結婚、出産、転勤、転職、さらに離婚、再婚……。さまざまな人生の転機に、生き方や活躍の場を模索する人たちは多い。しかし、自身で新しくビジネスを立ち上げるのは、容易なことではない。近年、自らの夢を叶えるべく起業した女性たちを取材。明るく前向きに努力を続ける姿は、コロナ禍における希望の光でもある。彼女たちの生の声を聞き、その仕事ぶりや日常に迫る。
日本の「ステキ」を世界に届けたい
株式会社 Quon-JAPAN 代表取締役
大石涼子さん
取材・文 伊藤ひろみ
写真提供 Quon-JAPAN
東京・南池袋、ビルが立ち並ぶエリアにある古い1軒屋の一室。6畳ほどのスペースに机、椅子と数台のPCを置いたシンプルなスペースがQuon-JAPANのオフィスである。オーナーは大石涼子さん(56)。人材紹介、ホームページ作成事業、インターネットメディアにおける情報発信や広告などが主な事業内容である。自身のITスキルやネットワークを活かし、2019年5月、新規ビジネスを興した。

起業してまもなく3年を迎えようとしている大石さん。30余年のキャリアと経験を生かし活動中。
事業の一つ目である人材紹介は、転職サイトを運営。LINEで情報を提供しつつ、人材募集している企業と職探しをしている人たちをマッチングする。
二つ目のホームページ作成事業は、まだホームページを持っていない企業や、スタートしたばかりの個人事業主などを対象とし、彼らの業務内容や意向などを反映しつつ、一から作り上げる。さらに、定期的にメンテナンスをするなど、情報の更新や維持管理も行う。
現在、もっとも注力しているのが、3番目の柱であるインターネットメディアにおける情報発信や広告業。昨年末、「RETOL」とネーミングした、豊島区内の情報を掲載するウェブサイトを立ち上げた。仕事場としている池袋を中心に身近な店や街の情報を発信し、地域と住民をつなごうという試みである。「まだ始めたばかりなので、コンテンツ充実までには、時間がかかりそうですが。現在私自身が情報を集めたり、読者に情報提供を呼びかけたりしています」と話す。「起業女子」の取材後も、近隣のカフェ、池袋の宿泊施設の取材・撮影と多忙なスケジュールのようだった。

東京都豊島区の関連情報を提供するウェブサイト「RETOL」
大石さんは大学卒業後、求人情報誌の編集者としてスタートを切った。「世界を征服したいです!」と面接試験でビッグな夢を語り、リクルートへ入社。イベントやパーティなど華やかな舞台にも駆り出された。仕事は深夜に及ぶ日も珍しくなく、タクシー帰りもしょっちゅうだった。今から思えばイケイケドンドンの時代でもあったが、大石さん自身が20代半ば。疲れも知らず、がむしゃらに働けた時代だったと懐かしむ。2年ほど勤めたあと、毎日コミュニケーションズへ。ここでも求人情報の仕事に携わった。
バブル崩壊後、退職。編集プロダクションで仕事をしたり、漫画家のマネージャーになったりと、紆余曲折が続く。ちょうどそのころ、結婚した。32歳になっていた。
その後、男児を出産。幼い子どもを抱えながら、求職活動を再開し、光通信の営業職を得た。「子どもがいることで差別される会社ではなかった」という大石さん。それはありがたいことではあると同時に、別の苦労を抱えることになる。「子どもがいようがいまいが、任せられた仕事は仕事。終わるまで帰れなかった」と付け加えた。夫や義母など、家族に協力を仰ぎながら、なんとか乗り切ろうと踏ん張った。彼らに面倒を見てもらえない日は、会社まで息子を連れて行ったこともあるという。さすがにフルタイムは難しいと判断し、しばらくしてアルバイトにシフトチェンジ。口惜しさも経験しながら、状況に合わせてフレキシブルに生きることを選択した。
見ている人はどこかにいるものだ。そんな折、元上司から声がかかった。光通信の子会社、e-まちタウンというインターネットメディアで情報発信を始めることになった。地域の情報を提供し、企業広告を配信するという仕事である。これまでのキャリアや経験を活かしたうえでの新しいチャレンジである。結局、ここで16年働いた。

PCが並ぶオフィス内。基本はひとりできりもりしているが、随時外部スタッフ等に協力を仰ぐ。
この会社での壁は、55歳の役職定年。子どもはすでに成人し、社会人となっているが、40歳のときに購入したマンションのローンが残っている。それに、まだまだ仕事がしたかった。ここで辞めるわけにはいかないと、50代に入った大石さんは、起業を視野に動き始めていた。幸い、会社には社員の独立を積極的にサポートしてくれる制度があった。それを利用し、53歳のとき、それまで携わっていたメディアを持って新しいスタートを切った。
ITスキルやマッチングシステムなど、これまでさまざまな仕事をこなしながら得た知識とスキル。それらをフル稼働させながら、今は自身のビジネスへまい進している。最大の武器は、インターネット。「外国人目線で日本のおもしろいもの、珍しいものが身の回りにたくさんある。それらを見つけ、ネット上で発信し、彼らに届けたい」とアフターコロナを見据えてのビジネス展開も進めている。60代を視野に、第3の人生へ。大石さんの夢が膨らむ。

一軒家の一室を借り、オフィスにしている。近くを散歩していたとき、偶然見つけた場所。
〒170−0022 東京都豊島区南池袋2−8−12
TEL 03-4586-7910
ryoko★quon-japan.com(★は@に置き換えてください)
https://quon-japan.com/(企業ホームページ)
https://quon-japan.biz/(20代のための転職サイト)
[ライタープロフィール]
伊藤ひろみ
ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。2019年、『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社刊)を上梓した。インタビュー取材も得意とし、幅広く執筆活動を行っている。立教大学大学院文学研究科修士課程修了。日本旅行作家協会会員。近刊に『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)。