僕がゲイで良かったこと 第18回

第18回  僕が(多分)同性婚をしない理由 6

平良 愛香

 一つ前の回を読み直して、「なんだかノロケなのか自虐なのかよく分からないお話だったなあ」と感じてしまいました。以前Sさんと付き合っていた頃、僕には同性同士の結婚願望があったにもかかわらず、Sさんに全く(?)そんな願望がなかった、という話でした(今思い返すと、Sさんって結婚願望がないというよりも、奇抜なことがとても苦手な人でした。そういえば僕が自動車免許を更新する前日に「面白い免許証を残したい」と言って髪の毛を剃ったとき、しばらく会ってくれなかったなあ。いまだに免許証を見るのを拒否してるなあ)。そのSさんの影響を受けたのか、僕自身「結婚しなくても一緒にいられればいいや」と思うようになってきていました。

さて、Sさんとお付き合いが始まって5年程経った頃、僕の目の前にEさんという別の男性が現れました。今まで会ったことのないタイプの男性で、Sさんが「安定感」を与えてくれる人だったのに対し、Eさんは「ときめき」を与えてくれる人でした。生涯一緒にいられるだろうという安心感をあたえてくれるSさんに対し、ひたむきさや「突っ走る傾向」を見せたEさんがとても刺激的で、「この人と付き合っても、わりとすぐに終わってしまうだろうなあ」と感じつつ、どうしても惹かれてしまうという経験をしました。その結果……そうです、前回書いたように、僕からSさんに別れを切り出したのです。Sさんごめんなさい。ちなみにSさんが言ったのは「パートナーというのは、片方が手を離した時点で解消なんだよ」という大変心に染み入る言葉でした。号泣したのは僕のほうでした。好きな人が出来たと言って自分から別れを切り出したくせに、本当に僕ってひどい奴ですね。ドーン!(ここまで赤裸々に書く必要があるのだろうか、と思いつつ)。

さて、新たに付き合い始めたEさんは、見事にSさんと違うタイプでしたが、同時に僕とも異なる価値観を持っている人でした。「女はこんなものだ」といったニュアンスの発言が出てきたり、「ホームレスの人も仕事を選ばなければ働き口はある」と、まるで野宿している人が好き好んでホームレス生活をしているかのようなことを言ったりする人でした(彼の名誉のために申し上げますが、今ではそんなことは全く言いません)。でも付き合う当初から、「この人とは続かないだろうな」ということを覚悟しつつのお付き合いだったため、「無理に自分の価値観に合わせてもらおうとは思わない。それは相手の価値観を尊重していないことであり、自分に都合のいい人間になってもらおうと相手をコントロールしようとしていることになりかねないのだから。良い意味で、相手に『期待しない』。」と思っていました。実は後で知ったのですが、Eさんも同じように考えていたそうです。そりゃ全く異なる価値観の人間と付き合うのだから、価値観がぶつかるのは当然です。それをぶつけ合うのではなく、また「相手に合わせる」でも「相手に合わせてもらう」でもなく、尊重しつつ折り合いをつけていく。実はEさんとお付き合いを初めて既に20年以上経ちますが、なんと一度もケンカをしたことがありません。そりゃカチンとくることもございましょうが、それは相手が「そうしたい」と思っていることを僕が受け入れていない瞬間だと思っています。「どうしてもやめてほしい」というときは、カチンときたその時ではなく、気持ちがお互いにのんびりしているときに、「そういえば、ここはこうしてほしい」と伝え合っています。大学の講義でノロケ話をしていると、よく学生から「長続きの秘訣は何ですか?」と尋ねられます。その都度、「相手に期待しないことです。相手に自分の価値観を押し付けて、相手をコントロールしようとしないことです」と答えています。

さて(3回目の「さて」ですね。悪文かも)、実はこのEさん(結局現在のパートナー)が、不思議なことに「結婚をしようとは特に思わない」という人でした。前々回ぐらいに申し上げたように、男性同士(しかも両方とも職を持っている)ということで、一人でも生きていける者が2人で生きている、ということから、「結婚」という枠組みがなくても困らない、という部分が大きいのかもしれません。一緒に暮らしているアパートでも、特に説明はしていなくても「二人の男性が仲良く暮らしている」と知られています(以前隣りに住んでおられた男女のカップルにはひょんなことからカミングアウトしてあったため、家族ぐるみ(?)のお付き合いでした)。そういうこともあり、僕の結婚願望はどんどん薄れていったと言えます。でももう一つ、「結婚を求めなくなっていった」という理由が別のところにありました。ヒントは、「彼(Eさん)は身内にはカミングアウトしていない」というところにあります。僕自身は男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師という職についていますが(それで受ける風当たりや喜びについては後日書きますね)、パートナーであるEさんは身内には誰一人カミングアウトしていないのです。すなわち「結婚」は「カミングアウトを伴う」という、とてもハードルの高いものとなっていくのです。

(続く)

 

[ライタープロフィール]

平良愛香(たいらあいか)
1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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