耳にコバン 〜邦ロック編〜 第33回

第33回 ノリノリ

コバン・ミヤガワ

「ノれる」音楽について考えてみる。

ロックな話ではないが、通ずる部分はあろう。

最近は「ノる」って言葉が随分広い意味を持つようになっていると思う。「軽快なリズムの音楽」とか「踊れる音楽」を総じて「ノれる音楽」と言いがちだ。

音楽を聴いていて「今音楽にノッているな」と思う瞬間はどんな時か。それは「体が勝手に動き出す時」だ。
音楽と心臓の鼓動が共鳴し、血流に乗って音符が全身に流れるような感覚。まずは足が自然にリズムを刻み、次第に膝、腕、肩が動き出す。しまいには頭まで揺らしながらその音楽と一体になる。喫茶店なんかでノッちゃうと少し恥ずかしかったりしますよね。
それが音楽に「ノる」ということの真意なのだ。

「軽快なリズム」がノれないわけではない。しかし、重厚なリズムの中にも「ノリ」は存在する。
「踊れる音楽」というより「動いてしまう音楽」が「ノれる音楽」なのだ。

今回は、この「ノリ」の正体について解明できればと思う。

例えば『Earth, Wind & Fire(アース・ウインド&ファイアー)』の「September(セプテンバー)」はノれる曲の代名詞だ。世代を超え愛される名曲であり、あのイントロを聴いて動き出さない人はいませんよね。
昔、友人数名と渋谷の音楽バーで飲んでいた。そこには外国人を含め20名ほどの客がいたのだが、店内にこの曲がかかった途端、その場にいる全員が体を動かし、一体となってノり始めたことがある。なかなか素敵な光景だった。
この曲にはそれほどの魅力があるのだ。

何がそんなに「ノれる」のだろうか。
それは「どこで手拍子したくなるか」に気をつけてみるとよく分かる。1、2、3、4とカウントしながら聴いてみると、2拍と4拍目に手拍子が入ると思う。

これが「ノリ」の正体の1つだ。2、4拍目のビートの強調。いわゆるバックビートである。

バックビートを意識する。すると自然とリズムを取っている頭が沈む瞬間がある。リズムの「谷」とでも言おうか、その瞬間に「ノリ」が生まれる。単調でのっぺりしたバックビートではノリは生まれない。意図的にフッと沈む瞬間を作る。そこに体は共鳴するのだ。

JBの音楽は紛れもなく「ノれる音楽」だ。ジェームズ・ボンドじゃないですよ。ジェームス・ブラウンね。
JBを聴けば、足がリズムを刻んで、クネクネしちゃうワケである。

例えば「The Payback」という曲がある。イントロから頭がズンズン動いてしまう曲なのだが、この曲って少し不思議な感じがするのだ。
なんだかフワフワしている。勝手に「もったり感」なんて名付けているのだが、軽快でタイトなノリというより、フワフワしたリズムで体が動く。
この「もったり感」の正体について考えながら聴いていると、あることに気がつく。

ボクは頭を一度伸ばしてから沈めている。

ここが「ノリ」の正体のもう一つだ。リズムの伸縮である。

リズムに「谷」があるとするなら、「山」の部分とでも言おうか。その「山」をわざと高くしたり、低く勾配を広くなだらかにすることによって生まれる、独特のグルーヴ感。
「正確」ではないが、体が求める「気持ちよさ」がそこには確かにある。
きっと体の動くまま直感的に作っているからこそ、「正しくなくても気持ちいい」音楽が生まれるのではないだろうか。

昔のブルースにも同じ感覚があって、ギターのリズムの中に「もったり感」がある。最近の「踊れる曲」なんかより、古臭いブルースの方がよっぽどノれたりしますよ。

果たして日本にそのように「ノれる」曲はあるのか。ここ最近、ずっと探していたんです。
「ノリノリ! 踊れるプレイリスト!」とか「ノれる音楽特集!」みたいなものを漁っていたんです。しかし真にノれる曲は、そうそうなかった。そりゃあ黒人のリズム感や、グルーヴ感ってそうそう身につくものではない。

しかし、とうとう見つけてしまった。日本のノれる曲を……!

『上を向いて歩こう』である!

日本人なら誰でも知っている名曲、坂本九の『上を向いて歩こう』。
この曲はしっかり「ノれ」ます!!!

さあ皆さん、脳内で一緒に再生しながら考えてみましょう!

まずイントロ。木琴と思われる音色。このたった数小節にも「ノれる」秘密はある。それは、カウントしてみると気がつくと思います。

4拍目から始まっていませんか?

しかし、よく聴いてみると4拍目の音が無くても曲は成立する。ではどうして、わざわざ4拍目からイントロを始めているのか。
それは4拍目から始めることによって、最初の1拍目が強調される。すると2拍目にリズムの「谷」が生まれる。そこから2、4、2、4…… とノリが続いていく構造になっているのだ。実は「September」も、トランペットの入りも、歌の入りも4拍目なのだ。それは「山」の強調だと言えるだろう。

あのイントロがあることで、体が自然に2拍4拍で揺れませんか?
この曲は1961年に作られたのだが、ノリを意識したすごく凝った作りをしているのだ!

最近の曲なんかよりもよっぽど気持ちよくノれますよ。

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ

1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter: @koban_miyagawa
HP: https://www.koban-miyagawa.com/

タイトルとURLをコピーしました