耳にコバン 〜邦ロック編〜 第32回

第32回 謎は謎のままで

コバン・ミヤガワ

 

「知りたいけれど、知りたくない」って、よくありますよね。

 

〝居酒屋のトイレのアレ〟も、そのひとつである。

居酒屋に行って、用を足しにトイレへ向かう。おしっこをしながら、ほろ酔いでボーっと前を向くと、必ず〝アレ〟と対峙する。

 

「世界一周の旅!」

 

居酒屋のトイレに高確率で貼ってあるあのポスター。どうしてボクは世界一周の勧誘を受けているのか。しかも居酒屋のトイレで!!!

酔った勢いで申し込む奴でもいるのだろうか。

 

つい先日、大学時代の先輩とご飯を食べていたとき、このポスターの話題になった。

先輩曰く、世界一周に行きたい人がお店にお願いしてポスターを貼ってもらい、その数に応じて費用が割り引かれるらしい。だからそこかしこに貼ってあるわけだ。

しかし、それでも疑問が残る。

 

インチキできないのか。

 

貼ったと嘘をつくことなんて容易いように思う。逐一お店を回ってお願いするなんて、相当骨が折れる作業である。そんなことを思いながら会話をしていた。

 

「いくらでもズルできそうですよね、アレ。貼りましたっ! って嘘をつけばいくらでもチョロまかせそうですけど」とボク。

「ん、アレだよ。ズルしたって後でバレたら、世界一周の途中で怖い人に船から海に放り投げられるんだよ」と先輩。

 

なぜかその一言にボクはゲラゲラ笑ってしまった。今年一番笑った。絶対そんなことないのに、想像が膨らんでしまい、おかしくてたまらなかった。何より、こんなくだらない会話をしているのがおかしかった。

しばらくゲラゲラ笑ったが、「インチキできるのか」という疑問の答えなんてなかった。あるのは、膨らんだくだらない妄想だった。調べればすぐにでも答えは見つかるのだろうが、それはしなかった。したくなかった。

 

知らないほうが、妄想が膨らんで楽しいこともあるもんです。

 

 

音楽って「さらけ出すもの」だと思うんです。自分をさらけ出すからこそ、それは「表現」になり共感を呼ぶ。今回紹介したいバンドは、逆説的だが「さらけ出さない」ことで「さらけ出す」。そんなバンドだ。

 

BEAT CRUSADERS(ビートクルセイダース)である。

 

このバンド、通称ビークルといって、1997年から2010年まで活動していた5人組のバンドである。ボクがこよなく愛するバンドの1つである。

 

ビークルの特徴と言えば何といっても「お面」である。一度見たら忘れないあの白黒パネルのお面。メンバー全員がそれぞれの顔をデフォルメした、ペラペラのお面を付けている。

お面を付けていると言えど、なかなかに強烈ないでたちのメンバーたち。AC/DCのアンガス・ヤングのコスプレをしたギター。原始人のようなドラム。辮髪のキーボード。目立つ。とにかく目立っている。

お面の理由については、全員が元々サラリーマンをしながら音楽活動をしていたからだそう。

 

また、歌詞が全曲英語というのも特徴だ。1990年代は英語で歌うバンドが多く頭角を現した時期でもありますね。ハイスタ(Hi-STANDARD)とか。

ハイスタは日本語でもきっと素敵だったと思う。しかしビークルは英語でいいんだ。いや、英語がいいんだ。曲がこんなに楽しいんだもの。照れ隠しでもいい。「とにかく音楽なんて楽しければいいんだ」と思わせてくれるし、彼らの意思も感じる。

 

パンクでロックなんだけど、すごくポップでキャッチー。激しさと可愛らしさの同居。このバランスがボクの心を掴んで離さないのである。部屋に彼らのお面を壁の高い所に貼り、崇めていたくらいだ。

人気アニメの主題歌も多く担当している。ボクと同じ世代の人にとって、ロックの入り口として、こんなに聴きやすいバンドは他になかった。アニメを観ていて、このバンドなんだ!? と思い調べたらお面が出てくるんだもの。そりゃ気になります。

「どんな顔してるんだろー」と思いながら何年彼らの曲を聴き続けたことか。

 

極めつけはライブである。ライブ中に観客に卑猥な言葉をコールさせる。「お面してるから、街角で咎められることもない」そんなことをインタビューで語っていた。まあ、面白いからいいのだが。

解散前最後のライブでは、最後の曲で新曲を歌ってのけた。「踊れるもんなら踊ってみやがれ!!!」と啖呵を切って。

 

お面のおかげか、とにかく自由な瞬間なのだ。

 

入門編として、2005年の『P.O.A〜POP ON ARRIVAL〜』をオススメして終わろうと思う。

 

 

名曲「HIT IN THE USA」や「FEEL」「JAPANESE GIRL」など、アブラノリノリのビークルサウンドを体感できる。

 

彼らは顔を隠しながら「さらけ出す」。その瞬間、彼らは真に自由で開放されているんだ。

それが元祖覆面バンド、ジャパニーズ・ポップ・パンク。BEAT CRUSADERS。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ

1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter: @koban_miyagawa
HP: https://www.koban-miyagawa.com/

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