四にんぐみ」、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTなのです。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ

1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter: @koban_miyagawa
HP: https://www.koban-miyagawa.com/

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