湘南 BENGOSHI 雪風録 37回

職場の環境に関する問題としてとても多いのがハラスメントです。

ハラスメントの中には職務上の地位・権限を背景とするパワーハラスメント、性的な言動によるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産に関連するマタニティハラスメント、性自認・性的指向に関連するSOGIハラスメント、大学の研究・教育をめぐるアカデミックハラスメント等が含まれますが、私が受ける労働相談の中で一番多いのはパワーハラスメントに関する相談です。

ところで、セクシュアルハラスメントの相談件数は、少なくともわかりやすい類型のものについては、減少傾向にあると感じます。セクハラを許容しないという態度を示せる職場が増えたのだと思います。ただ、セクハラとは何かという知識はあるのに、自分がしていることがセクハラと理解しない社員が飛び抜けてめちゃくちゃなことをしているケースは今もあります。

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2019年6月、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の30条の2第1項に、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」という言葉がおかれ、事業者にはこれによって被害を受けた労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置をすることが義務付けられました。

この名前の長い法律をパワハラ防止法と呼ぶことがありますが、この法律そのものには、「職場におけるパワーハラスメント」の文字はでてきません。

2020年1月、厚生労働省は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)を定め、この指針において、上記「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」30条の2第1項にいう「職場においておこなわれる……害されること」を「職場におけるパワーハラスメント」と呼んでいます。

この指針には、職場におけるパワーハラスメントに関連して事業主が講ずべき措置、望ましい取組みが一定具体的に記載されています。

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 ある言動が職場におけるパワーハラスメントに当たるか否か、もう少し解像度を上げて見ていきます。

職場におけるパワーハラスメント該当性は、

① 優越的な関係を背景とした言動であること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること、③労働者の就業環境が害されることの3つをいずれも満たすかどうかによって判断されます。

①の典型的な例は、直属の上司の言動ですが、部下からの言動であっても、「集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」も含まれるとされています。

②については、当該言動の目的、経緯、状況、態様、頻度を始めとした色々な要素を考慮して判断するとされています。

③については、労働者が苦痛を与えられ、その就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいうとされています。

それとともに、上記指針は職場におけるパワーハラスメントの類型を、具体例をあげて紹介しています。この類型をいわゆるパワハラ6類型ということがあります。

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  • 身体的な攻撃。

殴打、足蹴りや相手に物を投げつけること。

  • 精神的な攻撃。

人格を否定するような言動、業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返す等々。

  • 人間関係からの切り離し。

意に沿わない労働者に対して仕事を外したり、自宅研修させたりする、同僚が集団で無視して職場で孤立させる等。

  • 過大な要求。

新卒採用者に対して、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課して達成できなかったことに対して厳しく叱責する等。

  • 過小な要求。

退職目的や嫌がらせのために仕事を与えない等。

  • 個の侵害。

労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする等。

なお、これらは代表的な言動を示すもので、この6類型に当てはまっていなければパワーハラスメントにあたらないというわけではありません。

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弁護士目線としては、一般に残業代未払いや不当解雇の方が、法廷で決着をつけやすいと感じます。職場におけるパワーハラスメントの問題を実効的に解決するのはいつも容易なことではありません。都度都度頭を捻って対応しています。

なぜ難しいのかと考えると、まずは、社内で事業者に求められる措置が実効的に機能しないという問題があります。

措置の具体的内容については次回以降、詳しくご紹介したいと思いますが、事業者が適切に対応できないうちに、被害者がキャリアを犠牲にして転職を選んだり、適応障害等精神的な病気を発症して休職してしまったりすることが多くあります。また、措置の実効性には会社の規模が一定影響していると感じます。

次に、職場のいじめ・嫌がらせをパワーハラスメントとして認定させることのハードルがあります。また、受けた被害と損害賠償額の釣り合いの問題もあります。

そのため、パワーハラスメントを争ったけれども労多くして…というケースもあります。

ただ、何よりパワーハラスメントに困っている人がこれだけ多い現状には問題意識をもっています。残業代未払いや不当解雇の問題が主じている職場の多くには、パワーハラスメントに目を瞑る企業風土があるようにも感じています。

最近になってこそ、真に優秀な人というのは、仕事の成果を上げるだけでなく職場の環境を乱さない人だと言われるようになりました。しかし、ついこの間まで、その人がその人単位で仕事でよい成果を出せるかどうかということがまず重視され、例えばその人が部下を潰してしまったり、チームの意見を尊重できなかったりということについては軽視される傾向にありました。

日本の現役世代がどんどん減っていくこの時代に、一人一人の働き、一人一人の仕事におけるパフォーマンスが十分に発揮されるかということは働く本人にとって大事なことはもちろん、会社やひいては社会にとってもプラスで、パフォーマンスを下げる職場環境を正せないことは会社にとって大きな損失です。

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 次回以降、どういうことが事業者に求められていて、それが果たされていない時に、弁護士がどういうふうにその問題解決のために動いているかということをご紹介していきたいと思います。

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