第16回 雪が降る町
コバン・ミヤガワ
宮崎出身なもので、雪というものにあまり馴染みがない。もちろん場所によるが、めったに雪なんて降らない。降ったところで、積もることなんて尚更珍しい。
しかし、小学生の頃、雪が積もったことがある。とは言っても2〜3センチ程度だった。それでも「全員外で遊んできなさい!」と校長先生からの放送が入り、1時間目が雪遊びの時間になったことを覚えている。大したことはできなかったが、真っ白なグラウンドには胸が高鳴ったのだった。それくらい雪は特別なものなのだ。
たとえ北海道なんかに比べれば雪は降らないと言っても、ボクにとって東京は雪の降る町だ。それを決定的に印象付けた出来事がある。
あれは高校3年生の大学受験直前。その日、宮崎は冷たい雨が降っていた。翌日に飛行機で東京へ向かい、試験を受けるスケジュールだった。ボクは、いよいよ間近に迫った受験に向けて最終確認をしていた。
世界史の時間、友達と一問一答を出し合っていた時だったと思う。担任の先生が走ってやってきた。先生は着くや否や、ボクを名指しし「ミヤガワくん帰って!」と告げた。
「え?」ボクは家族の身に何かあったのかと思った。
「お母さん来てるよ! 向こう明日大雪かもしれないから、今から東京行くって!」と先生。
「あ、はい……」いまいち状況が飲み込めなかった。
「じゃっ、頑張って!」
「は、はぁ……」言われるがままボクは早退した。
誰よりも状況がわからなかったのは一緒にいた友達だと思う。
「ガワ、どうしたと?」
「よく分からんけど、なんか、今から東京行くっぽい……」
「お、おう……行ってらっしゃい」
「行ってくるわ」
正直、これまで一緒に頑張ってきた友達なのだから、「頑張ろうぜ!」「お前もな!」みたいに、お互いを激励する別れ方をしたかったものだ。
ふんわりした感じで友達と別れを告げ、駐車場に行くと母が待ち構えていた。
「明日とんでもない大雪らしいから、飛行機飛ばんかもしらん。今日中に行くよ!」
とそのまま大急ぎで準備をして、東京に向かった。
結果は大正解。次の日の東京は大吹雪。飛行機なんて飛べるはずもなかった。ホテルの窓から見た新宿は、大量の人と、連なるタクシーと、そして横殴りの雪だった。立ち並ぶビルは、一層冷たく感じられた。まさしく冷凍都市そのものだった。
こっちにすっかり慣れてしまった今でも、やはり雪の予報にはソワソワする。雪が降り始めると、しばらくその光景を眺めている。
夜中、雪が積もりだすと早速外に出て、雪化粧した道路へいちばんに足跡をつける。少し歩いて振り返ってみる。他の誰の足跡も、タイヤの痕もない、そこにはボクの足跡しかついてない道路。雪の日の密かな楽しみだ。
この冬も雪が降るのを待っている。
12月、クリスマスに大晦日とイベントが目白押し。寒くて震えているのか、ただ浮ついているだけなのか。街角では毎年、代わり映えのしないクリスマスソングが流れている。毎度耳にしているのに、どこかソワソワするから不思議なもんだ。
ということで今月は、この、新年が近づく季節にぴったりの一曲を。
「ユニコーン」というバンドがある。一度は解散したものの、2009年に再結成を果たし、結成35周年を迎える未だ現役の5人組ロックバンドである。
なんといってもフロントマンの奥田民生! ボクはこの人にどれだけ感化されてきたのだろう。飄々としていて、ぼーっとしていて、それでも歌うと痺れるくらいにかっこいい。
僕らの自由を 僕らの青春を
大げさに言うのならば きっとそういうことなんだろう
(イージュー☆ライダー)
風の終わりを見ていたらこうなった 雲の形を真に受けてしまった
(さすらい)
奥田民生の書く歌詞もこれまた、彼らしくて愛しい。書き出したら止まらないので、今回はユニコーンの話に限って話をしたい。
ユニコーンの魅力は奥田民生の存在だけではない。メンバー全員が作詞作曲を手がけ、さらには全員がボーカルを務めるバンドなのだ! しかもどれも名曲揃いときた、天才集団である。かの有名なビートルズも全員が曲を作るし、全員が歌う。これは「和製ビートルズ」と呼べるのではないか!?
そんなユニコーンが描く、この季節はどんなものなのだろう。そこで「雪が降る町」という曲をご紹介。この季節が迫ると、真っ先にこの曲が聴きたくなる。
鐘の音が鳴る、いかにもクリスマスソングっぽいイントロ。しかし、この曲はクリスマスソングではない! 言うなれば、「年末ソング」なのだ。
歌詞を見てみよう。この曲は作詞作曲、ボーカルを奥田民生が務めている。
だからキライだよ こんな日に出かけるの
人がやたら歩いてて 用もないのに
今年は久しぶり 田舎に帰るから
彼女になんか土産でも どんなもんかな
人もけしきも 忙しそうに
年末だから ああ
僕らの町に 今年も雪が降る
見慣れた町に 白い雪が つもるつもる
あと何日かで 今年も終わるから
たまには二人で じゃま者なしで
少し話して のんびりして
人も車も へり始めてる
年末だから ああ
僕らの町に 今年も雪が降る
いつもと同じ 白い雪さ つもるつもる
あと何日かで 今年も終わるけど
世の中は 色々あるから
どうか元気で お気をつけて
はいきました、一行目。奥田節の炸裂! 「だからキライだよ こんな日に出かけるの」
あのソワソワするイントロからのこの落差! さすが奥田民生である。この一行でもう痺れちゃいます。ソワソワとしている世の中と「そんなに浮つくことないだろう」という少し冷めた視点。それでも、「あと何日かで 今年も終わるから たまには二人で じゃま者なしで 少し話して のんびりして」と言っている。なんだかんだ、年末とか、クリスマスを口実に、好きなあの子に会いたいのだ。
このツンデレめっ!! この一節は、クリスマス文化を持たない日本人の核心をついているように思う。
もうひとつボクが好きなのはこの2行。
「見慣れた町に 白い雪が つもるつもる」
「いつもと同じ 白い雪さ つもるつもる」
これはボクの解釈だが、クリスマスも年末も、雪の日も、なんてことはない「日常の1ページ」に過ぎないということなのだろう。クリスマスだろうが、年末だろうが、町は変わらないし、雪が特別白いなんてこともない。いつもより少し家族や、恋人を想う日になる。それくらいのものなのだと。
街角で流れるクリスマスソングは一様に「今日は特別な日だ!」と歌う。しかし「クリスマスだって、大晦日だって365分の1日に過ぎない」と歌うこのかっこよさ! この曲は「圧倒的庶民派年末ソング」なのですっ!
クリスマスソングに飽きちゃったそこのあなた。ぜひ聴いてみてはいかがでしょう。
最後に、今年も読んでいただきありがとうございました。2021年も本当にあっという間に過ぎていきましたね。読者の皆様を始め、たくさんの人に支えてもらっております。今年もお世話になりました! 皆様に心からのお礼を。まだまだ半人前、来年もどうぞよろしくお願いします!
それでは、お体にはどうかお気をつけて。
メリークリスマス、そして良いお年を。
[ライタープロフィール]
コバン・ミヤガワ
1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter: @koban_miyagawa
HP: https://www.koban-miyagawa.com/