スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ 第4回

第4回 コラム執筆のために0を1にする全体構成の書き方とは?

スージー鈴木

 

さて、この連載「ロックンロール・サラリーマンのススメ」も、いよいよ第4回となりましたので「実践編」としたいと思います。

具体的にここから数回は、コラム・記事・雑文を、実際に書いてみるトレーニングをしてみましょう。

サラリーマン(ウーマン)にうかがいます。企画書を書くとき、どういうステップで書かれていますか? まぁ、企画書といっても千差万別ですので、一概には言えませんが、何も考えず、いきなり書き出す人はいないと思います。いたとしたら、それはかなり効率の悪い方法ですと言いたい。

普通は、全体の構成、言い換えると目次から考える人が多いと思います。例えば、

1. 市場の概況
2. 生活者の意識
3. 考えられる方向性
4. 消費者調査の結果
5. 我々の提案

ただ、私はもう一歩進んで、「それぞれのページで何を言うか」を、まず書き出していました。目次から考えても、どうせ「何を言うか」を考えざるを得ないのですから、こっちの方が早い。っていうか、そもそも企画書って「何か(=企画の背景と内容)を言う」ための書類だから。

・お茶漬け市場はめっちゃ大きい
・でも生活者は御社の商品を理解していない
・まずはネーミング「ロック茶漬け」を浸透させるべき
・調査をしたら「ロック茶漬け」の興味度はとても高い
・たから「ロック茶漬け」の広告を打ちましょう。タレントは……

で、サラリーマンの方にお伝えしたいのは「コラムも企画書だ」ということです。つまり「何を言うか」の全体的な構成から考えたほうが、絶対早く書けるということ。

ちょっとメタ構造な話になりますが、今お読みになっているこのコラムも、全体の構成から考えて書いています。嘘偽りなく、私が10分前に書いた構成の箇条書きをお見せします。

・いよいよ第4回
・書いてみよう
・雑文
・0から1
・骨子を書く
・0.3、0.6
・安堵感
・原稿メンドー
・一歩でも進めば
・形になれば
・恋するラジオ
・フォルダ
・夢

これです。さっきの企画書の骨子よりも、乱雑で感覚的ですが、これがいいのです。これの方がいいのです。

この連載でいう「ロックンロール」=表現活動って、言わば、0から1を生み出すものです。0から1、無から有。大変です。ということは、0から1に一気にジャンプするのではなく、その間に段差を付けて、0.0→0.3→0.6→1.0と、段階的に進んだほうが楽に決まっている。

上に挙げた、このコラム用の箇条書きメモは、さしずめ0.3ぐらいの位置にあります。でも0.0のとき、つまり書く前に比べて、0.3であっても、とりあえず何かを生み出せた、一歩進んだという達成感・安堵感が心に染み渡ります。

だから、頭の中にある諸々を、いち早く文字にすることが気持ちいい。もっと言えば、誤字脱字なんてOK、自分しか分からない書き方でも構いません。早く0.3に行きましょう。行ってすっきり安堵して、次に進みましょう。

※下に書いた「音楽評論出版計画」フォルダ、実際は「スージー鈴木表現プロジェクト」という名前で絶賛稼働中です。

 

 

●0の状態、無の状態から、とにかく第一歩を踏み出すこと

では次に0.6ぐらいにいきましょうか。0.3のメモを、もうちょっと具体的な文章にしていきます。でもまだ箇条書きで結構です。

・この連載も、いよいよ第4回となり実践編に入りたいと思います。
・ここから数回は、私のようにコラム、雑文を実際に書いてみるトレーニングです。

ただ、すいません。私ぐらいになってくると(=私ぐらい優秀な書き手になれば、という意味ではなく、私ぐらい雑文を量産し続けていれば、という意味)、今回の文字数だと、この0.6のステップは不要です。0.3からいきなり1.0を目指したほうが早い。

ただ、書き慣れない方は、0.6、場合によっては0.8とかのステップも加えて、用意周到に1.0の高みに登頂するのがいいでしょう。

今回の話は以上なのですけど、ちょっとだけ人生論をしていいですか? 「音楽私小説」と銘打った拙著『恋するラジオ』(ブックマン社)にこんなシーンを書きました。

 

2011年3月12日の授業が終了。震災情報に不安を抱きながら、学生たちが全員立ち去った後のひっそりとした大阪芸大の教室は、『ロックミュージック進化論』を読んだあの日の図書館のように、夕焼けの西日が差している。
ただ、あの日の図書館と少しだけ違うのは、ラジヲが今いる場所が、余震でぐらぐらっと揺れ続けていることだ。そしてその余震に合わせて、ラジヲの心も揺れている。
ラジヲは心の揺れを抑え、意を決して、ノートPCのデスクトップに、1つのフォルダを作った。フォルダの名前は「音楽評論出版計画」――その後、そのフォルダから、いくつかの音楽評論本が世に出ていくことになるのだが、それはまた別の物語である。

 

先の「0.0から1.0に段差を付ける」話は、人生における夢の実現の話につながります。0.0(サラリーマン)→1.0(ロックンローラー)という夢の実現は大変です。だとしたら段差を付けよう。そのはじめのはじめの第一歩=0.00001として、自分のPCに、夢の実現に向けたフォルダを作ることから始めましょう。

すぐに出来ます。数秒で出来ることです。でも夢の実現を託したフォルダ名が、デスクトップに配置されると、何かが起こるかもしれません。逆に言えば、フォルダを(フォルダすら)作らない人には、決して何も起こらないのではないでしょうか。

0から1を生み出す、無から有を生み出すということは、すべからくそういうことなのです。

 

 

[ライタープロフィール]

スージー鈴木(すーじーすずき)

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演etc多数。
著書…『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法』『1979年の歌謡曲』『80年代音楽解体新書』(いずれも彩流社)。近著に『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『恋するラジオ』(ブックマン社)。
ウェブ連載…「東洋経済オンライン」「FRIDAYデジタル」「水道橋博士のメルマ旬報」など。

タイトルとURLをコピーしました