第13回 はず
コバン・ミヤガワ


幼い微熱を下げられないまま 神様の影を恐れて 隠したナイフが似合わない僕を おどけた歌でなぐさめた 色褪せながら ひび割れながら 輝くすべを求めて
君と出会った奇跡が この胸にあふれてる きっと今は自由に空も飛べるはず 夢を濡らした涙が 海原へ流れたら ずっとそばで笑っていてほしい
切り札にしてた見えすいた嘘は 満月の夜にやぶいた はかなく揺れる 髪のにおいで 深い眠りから覚めて
君と出会った奇跡が この胸にあふれてる きっと 今は自由に空も飛べるはず ゴミできらめく世界が 僕たちを拒んでも ずっとそばで笑っていてほしい
君と出会った奇跡が この胸にあふれてる きっと今は自由に空も飛べるはず 夢を濡らした涙が 海原へ流れたら ずっとそばで笑っていてほしい
うーむ。あまりに有名な歌詞。 素晴らしいです。 特に1番の歌詞の解釈を書いていこうと思う。 「幼い微熱を下げられないまま 神様の影を恐れて」 「幼い微熱」とは昔の夢や、理想のことだと思う。昔の夢を捨てられないまま大人になったのだ。 どうにもならないことや理想とは異なる現実。それを「神様の影」と表現しているのではないだろうか。 「隠したナイフが似合わない僕を おどけた歌でなぐさめた」 「隠したナイフ」。この部分は草野マサムネ自身の経験が反映されていると思う。 スピッツは今でこそ優しく、キャッチーな音楽を身上にするバンドだが、草野の根っこにはパンクの精神がある。 ザ・ブルーハーツに大いに影響を受けており、「スピッツ」というバンド名にも「短くてかわいいのに、パンクっぽい名前」という想いがあるようだ。実際はパンクバンドにはならなかったわけだが。他の曲を聴いてみると、意外と尖ったことを歌っていたりする。 この根幹にあるパンク・スピリッツ。これを「隠したナイフ」で表現していると考えている。 「色褪せながら ひび割れながら 輝くすべを求めて」 生きていれば、傷ついていく。 もし人間が川の中にある宝石ならば、流れていくうちに、ぶつかり、擦れ、色は鈍くなっていく。何かにぶち当たり、ヒビが入る。 それでも輝ける日を夢見て生きていく。そんな想いが見て取れる。 ここまでがAメロとBメロである。どうでしょう。 暗い! ネガティブ! 実は意外と暗い。この不安さ、緊張感を優しい歌声とメロディーで歌っている。昔は気がつかなかったが、改めて聴くと、この優しさが不安をかき立てるようにも思う。 さてサビ。 「君と出会った奇跡が この胸にあふれてる」 これはそのまま。 うまくいかない人生で「君」に出会えたのは奇跡なのだと。 喜びでいっぱいなのだ。 「きっと今は自由に空も飛べるはず」 この部分の肝は「飛べるはず」の「はず」だと思う。 本当に直球に歌うならば「君に出会えた喜びでどこまでも飛んでいけるぜ!」みたくなるのではないか。 それを淡く「自由に空も飛べるはず」と表現している。実際に飛ぶわけではない。あくまで「気がする」という伝え方。 しかしどこまでも飛んでいけそうなくらい嬉しいのだ。 このセンス! たまりませんな。 日本語の美しさに満ちている。 「夢を濡らした涙が 海原へ流れたら ずっとそばで笑っていてほしい」 色褪せて、ひび割れて、人生という川の中でもがいている自分。 その流した涙が、川の流れと一緒に海に出る。 つまりは、時間が経つということだと思う。 時間が経っても、ずっと一緒にいて欲しいということなのだ。 サビは一転して、まろやかなラブソング。 AメロBメロで下げておいて、一気に上げる! 最高でございます。 何となく聴くと、素敵なメロディーのラブソング。 しかしそこには暗さと、不安と、緊張感が内在している。 それがスピッツ。それがスピッツのロックなのだ。 まあ、あくまでも個人的解釈なのであしからず。 改めてもう一度聴いてみるのはいかがでしょう。 ではこのへんで。 [ライタープロフィール] コバン・ミヤガワ 1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。 Twitter: @koban_miyagawa HP: https://www.koban-miyagawa.com/