僕がゲイで良かったこと 第32回

第32回 クリスマスと自己決定権

平良 愛香

 12月です。クリスマスの月です。キリスト教では特別な月(ただしロシア正教会などの東方教会ではクリスマスは1月になります・・・実はウクライナ正教会も一昨年まではクリスマスは1月でしたが、ロシアの侵攻を受けて「一緒に祝えない」ということから西方教会に合わせて12月にクリスマスを移しました)ですが、それも含めて今年を振り返ったとき、いろいろ思うところがあります。今回も沖縄が無関係ではありません。でもその前にクリスマスの話です。(それにしても12月ってどうしてこんなに慌ただしいのでしょうね。まさに師走!)

この連載の第11回と第12回でクリスマスの話を書きました。多くの人に知られているクリスマスの話が、実は聖書に書いてなかったり、丁寧に読むととても悲しい物語であったりすることを述べました。ローマの軍隊に支配されていた当時のユダヤ人たちの生活というのは、僕が生まれ育った沖縄と見事に重なります。自己決定権をローマに奪われたユダヤと、米軍に奪われた沖縄。多くの苦しみを背負わされた女性たち。後にユダヤはイスラエルという国家を持って自己決定権を手に入れたと言えるかもしれません(逆にそれが周りを抑圧し苦しめることになってしまっていることは残念でなりません)が、では沖縄は自己決定権を取り返したのでしょうか。

イエスが生まれた頃、ユダヤ地方では皇帝アウグストゥスの勅令によって、人々は住民登録のために自分の生まれ故郷に帰らねばならなかった。ヨセフも身重のマリアを連れてベツレヘムの町に帰らねばならなかったと聖書に書いてあります。ところが人々が一斉に生まれ故郷に帰るのですから、町はごった返しています。マリアが安全なところで出産できたかどうかは分かりませんが、家畜が餌を食べる飼い葉桶に生まれたばかりのイエスを寝かせたと書いてあるのですから、「生まれながらにして難民状態」だったのです。しかも直後にヘロデ王から命を狙われてることを知り、本当に難民として親子でエジプトに逃げるのですが。そんな中で今回注目したいのは、「どうして住民登録が必要だったのか」ということです。ただの国勢調査ではないでしょう。自分たちの国力がどのようなものか把握したいという権力者の思惑、徴兵や税金徴収のための住民登録、これはまさしく「住民を把握して管理するため」と言えます。言い換えれば、国に逆らう者や国にとって不都合な存在がいれば、それを監視したり捕えたりできるための登録だったとも言えるでしょう。国に逆らわない限りは自由を与えるけど、逆らい始めたらすぐに逮捕する、そんな権力の行使が行われるのです。

最近の日本の法律はそういったものがすごい速度で乱立しています。「特定秘密保護法」「共謀罪」「マイナンバー制度」「土地規制法」などなど。そのどれもが、「国に不都合な存在を監視するための管理システム」だと感じます。この場合の「国」というのは、「市民」という意味ではなく、「政府」だと言えるでしょう。政府がやっていることを市民に隠せる法律、市民がやろうとしていることを政府が把握できる法律。2000年前のユダヤ地方と同じ(むしろ悪い)と感じるのです。そんな中、沖縄県は自己決定権を主張するためにいくつもの裁判を国に対して起こしています。辺野古・大浦湾の埋め立てを進めるためにサンゴの移植を速やかに許可しろ、と言ってきた農林水産大臣に「あなたがそれを言うのはおかしい」と訴えた裁判。沖縄県は負けました。辺野古・大浦湾の埋め立て計画に対し「これでは工事が安全にできない」と判断して沖縄県が承認しなかったことに対し、沖縄防衛局が国土交通省に「行政不服審査請求(行政がしようとしていることで不利益を被る怖れのある住民が不服を訴えて審査してもらう権利)」を提出し、国土交通省がそれを認めたことについても、「防衛局が行政不服審査請求をするのもおかしいし、国交相がそれを認めるのもおかしい」と訴えた裁判。これも沖縄県は負けました(なぜ沖縄県が埋め立て計画を承認しなかったのか、ということには一切触れないまま)。それでも玉城デニー沖縄県知事は「承認しません」と言い続けたため、政府は「それでは国交相が沖縄県知事に代わって承認ができるという代執行を認めてください」という裁判を起こしました。その判決が今年12月20日に出る予定です。もしこれが通ってしまったら、沖縄県の自己決定権は完全に無視されたことになってしまいます。言うまでもありませんが、これは沖縄県だけの問題ではなく、全国の都道府県が決定したことを、政府が簡単にひっくり返せるということに突き進む可能性が出てくるということです。最もそれが現れているのが沖縄であるに過ぎないということです(それとて非常に大変な問題ですが)。

こういう事を考えると、「国ってなんだろう」とつくづく思わされます。すべての人を管理・監視するために出来たさまざまな制度を行使する出先機関として地方自治行政はあるのだろうか。そうじゃないんじゃないだろうか。クリスマスって、そんなことまで考えるのです。

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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