湘南 BENGOSHI 雪風録 第26回

「私の事件」について

山本 有紀

 

最近、祝日が多い。

しょっちゅう3連休のように感じる。休みのたびに江ノ電が混みます。

休みは、始まる時はいい。でも結局は途中で仕事をしたいなという気持ちにさせられる。

実際に仕事へ行くと、事務所が休みの日は原則電話がかかってこないので、目の前の書面作成に集中して取り組める。書面に集中できて嬉しいなあ、休みはいいなあと思う程度には仕事が好きだ。

これまで、1日単位の短期バイトも含めていろんな場所で仕事をした。いったいに自分は仕事が好きなのだと自覚するけれども、今私は「私の事件」をやっているのだという気持ちが、それを強く後押ししている。

思っていた以上にうまくいっても、絶対うまくいくと内心思ったのにうまくいかなくても、万が一ミスをしても、「私の事件」なのだという気持ちが、この仕事に対して、特別に私を必死にさせるように思う。

 

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もっとも、実際には、私が「私の事件」に与えられるものはわずかだ。

証拠が大事なんだなあと痛感する事件がこのところ続いた。

弁護士は、こういうものが証拠になりますよと依頼者にアドバイスすることはできる。

しかし基本的に証拠は、弁護士よりも先に事件にくっついて存在している。弁護士のところに相談が持ち込まれた時点で、ある程度事件が進めやすいか大変かが、証拠によって占われるといってもいい。

もっとも岡田尚先生がおっしゃるように、天から地から途中からふとしたところから(極めて重要な)証拠が出てくることもある。

弁護士は、証拠になりそうなものをとにかく依頼者から聴き取って、諦めずに集めて、わかりやすく裁判所に提出する。証拠がまずあって、その譜面として弁護士の各書面があるように思うのだった(もっとも裁判所はその譜面通りに証拠をみてくれるとは限りません……)。

弁護士のやれることはとにかく証拠に向き合うことで、あとは書面において説得的なストーリーを示し、法廷で多少の駆け引きをすることなんだろうと私は最近思うようになった。

そんな中、我ら神奈川県弁護士会のシマで、驚くべき事件が起こった。

弁護士ドットコムの記事[1]を引用すると、「国を被告とした労働裁判の弁論準備手続を、国側の指定代理人が密かに録音していたことがわかった。国側が一旦退席し、原告側と裁判所が個別に話すときも続いていた」。

裁判手続は、裁判所の許可がない限り、録音や録画をすることは禁止される(民事訴訟規則77条、78条)。

国側の代理人が裁判所に無断で録音をしたこと自体がアウトだし、よりによって、自分達が退席して他方と裁判所のみで話合いをするときに、それを録音するのはもはや盗聴である。

ニュースに書いてあるとおり、裁判では、特に和解に向けた場面で、一方当事者が裁判所と話し、それが終わると他方当事者が入れ替わりに裁判所と話すということがよくある。ぎりぎりの駆け引きの中で、事件の着地点が絞り込まれていく。

なので、それを無断で録音などされてしまうと、さっきいった微妙な駆け引きが全部筒抜けになってしまう。代理人が、互いの依頼者の利益のためになんとか頭をひねる中で、一方の考えが他方に筒抜けでは、とても公正な解決というのは見込めない。

国のやったことはずるいし、そも裁判所を、ひいては司法を軽んじた行動である。

国が、その国の司法を軽んじたのだ。

 

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横浜地方裁判所には、少なくとももう一つ、国を被告とした事件がかかっている。

横須賀にある防衛大学校学内でのいじめ事件を扱うものだ。

私は、この事件で、いじめの被害者である原告の代理人になっている。10月17日午前10時30分から次回期日がある。

担当する裁判官の顔ぶれが変わったために、事件の概要を説明する時間がとられることになった。

この事件を応援してくださっている方々にはすでに周知の事実だが、この事件で国は、防衛大学校側の手元にある、本件に関する重要な資料を廃棄したと主張している。

行政文書としての保管期間内にも関わらずだ。

 

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国の代理人は、国の事件を「私の事件」と思うだろうか。

「私の事件」は、良いこともミスも自分に乗っかってくる。ずるいこともはずかしいことも、全部自分に乗っかってくるのである。

一定の事実を司法のもとに明らかにすること(双方が共有する絶対の事実などは存在しないとしても)、公正な手続きにのっとって紛争を解決することへの目線が国に欠けていることを悲しく思う。その結果、法すら守れない国の振舞いについて、誰が、責任を取るのだろうか。

 

※今回、大変重大な問題が国によってもたらされました。そのため、予定していた「弁護士になるまで 2」から内容を差し替えています。

[1] https://www.bengo4.com/c_18/n_15105/

 

 

[ライタープロフィール]

山本有紀

1989年大阪府生まれ。京都大学卒業。
大学時代は学園祭スタッフとして立て看板を描く等していた。
神奈川県藤沢市で弁護士として働く。
宝塚歌劇が好き。

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